妖夢の朧な夢日記-aoi
冷たいのに、あたたかい
緑髪の巫女が帰ってからというものの、
私は一人になっただけだった。
常に二人の、一人
けれど決して独りではないのだと、改めて実感する
病室に戻って、床に就く
やることなんて、これ位しかない
掃除もさっきした
良い感じに疲れているので、眠れるかと思った
思ってはいたものの、中々実行に移せない
……病室がやけに寒い
目を閉じたままだと余計に、外にいるのではないかと錯覚する
どういった事かと思案する前、
頭の、毛根が生えている部分と眼の間
何故かそこがいきなり冷えてきた
氷をあてがわれたような感じだ
恐らく、熱があれば丁度良いのだろうが……
「冷たいっ!!」
そう叫んで起き上がる
すると私の頭に手を乗せていただろう氷精が、驚いて飛び退く
「おいおい。あたいの厚意を仇にして返すなんて、良い度胸してるわね」
ぷくー、と頬を膨らませながら、起き上がった私を見つめてくる
いや、だって、熱ないんですもの
そう言おうとして口を噤む
理解してもらうまで待った方が、まだまともに会話ができるような気がした
氷精は私をじーっ、と見つめる
やがて何かしらを咀嚼し始め
事態を飲み込んだ、らしい
「分かったわ。妖夢、メンタルブレイクしてるでしょ!」
得意気にそう言って、腰に手を当てる
反応には困った
おかしいとは聞いたが、壊れているとは聞いていない
まぁ、あながち間違ってはいないのだが
表面を取り繕うように笑みを浮かべていると
「そうでしょ!文に教えてもらったんだよ!ブンヤブンヤ。はたてのを見て知ったんだが、意外と大胆だったんだなアイツ。あたいにもやってほしいよ」
何を言うかと思ったら、それか
私として都合は良いけれど、どうかそれをあまり引っ張り出さないでほしい。
青白の巫女から聞いたが、相当恥ずかしいと思っていたそうで
件の花菓子念報が出た後に、彼女の家を冷やかしついでに見に行ったら、ベッドの上で悶えていたらしいそう。
純粋な氷精に伝わってしまえば余計に彼女のプライドはずたずたになるだろう。
罪な氷精だな、そこが良いんだろうけど
「ま、まぁそこまでにしなさいな」
私は氷を象った少女を抑止する
「はぁい。それで、メンタルブレイクをしているから此処に居る訳だな?
妖夢は、寂しくないの?皆忙しそうにしてるじゃん?一人だけ此処に居て、辛くないの?」
少女は、かなり心配そうに私を見つめてくる
冷気を纏った彼女の心は驚くほど温かく
素直でこの上なく美しい。
「独りじゃないから、辛くないよ」
「そうなんだ。なら、あたいのおかげだね」
「そうね。貴女のおかげだわ」
満面の笑みを向けあって
作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃