妖夢の朧な夢日記-aoi
向き合い損ねた現実と向き合う時は、いつも恐怖する
心地よい、湯船のような現実に浸ったら
冷たい冷たい夢の中
まだ母親の胎内で眠っていたかったのに
冷たい冷たい現の中
現が夢で、夢が現
現実より苦しい夢
私はその中で、向き合わねばならぬ事を思い出した
今日、緑髪の少女が来る前に考えていた事
ヒトである事
さして重要な事ではないはずの、種族の問題
何故私はヒトにこだわった?
ヒトでない事を否定されるのを嫌がった?
何か切っ掛けがあるはずだと踏んで、考えてみるが、思い出せずにいる
夢を見たって、それが夢なのかは未だに分かりはしない
夢と分からないのが現なのではないか、そこまで考え込んでしまう
そういえば、無意識に聞いた
人と妖では生まれ方が違うとのこと
時間の経過で生まれてきたよく判らないものは、人であると
妖は噂、言ってしまえば、望まれるべくして生まれてきた憎悪の対象
人にとって抗いようのない理不尽や、ぶつけられない怒りをぶつける為に生まれてきた生物
差別して迫害して、そうして人々の平穏は、心は埋まっていく
人は望まれて生まれてこれれば、生まれてしまったなんて言われて捨てられる事もある
けれど、生まれながらにして運命が決まっている訳ではない
自分はどちらだろうか
妖より理不尽なのは人間だ、しかし
自分は望まれて生まれてきたのだろうか
けれど、生まれた時から永遠に冥界に居る事が運命として決まっている
時間の経過とともに生まれてきた
けれど、人間の里の人々にはあまり良く思われていない
お迎えが来たみたいだ、と
死を恐れている証だ
生の証
生の証?
どちらと共に持っていないではないか
死への恐れも生への執着も
妖なのか?人なのか?
どちらにもはまらない我が身を、どう生かせば良い?
そこまで来て、思い出した
そうなんだ
私は
認めてほしかったのだ
望まれたかったのだ
運命を切り開きたかったのだ
人と共に、人生を駆け抜けたかったのだ
そう思わせる人が、私には居る
けれど
何故だ
何故思い出せない
何故思い出そうとしない
夢にも出てこなかった、その姿を
それでもよく隣にいた、その姿を
共に生きていたかった、その姿を
思い出せず立ち止まってしまった自分が何よりも恨めしい
こうして立ち止まっている間にも、彼女は進んでいるというのに
止まった時の中でも、ずっと時を進めているというのに
止まった、時
―そうだ、会いに行かなきゃ。
持ち上げた身体はいつもよりも軽かった。
迷いを断った、悩みを捨てた頭は、いつもより澄み渡っていた。
現実を思い起こし、取り戻す為に。
作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃