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妖夢の朧な夢日記-aoi

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真実へ



刹那、視界が線に変わる。雲が流れ、空を、景色を置いていく。下を見る暇もなく、景色を楽しむ余裕もなく。そして分もしないだろうという内……あっという間に着いた。問題である門番は

「げ……ってなんだ妖夢もいるのか。通って良いわよ」

と、何故か快く通してくれた。美鈴さんに礼を言いながら、敷地内に入る。

「ありがとうございます」

地に足をつけて、礼を言う。いやいやそれほどでも、と言って文さんは照れた。

「そういえば、理由を訊いていませんでしたね。何故、此処に来ようと?やはり、最近此処に来ていなかったからですかね?」

そんな事を訊ねられて、私は唸る。言った所で分かるだろうか。私自身でさえも分かっていないというのに。分からない部分を取り繕うように、言葉を探す。ぼんやりとした頭の中で、掴んだ物は。

「多分それもありますが……会いたい人がいて」

彼女の瞳が、きらりと閃く。納得したかのように、うんうんと頷いて……困ったかのように、悲しい事だというのを隠すかのように、眉を下げる。神妙な面持ちで、口を開く。

「嗚呼……咲夜さんですか。お見舞い……です、よね」

咲夜。
お見舞い。
引っかかっていた何かに、触れた。押し込めていた何かが、弾き飛んだ。
思い出したくない記憶を思い起こした私は、その記憶と彼女のその表情が、何かを悼むような表情とが肺に突き刺さって息ができない。けれど、止まれなかった。歪んだ現実は、私の心をも抉っていった。

あの日の事
ぼんやりとしたあの日の事
銀髪の少女と月を見つめながら、杯を傾けていたあの日の
少女は何か、大事な事を言っていたはず、なのに
なのに思い出せないまま、無音声のままに映像は流れる
やめて、これ以上、進めないで
憶えていない情景に、制止を唱えた
なのに声は届かずに、覚めぬままに延々と

なんで

どうして、そんなことするの

貴女は言ったはずでしょう、死ぬまでお嬢様に添い続けるって

なのに、どうして貴女はそんなことするの

従者失格よ、貴女なんか

悲鳴にも似た訴えが、鼓膜に響く
それは自分の声だった
頭痛が、吐き気がする
床に咲いた、血の花
銀のナイフに映える、紅の色

そうだ
そうなんだ
彼女は

「妖夢さんっ!何をぼんやりとしているんですか!?」

「だって、咲夜が、咲夜が……」

「……確認しないことには分からない……まだ、望みはあります。急ぎましょう」

私は強く、手を引かれた。
……それもそうだ。確かめてみなくちゃ分からないんだ。私は僅かな希望を持った。
 


作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃