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妖夢の朧な夢日記-aoi

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空を翔けられるようになるまで



「ご馳走さまでした」

「ご馳走さまでした、と。ああ、着替えないといけなかったわね。ちょっと待ってね、持ってくるから」

膳を二つとも持ち、立ち上がった友人を見る。何を言っているのだろうか、と頭に疑問符が浮かんだ。が、周りを見れば分かる事で、自分が着ている服を見れば分かる事だったのだ。
夢と現が混ざりあった脳では、正しく物が見えるのかすらも危うい。現に、私がそうだったのだから。……そう、そういう事。

私は今までここに閉じ込められていた。
否、出る事を拒否した。
現から逃げていた。
夢は現の逃げ場でしかなかった。
けれど、夢のような、幻想のような現が私の夢。

友人が持ってきてくれた私服に身を包みながら、幻想に帰る事を再び心に誓う。渡された鞄を肩に掛けつつ、友人に付き添われて永遠亭の外に出た。

「それじゃあ妖夢、本当に気をつけて行ってらっしゃいね?」

「あはは。ちゃんと気をつけるわよ」

気をつけて、の部分を声を大きくして言っている辺り、本当に心配してくれているんだなと感じた。……目的を達成したら早く帰らないと、探されそうだな。そう勘が告げる。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

笑顔で手を振る友人に向かって手を振り返しながら、私は久しく飛んでいない空を仰ぎ見る。今になるまで、飛ぼうとも思わなかった空。今の私にそうさせてくれたのは、あの人……妖、だった。使っていない霊力を体に染み渡らせながら、宙に浮こうとする。中々、上手くいかない。勢いよく地面を蹴るだけの脚力、それを生み出す筋肉もなかった。自分が思っていたよりも痩せていたのだ。諦めて、地を踏みしめる。迷いの竹林を抜けられる自信はないのだが、歩くしかないのだ。しばらく俯いて、歩を進めていると、頭上から声がした。

「あやややや。やーっと外に出たのね」

「え、えーと?」

その声の主は、私に空を思い出させてくれた、彼女だった。私が視線を上げて彼女を見つめると、いつもよりもずっと明るい笑顔で見つめ返してきてくれる。

「見ていましたよ。妖夢さんが飛ぼうとしていた姿。貴女と一緒に、再び空を走る日が待ち遠しいです」

視線?あの瞬間には人影すらも見えなかったのだが……彼女は天狗。何でもありだろう。そう勝手に自分自身を納得させる。

「まだ、随分と先になりそうですがね」

望みはない訳ではないけれど、先は遠かった。

「大丈夫ですよ。いつになっても、大丈夫です。貴女が飛べるようになるまで、待っています」

「でも、」

何かを言い掛けた彼女は、顔を曇らせた。抗いようのない結末、何よりも深いその闇は、彼女の葉団扇を使っても吹き飛ばせはしない。細やかな笑いの風は生み出せるだろうが、悲惨なエンディングに対しては空虚で寂しく、冷たい風に過ぎないのだ。故に彼女は、それでも彼女は……笑い飛ばす。それが逆に頼もしく、強大な手段に見えた。そっと、唇に浮かべた、私に向けての贈り物。清く正しい贈り物。

「貴女の人間の部分が死ぬ前に、ですよ。恐らく、会えなくなってしまうから」

それを受け取った私は、確証も無しに頷いてみる。今頷かなければ、私はきっと、半身が死ぬまで飛べやしないだろうから。

「勿論。この恩を、仇で返すようなことはしません」

「妖夢さんなら信用ができますね。なら、私はそれを信じて……己のやるべき事を行うとしましょう」

彼女はそう口にすると、私の左手をそっと握った。私のそれとは反対の、右手で。包み込むというよりは、掴むように。持ち上げるというよりは、引き寄せるように。今から西洋舞踊を踊るのだろうか?そう思ってしまう程に、くるくると彼女の身体にすっぽりと収まったのだ。言ってしまえばただの抱擁なのだが、先の反省も踏まえてお姫様抱っこではなく私の腋に腕を回している点、流石天狗だと思う。プライドがお高い。貶している訳ではない。断じて。

「えっと、今後はどうするつもりですか?」

私が飛べるようになる事を信じてくれる。なら私も、彼女の何かしらについて信念を抱かなければならない。迫られている訳ではないのだけれど、誰かに言われた訳ではないのだけれど、そんな気がして。

「何を。言わないと分からないんですか?」

左耳のすぐ後ろで、ぷくー、と頬を膨らませてはすぐ空気が抜けていく音がする。……案外、可愛いのかもしれない。

「分からないですよ。私は察しが悪いのが特徴ですから」

そう言ってにへらと笑ってみせると、彼女はいかにも不機嫌そうな声でこう返す。

「全く。貴女が空を飛べるようになるまで、送り届けてあげようというボランティア精神ですよ。……まぁ、勝手に始めた事なんですが。貴女だけですよ。貴女が速いからです。そんなことはさておき……これからどこへ向かうおつもりですか?」

足元が風に巻かれる。独力では感じられなかった、夢心地。体が浮遊する。全身が冷ややかな大気に包まれる。不思議と、寒く感じなかった。

「紅魔館、です。行けますか?」

「お安い御用です。最速で向かいましょう!」

空へ。



作品名:妖夢の朧な夢日記-aoi 作家名:桜坂夢乃