We belong to earth.
We belong to earth.
U.C.0096、アクシズショックと呼ばれた出来事から三年が経過した。
ネオ・ジオンは地球連邦政府からの独立を成し遂げ、シャア・アズナブル総帥による指揮の元、眼を見張る発展を遂げていた。
拠点であるコロニー「スウィート・ウォーター」は難民収容用のコロニーだったとは思えない程生活レベルが向上し、人々の活気に満ち溢れていた。
そのスウィート・ウォーターの一画にある公園で、一組の親子が遊んでいる。
「それじゃあなた、私ちょっと行ってくるわ。この子の事よろしくね。7時にはホテルに戻るから、その後食事に行きましょう」
時計を見ながら和かに話す妻を、夫が心配そうに見つめる。
「本当に行くのかい?あまり無茶な事は…」
「大丈夫よ。心配しないで」
「お母さん、どこに行くの?」
一人で出掛ける母親に子供が尋ねる。
「あのね、お母さんの昔の知り合いに会いに行くの」
「お母さんのお友達?」
「んー、お友達…ではないかな」
「違うの?」
「ふふ、大人の付き合いは色々複雑なのよ」
子供は母親の言っている意味がよく解らず、不思議な顔をする。
「あなたも大人になったら解るわ。それじゃあね、お父さんの言うことちゃんと聞いて良い子にしてるのよ!そうしたらお土産にお菓子を買ってきてあげる!」
お菓子という言葉に、子供の表情がパッと明るくなる。
「お菓子?やった!うん!僕、お父さんの言うことちゃんと聞いて待ってる!」
「良い子ね!」
母親は子供の頭を撫でると、そのまま背を向けて歩いて行った。
ーーーー
「大佐、少し宜しいですか?」
執務中のシャアにナナイが声を掛ける。
「どうした?ナナイ」
「実は…」
ナナイは一通の手紙をシャアに差し出す。
「これは?」
「カイ・シデン氏からです。検閲に引っかかっていた為、先程こちらに届きました」
「カイ・シデン?」
シャアは手紙を受け取ると、直ぐさま開封して中を確かめる。
そして、読み終えるやいなや席を立ち、帰り支度を始める。
「大佐!?」
「ナナイ、ギュネイを呼べ、直ぐに屋敷に戻る」
「どうされたんですか?」
シャアは手紙をナナイに差し出し、中を見るように促す。
その内容を確認したナナイは目を見開き、驚愕の表情を浮かべてシャアを見つめる。
「大佐…これは…」
「ああ…。今、アムロの元には誰か居るか?」
「今日はレズン少尉が行っている筈です」
「では直ぐに連絡して、アムロへの来訪者は全て断るように指示を出せ!」
「分かりました。大佐、私もお供致します」
「ああ」
二人はコクリと頷くと、足早に執務室を後にした。
その頃、アムロは庭先で昨日から感じる気配に目を閉じて意識を飛ばす。
『誰だ?俺の知っている人物だ…』
ガーデンチェアに座り、風に身をまかせる様に目を閉じるアムロを見つめ、レズンが首を傾げる。
「アムロ大尉、どうした?体調が悪いのか?」
しかし、アムロからは返事が返ってこない。
まるで此処に魂がないかの様に意識を飛ばしているアムロに、レズンは不思議なものを感じる。
『なんだ?何かを探してる?』
そんな気がして、邪魔をしてはいけないと思い、そっとそれを見守る事にした。
意識を飛ばすアムロの脳裏に、子供用の遊具と小さな子供の後ろ姿が映る。
『まさか…!』
思わず子供へと手を伸ばした瞬間、来客を伝えるベルが鳴り響き、アムロは現実へと引き戻される。
「あっ…」
子供の肩に触れそうだった手は、触れる事なく離れてしまう。
その時、何かを感じ取った子供が不意に振り向いた。
その顔は、幼い頃の自分によく似た容貌で、不思議そうにこちらを見ていた。
「どうした?」
父親に声を掛けられた子供は、後ろを見つめて首を傾げる。
「ううん、よく分かんない。でも、誰かに呼ばれた気がする…」
現実に引き戻されたアムロは、大きく息を吐くと目を開く。何も写すことのない目を何度か瞬きさせると、不意に人の気配を近くに感じる。
「レズン少尉?」
「ああ、ようやく戻ってきたな」
「戻ってきた?」
「あんた、さっきまでどっかに意識を飛ばしてただろう?」
レズンに言い当てられて、アムロはクスリと微笑む。
「参ったな」
「で、何を探してた?」
「ん…昨日から、知った気配をこのコロニーに感じるんだ。だからそれが誰かな…とね」
「それで、分かったのか?」
「それが…」
と、アムロが言い掛けた時、廊下から家令の焦った声が聞こえてくる。
「お待ちください!勝手に入られては困ります!」
焦った様子に、レズンが顔を顰める。
「ちっ。誰も通すなってナナイから言われてんのに!」
レズンはそっとアムロを庇うように扉との間に立ち、ホルスターの銃に手を掛ける。
そして、バタンと開かれた扉を見つめると、そこには必死にその来訪者を引き止める家令と、プラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳をした美女が現れた。
アムロを殺そうとする刺客かと思っていたレズンは、その来訪者に一気に気が抜ける。
「あんた何者だい?此処が何処だか分かってるのかい?」
睨みつけるレズンに怯むことなく、その美女も返事を返す。
「ネオ・ジオン総帥 シャア・アズナブルの屋敷でしょう?それに私は貴女に用は無いわ」
「何っ!」
その不遜な態度にレズンが激昂する。
しかし、そのレズンの腕をアムロが後ろから掴む。
「レズン少尉、大丈夫だ」
そう言いながら、アムロがレズンの後ろから前へと歩み出る。
「アムロ!」
その姿を見た美女がアムロの元に駆け寄ってくる。
それと同時に、総帥府から到着したらシャア達が部屋に入って来た。
「アムロ!」
シャアが叫んだ瞬間、パシンっと乾いた音が部屋に響き渡る。
それは、美女がアムロの頬を叩いた音だった。
「馬鹿ぁ!」
そして美女はそう叫ぶと、アムロに抱きついて泣き出してしまう。
そんな彼女を、アムロが優しく抱き締める。
「ベル…ごめんよ…」
彼女の名はベルトーチカ・イルマ。かつて、カラバの一員としてアムロ達と共に戦ったメンバーであり、アムロの元恋人。
ベルトーチカはアムロに縋り付いて涙を流し続ける。アムロはそれをただ優しく受け止め頭を撫ぜる。
暫く泣いた後、ベルトーチカが顔を上げてアムロを見つめる。
そして、視線の合わない瞳に気付き、そっと両手でアムロの頬を包み込む。
「…本当に見えないのね…」
そう呟くベルトーチカに、アムロが少し悲しげに頷く。
「ベル…それよりもどうして君が此処に?」
その言葉に、ベルトーチカがムッとする。
「“それよりも”じゃ無いわよ!どうして連絡してくれなかったの!?せめて生きてる事だけでも教えてくれたら…!」
ベルトーチカの瞳からまた涙が溢れる。
「あの子が…あの子があの日…空を埋め尽くす緑色の光を見て言ったの…」
ベルトーチカはアムロの服を握りしめて、震える声で続ける。
「パパの光だって…貴方の事なんて殆んど覚えていない筈なのに…パパの心の光だって…」
「ベル…」
「だから!あの光を見た時…貴方は死んでしまったんだって思ったの…あれは貴方の命の光だったんだって…」
ベルトーチカはアムロの胸に顔を埋めてまた涙を流す。
U.C.0096、アクシズショックと呼ばれた出来事から三年が経過した。
ネオ・ジオンは地球連邦政府からの独立を成し遂げ、シャア・アズナブル総帥による指揮の元、眼を見張る発展を遂げていた。
拠点であるコロニー「スウィート・ウォーター」は難民収容用のコロニーだったとは思えない程生活レベルが向上し、人々の活気に満ち溢れていた。
そのスウィート・ウォーターの一画にある公園で、一組の親子が遊んでいる。
「それじゃあなた、私ちょっと行ってくるわ。この子の事よろしくね。7時にはホテルに戻るから、その後食事に行きましょう」
時計を見ながら和かに話す妻を、夫が心配そうに見つめる。
「本当に行くのかい?あまり無茶な事は…」
「大丈夫よ。心配しないで」
「お母さん、どこに行くの?」
一人で出掛ける母親に子供が尋ねる。
「あのね、お母さんの昔の知り合いに会いに行くの」
「お母さんのお友達?」
「んー、お友達…ではないかな」
「違うの?」
「ふふ、大人の付き合いは色々複雑なのよ」
子供は母親の言っている意味がよく解らず、不思議な顔をする。
「あなたも大人になったら解るわ。それじゃあね、お父さんの言うことちゃんと聞いて良い子にしてるのよ!そうしたらお土産にお菓子を買ってきてあげる!」
お菓子という言葉に、子供の表情がパッと明るくなる。
「お菓子?やった!うん!僕、お父さんの言うことちゃんと聞いて待ってる!」
「良い子ね!」
母親は子供の頭を撫でると、そのまま背を向けて歩いて行った。
ーーーー
「大佐、少し宜しいですか?」
執務中のシャアにナナイが声を掛ける。
「どうした?ナナイ」
「実は…」
ナナイは一通の手紙をシャアに差し出す。
「これは?」
「カイ・シデン氏からです。検閲に引っかかっていた為、先程こちらに届きました」
「カイ・シデン?」
シャアは手紙を受け取ると、直ぐさま開封して中を確かめる。
そして、読み終えるやいなや席を立ち、帰り支度を始める。
「大佐!?」
「ナナイ、ギュネイを呼べ、直ぐに屋敷に戻る」
「どうされたんですか?」
シャアは手紙をナナイに差し出し、中を見るように促す。
その内容を確認したナナイは目を見開き、驚愕の表情を浮かべてシャアを見つめる。
「大佐…これは…」
「ああ…。今、アムロの元には誰か居るか?」
「今日はレズン少尉が行っている筈です」
「では直ぐに連絡して、アムロへの来訪者は全て断るように指示を出せ!」
「分かりました。大佐、私もお供致します」
「ああ」
二人はコクリと頷くと、足早に執務室を後にした。
その頃、アムロは庭先で昨日から感じる気配に目を閉じて意識を飛ばす。
『誰だ?俺の知っている人物だ…』
ガーデンチェアに座り、風に身をまかせる様に目を閉じるアムロを見つめ、レズンが首を傾げる。
「アムロ大尉、どうした?体調が悪いのか?」
しかし、アムロからは返事が返ってこない。
まるで此処に魂がないかの様に意識を飛ばしているアムロに、レズンは不思議なものを感じる。
『なんだ?何かを探してる?』
そんな気がして、邪魔をしてはいけないと思い、そっとそれを見守る事にした。
意識を飛ばすアムロの脳裏に、子供用の遊具と小さな子供の後ろ姿が映る。
『まさか…!』
思わず子供へと手を伸ばした瞬間、来客を伝えるベルが鳴り響き、アムロは現実へと引き戻される。
「あっ…」
子供の肩に触れそうだった手は、触れる事なく離れてしまう。
その時、何かを感じ取った子供が不意に振り向いた。
その顔は、幼い頃の自分によく似た容貌で、不思議そうにこちらを見ていた。
「どうした?」
父親に声を掛けられた子供は、後ろを見つめて首を傾げる。
「ううん、よく分かんない。でも、誰かに呼ばれた気がする…」
現実に引き戻されたアムロは、大きく息を吐くと目を開く。何も写すことのない目を何度か瞬きさせると、不意に人の気配を近くに感じる。
「レズン少尉?」
「ああ、ようやく戻ってきたな」
「戻ってきた?」
「あんた、さっきまでどっかに意識を飛ばしてただろう?」
レズンに言い当てられて、アムロはクスリと微笑む。
「参ったな」
「で、何を探してた?」
「ん…昨日から、知った気配をこのコロニーに感じるんだ。だからそれが誰かな…とね」
「それで、分かったのか?」
「それが…」
と、アムロが言い掛けた時、廊下から家令の焦った声が聞こえてくる。
「お待ちください!勝手に入られては困ります!」
焦った様子に、レズンが顔を顰める。
「ちっ。誰も通すなってナナイから言われてんのに!」
レズンはそっとアムロを庇うように扉との間に立ち、ホルスターの銃に手を掛ける。
そして、バタンと開かれた扉を見つめると、そこには必死にその来訪者を引き止める家令と、プラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳をした美女が現れた。
アムロを殺そうとする刺客かと思っていたレズンは、その来訪者に一気に気が抜ける。
「あんた何者だい?此処が何処だか分かってるのかい?」
睨みつけるレズンに怯むことなく、その美女も返事を返す。
「ネオ・ジオン総帥 シャア・アズナブルの屋敷でしょう?それに私は貴女に用は無いわ」
「何っ!」
その不遜な態度にレズンが激昂する。
しかし、そのレズンの腕をアムロが後ろから掴む。
「レズン少尉、大丈夫だ」
そう言いながら、アムロがレズンの後ろから前へと歩み出る。
「アムロ!」
その姿を見た美女がアムロの元に駆け寄ってくる。
それと同時に、総帥府から到着したらシャア達が部屋に入って来た。
「アムロ!」
シャアが叫んだ瞬間、パシンっと乾いた音が部屋に響き渡る。
それは、美女がアムロの頬を叩いた音だった。
「馬鹿ぁ!」
そして美女はそう叫ぶと、アムロに抱きついて泣き出してしまう。
そんな彼女を、アムロが優しく抱き締める。
「ベル…ごめんよ…」
彼女の名はベルトーチカ・イルマ。かつて、カラバの一員としてアムロ達と共に戦ったメンバーであり、アムロの元恋人。
ベルトーチカはアムロに縋り付いて涙を流し続ける。アムロはそれをただ優しく受け止め頭を撫ぜる。
暫く泣いた後、ベルトーチカが顔を上げてアムロを見つめる。
そして、視線の合わない瞳に気付き、そっと両手でアムロの頬を包み込む。
「…本当に見えないのね…」
そう呟くベルトーチカに、アムロが少し悲しげに頷く。
「ベル…それよりもどうして君が此処に?」
その言葉に、ベルトーチカがムッとする。
「“それよりも”じゃ無いわよ!どうして連絡してくれなかったの!?せめて生きてる事だけでも教えてくれたら…!」
ベルトーチカの瞳からまた涙が溢れる。
「あの子が…あの子があの日…空を埋め尽くす緑色の光を見て言ったの…」
ベルトーチカはアムロの服を握りしめて、震える声で続ける。
「パパの光だって…貴方の事なんて殆んど覚えていない筈なのに…パパの心の光だって…」
「ベル…」
「だから!あの光を見た時…貴方は死んでしまったんだって思ったの…あれは貴方の命の光だったんだって…」
ベルトーチカはアムロの胸に顔を埋めてまた涙を流す。
作品名:We belong to earth. 作家名:koyuho