We belong to earth.
「ごめんよ…俺は…死んだと思ってて貰った方が、君とあの子の為だと思ったんだ…」
「そんなの勝手よ!どんなに心配したか…!悲しかったか!分かってるの!?貴方があの男の為に宇宙に上がった時に…貴方の事は諦めたわ!でも…心配くらいしたって良いじゃない!貴方が生きていてくれてると分かれば…幸せならそれで良いわよ!」
ベルトーチカは後ろを振り向き、シャアを睨みつける。
「ベル…」
「大体、カイ・シデンにあの子の事を調べさせるくらいなら直接会いにいらっしゃい!いくらでも会わせるわよ!」
「…ああ、カイさんバレちゃったんだ」
「アムロ!貴方、自分の息子を舐めてるの!?あの男の気配なんてバレバレよ!」
やはり息子にもニュータイプ能力は引き継がれているらしく、勘の鋭さは人並み以上の様だ。
「でも…新しい旦那さんに悪いだろう?それに俺と接触しているのが連邦にバレたらあの子に危険が及ぶかもしれない…」
「あの人は全部知ってるわ!それに、連邦にバレる?私がそんなヘマする訳ないでしょう!」
言い切るベルトーチカに、アムロは目を見開くと、ふっと笑い出す。
「さすがベルだね。俺がグダグダ悩んでた事も、君は簡単に乗り越える」
「笑い事じゃ無いわよ!」
二人のそのやり取りを、レズンが呆然と見つめ、ボソリと呟く。
「アムロ大尉、あんた奥さんと子供が居たのかい?」
シャアやナナイ、ギュネイは知っていたが、レズンは初耳で、只々驚く。
「ああ、そうか。レズン少尉は知らなかったっけ。紹介するよ、彼女はベルトーチカ・イルマ。奥さん…では無かったかな」
その一言に、ベルトーチカがアムロの頬を抓る。
「失礼ね!籍は入れてなかったけど私はそのつもりだったわ!」
「ああ…ごめん…」
完全にベルトーチカの尻に敷かれているアムロに、レズンが笑い出す。
「ははは!なんて言うか、アムロ大尉は気が強くて我儘な美人に弱いよね!」
チラリとシャアを見ながら話すレズンに、シャアがボソリと呟く。
「私はこの女ほど我儘では無い!」
「似たり寄ったりだろう?」
尚も笑うレズンに、ベルトーチカも怒り出す。
「貴女失礼よ!こんな男と一緒にしないで!それに、少し強引に行かないと、アムロは優柔不断なんだから何にも進まないわ!」
「ああ、そりゃそうだね」
「レズン少尉…」
散々な言われように、アムロが顔を痙攣らせる。
「それで、ベルトーチカ・イルマ。何をしに此処へ来た?」
少しイライラしながらシャアがベルトーチカの元まで歩み寄って尋ねる。
「何ってアムロの無事を確かめに来たに決まってるでしょう?大体貴方があんな馬鹿な事しなければアムロだって怪我をする事も無かったのよ!」
ネオ・ジオンの総帥に対して恐れる事もなく食ってかかるベルトーチカに、ナナイやギュネイ、レズンが驚く。
『『『流石はアムロ・レイと付き合ってただけはあるな。肝が座ってる』』』
「君にそんな事を言われる筋合いは無い!」
「何ですって!私はアムロを貴方に譲ってあげたのよ!感謝して欲しいくらいだわ!」
「譲ったなどと!アムロは物ではない!」
「言葉のアヤでしょう!?そう言う細かいところはをつつく小さな男って最低!」
「何!?」
揉め始めた二人の間にアムロが割って入る。
「ベル!シャア!二人とも!もう止めろ!」
「「アムロは黙ってて(ろ)」」
二人揃って叫ぶと、また口論を始めてしまう。
「もう…あなた達本当に変わらないなぁ…」
溜め息混じりに呟くアムロに、他の三人が同情の目を向ける。
「ところでナナイ大尉、どうしてここへ?まだ公務の時間ですよね?」
アムロの問いに、ナナイがカイからの手紙を手渡す。
その手紙には、“ベルトーチカにアムロの生存がバレた。◯日にスウィート・ウォーター入りする。”と、あった。
「手紙が検閲に引っかかってしまっていた為、ついさっき私どもの手に届いたのです。そして、その日付が今日だったので、急いで屋敷に戻った次第です。しかし一歩遅かったようですね」
「ははは…そうだね…」
アムロが冷や汗混じりに答える。
そして、尚も言い争いを続けているベルトーチカに問いかける。
「ベル、もしかしたらあの子もこのコロニーに来ているのかい?」
そのアムロの言葉に、二人が言い争いをやめ、同時に振り向く。
「ええ」
「何!?」
「やっぱりそうか…」
アムロはさっき意識を飛ばした先に居た子供の姿を思い浮かべる。
「そろそろ五歳になるかな…」
優しい笑みを浮かべるアムロに、ベルトーチカが問いかける。
「あの子に会う?」
「え!?」
「ここからそんなに遠くない所にある公園で、今主人と遊んでいるわ」
「でも…会ったりしても良いのかい?俺は死んだ事になっているんだろう?」
以前にグラナダで偶然会った時、彼は本当の父親は戦争で死んだと話していた。そんな人間が父親だと言って会いに行けば、きっと幼い子供は混乱してしまう。
それに、今の父親との関係が崩れてしまうかもしれない。
「…どうしてそんな事を知っているの?」
以前、グラナダで会った事を知らないベルトーチカが疑問の声を上げる。
「あ、ああ。すまない、実は一年程前かな…偶然グラナダの宙港であの子に会ったんだ。その時にそう言っていたから…」
「あ!あの時あの子が言ってた目の見えないおじさんってアムロの事だったの!?」
「…多分そうだね」
その時の事を思い出し、アムロが少し切ない顔をする。
「そう…それなら全く知らない人でも無いし…。父親とは名乗らずに、私の知人として会う?」
「…それは…」
アムロは、自分が少しでもベルトーチカと関係がある人物だと分かって、いつかあの子が本当の父親の存在に気付いてしまう事や、連邦に気付かれる危険を思うと素直に頷けなかった。
本心では父親だと名乗り出て、あの子を抱き締めたい…。けれど、自分の身勝手な我儘で、あの子を危険に晒す訳にはいかなかった。
少し思案した後、アムロは小さく息を吐くと、ベルトーチカへと自身の想いを告げる。
「出来る事なら…あの子に会いたい…でも、やっぱりあの子を危険に晒すわけにはいかないよ…だから…会わないでおくよ」
その返事に、ベルトーチカがアムロの胸ぐらを掴んで怒り出す。
「もうっ!どうして貴方はいつもそうなの!?自分が我慢すればとか思ってるでしょう?そう言う後ろ向きな考えがいけないのよ!」
「べ、ベル!?」
「もう良いわ!それなら偶然会った他人って事でどう?それなら良いでしょ?きっとあの子はグラナダで偶然会った貴方の事を覚えているから話しかける筈よ!」
「そ、そうかな…」
「そう言う子よ!」
実は、あの後、あの子がやたらと偶然会ったおじさんの事を気にしていたのだ。
おそらく父親だとは気付いていないだろうが、何かを感じていたのかもしれない。
「そうと決まったら早速行くわよ!」
「ベル!」
ベルトーチカはアムロの腕を引っ張るとそのまま連れて行こうとする。
「待て!ベルトーチカ・イルマ!」
呼び止めるシャアに、ベルトーチカが嫌そうに振り向く。
「何よ!」
シャアは一瞬言葉に詰まるが、意を決してベルトーチカを見つめる。
「アムロはまだそんなに外を長時間歩けない。近くまでエレカで送ろう」
作品名:We belong to earth. 作家名:koyuho