We belong to earth.
「ベル?」
「アムロ!私は貴方に謝って欲しくてここまで来たわけじゃ無いわ!それに言ったでしょう?貴方があの男の元に行っても構わないって!」
「ベル!?」
「あの男にアムロを譲るのは悔しいけど、私と暮らしている時も、アムロがずっとあの男を想ってたのは分かってたわ。だから子供を貰う代わりに貴方をあの男に譲ってあげたのよ!私が納得してしているんだから貴方が謝る必要はないわ!寧ろ私の我儘を聞いてくれて感謝してる。あの子は私の宝物よ!」
真っ直ぐにアムロを見据えて言い切るベルトーチカに、アムロは驚くと同時に尊敬さえ覚える。
「本当に君は凄いな。いつまでたっても君には敵わない」
「私と別れたのを後悔しても今更遅いわよ!」
「ふふ、そうだね。彼は…良い人だね」
さっき会話を交わした彼女の夫の事を思い出し、アムロが微笑む。
「でしょ?でも彼ね。私の事も愛してくれるけど、貴方の事も大好きなのよ」
「え?」
「気付いたと思うけど、彼は元カラバのメンバーよ。カラバで活動していた時からずっと貴方に憧れていたそうよ」
「え?なんで俺なんかに?」
意外だと言わんばかりのアムロの表情に、ベルトーチカが大きな溜め息を吐く。
「貴方は自分を過小評価し過ぎよ!それにあっちこっちで愛想を振りまいて!付き合ってる時も気が気じゃ無かったわ!」
「何言ってるんだよ!浮気なんてしてないぞ」
「そんなの分かってるわよ!でも周りはいつも貴方を狙ってたわ!」
アムロの鼻先を指差してベルトーチカが言い切る。
「そんな事言われても…」
それを横で聞きながら、シャアが大きく頷く。
「そうだな。アムロは自分の魅力を自覚していなさ過ぎる」
「でしょう!」
何故か珍しく気の合う二人にアムロが動揺する。
「そんな事ないよ…。俺は君たちみたいに綺麗じゃないし、平凡だし…」
その言葉を聞き、横で聞いていたナナイとギュネイが密かに心の中で頷く。
確かに、こんなハイスペックな人間が傍に居たら“自分など”と思うのは仕方ない。しかし、あの二人が言う事も理解できる。容姿だって二人の様な華やかさは無いにしても充分整っているし、あの微笑みは強烈な破壊力を持つ。
アムロを殺そうと思っていたレズンすら、今ではアムロに好意(友人としてだが)を持っている。
「まぁ、良いわ。それじゃ、私そろそろ行くわね」
ベルトーチカはアムロの振り向くと、そっと頬に親愛のキスを贈る。
「アムロは返してくれないの?」
ベルトーチカの問いに、アムロも頬にキスを贈る。
「ふふ、ありがとう」
ベルトーチカは微笑むと、くるりとシャアに振り返り、その顔を指差す。
「シャア・アズナブル!アムロを泣かせたら承知しないから!」
「貴様に言わせるまでも無い!」
その言葉を聞くと、ベルトーチカは笑顔を浮かべて子供の元へと駆け出して行った。
「じゃあね」
その後ろ姿を見守りながら、アムロはもう一度ベルトーチカに向かって「ありがとう」と呟く。
そして、シャアを振り返り、そっと微笑む。
「シャア…貴方は相変わらず綺麗だね」
シャアの顔を見て話すアムロと視線が合う事に気付き、シャアが目を見開く。
「アムロ!まさか!」
「ああ、まだちょっとボヤけてるけど…貴方の顔はちゃんと見えるよ」
その言葉にギュネイが声を上げる。
「目が!?」
ナナイも同様に驚きで目を見開く。
そして、ギュネイはさっきから感じていたアムロの違和感に気づく。
何となくいつもと違うアムロの動作、そして迷いなく子供の父親に差し出した手の位置。
『あの時、既に見えていたんだ!』
そして、その原因に思い当たる。
「まさか、さっき頭を打った時に!?」
アムロがギュネイに視線を向けて頷く。
「ああ、目が覚めた時に…ボンヤリと明かりを感じたと思ったら…少しずつ視界が開けてきて…目の前にギュネイの顔があって、呑気にも“ああ、ギュネイってこんな顔だったんだ”って思ったよ」
クスリと笑うアムロに、ギュネイの目から涙が溢れる。
「良かった…」
「何だよ、泣くなよ、ギュネイ」
そして、まだ放心状態のシャアに振り返る。
「おい、シャア。大丈夫か?」
思わず心配気に覗き込むと、両手で頬を掴まれる。
「シャア?」
そして、上向かされてそのスカイブルーの瞳と目が合う。
「本当に…見えているのだな…」
「ああ、貴方の情けない顔がよく見えるよ」
憎まれ口を叩くアムロにシャアもニヤリと笑う。
「最初に目に入ったのがギュネイの顔というのは気に入らないが、君の琥珀色の瞳に命が宿ったのは心から嬉しい…この奇跡に心から感謝したい」
「大袈裟だな」
「大袈裟なものか!」
思い切りアムロを抱きしめるシャアを、アムロもギュッと抱き締めかえす。
「これで、俺も貴方を守れるかな」
ボソリと呟くアムロに、シャアがクスリと笑う。
「それは心強いな。しかし、どんな君でも私は構わないと言ったはずだ。君の存在そのものが私にとっての救いなのだから」
臆面もなく言い切るシャアに、アムロが羞恥で顔を赤く染める。
「本当に大袈裟だな。それに恥ずかしいよ貴方」
「本当の事だから仕方あるまい」
そんな二人を、ナナイとギュネイが見ていられないとばかりに溜め息を吐くと。
アムロが二人の存在を思い出してシャアから離れる。
「わぁ!」
そんなアムロに笑いながら、ナナイが二人をエレカへと促した。
エレカの後部座席に座ると、アムロはそっと目を閉じて先程の公園へと意識を飛ばす。
そして、仲の良い三人の親子を見つめて微笑む。
『幸せに…』
「あ!お父さん、大変だ!」
「どうした?」
「僕、おじさんの名前を聞くの忘れちゃった!いつか僕がパイロットになった時どうやって知らせよう」
子供の叫びに、両親が顔を見合わせて微笑む。
「大丈夫よ、貴方とそのおじさんはきっと運命で結ばれているわ。だからまた絶対に会えるわよ」
「本当に?」
「ええ」
「でも、地球とこのコロニーじゃすっごく離れてるよ。それに地球に住んでる人とコロニーに住んでる人って仲が悪くて戦争してたんでしょ?もしかしておじさんも僕の事…」
心配そうに語る子供の頭を撫ぜながら、ベルトーチカが少し悲しげに微笑む。
「そんな事ないわ。おじさんはきっと貴方の事が大好きよ」
「本当?」
「ええ」
ベルトーチカは子供を胸に抱きしめて呟く。
「本当に…なんで戦争なんてしてたのかしら。アースノイドもスペースノイドも同じ地球人なのにね」
「それじゃ、みんなで仲良くなれば良いんだよ!喧嘩してたらごめんなさいて謝ってさ!」
その子供の言葉に、ベルトーチカは目を見開くと、そっと微笑む。
「…そうね。本当にそうね。きっと何処かの偉い人が貴方のその想いと同じ様に、アースノイドとスペースノイドを結び付けてくれるわ。貴方が大人になる頃にはアースノイドやスペースノイドなんて言葉もなくなってるかもね」
ベルトーチカは大嫌いな金髪の男にその願いを託す。
『貴方の事は嫌いだけど、その志と手腕は認めているわ。アムロをあげるんだから何があってもその理想を成し遂げなさいよね!』
私たちは皆、あのコバルトブルーの星から生まれた子供なのだから…
end
2018.3.27
作品名:We belong to earth. 作家名:koyuho