梅嶺───前ノ日───
━━━梅嶺に近付くにつれ、奴は、まるで人が変わってしまった様な、、。━━━
藺晨はそう思っていた。
何せ別人の様に動けるのだ。
病人とは思えない。
冰続丹のせい、だけでない何か、、、、。
、、、何というか、、活き活きしている、、、覇気があるのだ。
廊州にいた時でも、覇気が無かった訳では無い。
楽しそうにもしていたし、体の動く範囲ではあったが、色々それなりに精力的に、事に当たっていた。
だが、それとは違う、、、、。
梅長蘇は梅長蘇なのだが、、、梅長蘇では無いのだ。
梁軍の主力軍と共に、梅長蘇は金陵の城門を馬で出たものの、やはり馬の行軍は辛く、馬車に乗り換えた。
それでも三日は馬で頑張っていたのだ。
武人の根性とでも言うべきか。
━━━全く理解出来ぬがな、、。━━━
藺晨には武人という、生き方が分からない。
官僚という、生き方もまた然り。
さっさと馬車に乗れば良いものを、何にこだわって騎馬で行きたがっているのか。
━━━林殊だからか?、、、。林殊って何なんだ。━━━
━━━お前は病人だぞ。しかも、私の患者だ。━━━
梅長蘇、、、人一倍、めんどくさい患者。
梅嶺の大梁の砦は、すでに大渝に奪われていた。
砦を基点に、大渝は更に、梁の地を侵攻しようとしていたのだ。
大渝にとって、梅嶺を迂回して南下するのは、酷く無駄な時間を費やすことになり、南下するには必ずここを通らねばならない。
梁のこの砦があるが為に、自由に南下することを阻まれていたのだ。
大渝がこの砦を我が物にし、梁に気付かれずに、自由に南下出来るようになったとしたら、、、。
たちまちに、大渝は梁に攻め込めるのだ。
梁軍には気付かれずに。
それよりも、隠密に流通を行える。
北の寒い地に不足する物を、調達が出来るのだ。
大渝の地は寒く、作物が、梁ほどには育たぬという。
大渝にとって、梁の国は、何が何でも手に入れねばならぬ土地なのだろう。
梁の地への、侵攻の足掛かりとなる一歩が、この砦なのだ。
だからこそ、砦の奪還こそが、何より先決なのだ。
砦は、僅かな期間に、梁が守っていたときより、堅固にされているようだった。
それはそうだろう、梁が奪還しに来る事など、分かっている。
中には数千、そして砦の後ろには、2万程の大渝の軍営があった。
砦を広げるつもりなのだろう、、。
こちら梁軍は三万足らず。
圧倒的な軍の数では無い。
砦に籠られて、取り返せるのだろうか。
秘策があるのか、梅長蘇は涼しい顔をしているのだ。
「涼しい顔で、当然の様に取り返せ。この初戦が大切なのだ。大梁軍の力を見せつけねばならぬ。」
後続の部隊が到着してから、一気に攻めようと言う者がいた。
当然だった。危うい作戦を取らなくとも、確実に数で攻めた方が堅実だ。
「籠城と敵の数だけで恐れてはならぬ。この半分の梁の兵でも、梅嶺の砦は落とせる。
我々が、後続の部隊を待つほど、大渝もまた援軍が合流するだけだ。待てば待つほど、大渝の軍は膨らむぞ。
大渝も更に、梅嶺に援軍を送っている。」
梅長蘇は大渝軍の動向も掴んでいた。
「青白い、策士を気取る書生に、一体、戦の何がわかる!。」
「初戦だからこそ、安全策を取らねばならぬのに、幾らか待てば、後続の二万の軍と合流出来るのに、何故そんなに急ぐのだ。」
古参の将軍からはそんな声も上がったが、蒙摯が将軍等の声を制した。
「軍師殿は、既に決めたのだ。
軍師殿は、百戦錬磨の皇太子殿下より、この梅嶺での戦を預かったのだ。軍師殿を蔑むのは、皇太子殿下を侮辱するのと同じ事。」
蒙摯がそう言って、将軍を諌めた。
梅長蘇も知っている将軍だった。
父、林燮の友でもあった。
───かつてと変わらず、益々お元気だ。───
何だか嬉しくなってしまい、つい口元が綻んでしまう。
将軍にはその様子が不遜に映ったようで、更に怒り、顔を紅潮させている。
無視するように、蒙摯が会議を締めた。
「砦は目前だ。明日の昼には到着する。
予定通りに、到着次第に砦を攻撃し、落とすのだ。細かな配置は申し合わせた通りに。
明日、開戦となるのだ。皆、兵を休ませるように。」
その場は散会となり、主帥蒙摯の幕舎から、将軍たちは己の軍営に戻って行った。
「よく、我慢してたな、藺晨。」
藺晨が軍事会議の途中で、破裂するのではないかと思っていた。
傍にいた藺晨のイライラが伝わってきていた。
押し問答のような、会議だった。
皆、軍師に不安があるのだ。
たが、藺晨が破裂して老将に何を言っても、梅長蘇以上の説得力は無い。
その辺の新兵と変わりはないのだ。
そこは、わきまえている。
「私も後続軍と合流して、数で圧倒した方が良いようにおもうのだが、、、。」
蒙摯が一言。
「それがが正攻法だろうな。だが、大渝も梁軍がそうするだろうとみている筈だ。」
「何故、分かるのだ?。」
「この軍が、赤焔軍ではないからだ。」
「??。」
「赤焔軍ならば、戦場に着いたら、そのまま戦をするのだ。だが、赤焔軍はもういない。」
思いもかけない長蘇の言葉に、蒙摯も戦英も、返す言葉が無かった。
「いいんだ、そんなに私に気を使うな。」
長蘇が察した。
何ともない訳では無いが、決着の着いたことだった。
「赤焔軍がもういないのは、周辺国にも周知の事実だ。
赤焔軍を討ち滅ぼした謝玉と懸鏡司の夏江が、法に裁かれ死んだ事も、大渝は知っているのだろう。
そして、辺境の乱を鎮めて回った靖王は、皇太子となった。
陛下の体が思わしくない今、勇猛な靖王は金陵から離れられない。
大渝と互角に戦える、目ぼしい将軍と軍隊は、もういないと思っているのだろう。
だから、梅嶺の砦を侵攻してきたのだ。
奴らは、今こそ好機だと、簡単に勝てると思っているのだろう。」
「だがな、この梁軍は赤焔軍どころか、戦の経験のない者も多く、梁軍の分の悪さは目に見えている。
私でも分かるのだ。不安だぞ。」
藺晨が言う。
皆、不安なところだった。
「ふふふ、、、、。
それでも勝つのだ。」
梅長蘇が穏やかだが、何かを含みつつ笑った。
「正面切って戦うのは、古参の将軍達に任せるさ。我々は勝てる様に動くのだ。」
藺晨はその一言を聞いて、長蘇はてっきり前線には出ず、後衛で指示を出すのだと思っていた。
━━━意外に常識はあったな。
前線に行くのかと思っていた。いくら何でもな、、。━━━
梅長蘇は、大渝の思惑を考えていた。
恐らく大渝は、梁軍が軍幕を建てたこの場所に陣を張り、後続と合流すると。
明朝、自分たちはここを捨て、そのまま砦に進軍するのだ。
ゆっくりと梁軍兵の体調を見極め、調整しながらここまで進んで来た。
なるべく兵が、力を温存しつつ明日の奪還戦に挑めるように。
だが、大渝は合流の為、進軍を遅らせていると思っている。
戦意を消し、だが何時でも戦に挑めるよう、全軍に指示していた。
梅嶺の山岳地帯に入ると、平らな場所もそうはないが、、。
蒙摯と梅長蘇が、同じ軍幕を使うことになった。
梅長に付随して、主治医の藺晨が親兵を兼ねて、、警護の飛流も同じ軍幕に、、、、。
主帥が使う、大きな軍幕だった。
作戦会議などにも使われる、、。長蘇と藺晨と飛流の三人が間借りしても、充分な広さだった。
藺晨はそう思っていた。
何せ別人の様に動けるのだ。
病人とは思えない。
冰続丹のせい、だけでない何か、、、、。
、、、何というか、、活き活きしている、、、覇気があるのだ。
廊州にいた時でも、覇気が無かった訳では無い。
楽しそうにもしていたし、体の動く範囲ではあったが、色々それなりに精力的に、事に当たっていた。
だが、それとは違う、、、、。
梅長蘇は梅長蘇なのだが、、、梅長蘇では無いのだ。
梁軍の主力軍と共に、梅長蘇は金陵の城門を馬で出たものの、やはり馬の行軍は辛く、馬車に乗り換えた。
それでも三日は馬で頑張っていたのだ。
武人の根性とでも言うべきか。
━━━全く理解出来ぬがな、、。━━━
藺晨には武人という、生き方が分からない。
官僚という、生き方もまた然り。
さっさと馬車に乗れば良いものを、何にこだわって騎馬で行きたがっているのか。
━━━林殊だからか?、、、。林殊って何なんだ。━━━
━━━お前は病人だぞ。しかも、私の患者だ。━━━
梅長蘇、、、人一倍、めんどくさい患者。
梅嶺の大梁の砦は、すでに大渝に奪われていた。
砦を基点に、大渝は更に、梁の地を侵攻しようとしていたのだ。
大渝にとって、梅嶺を迂回して南下するのは、酷く無駄な時間を費やすことになり、南下するには必ずここを通らねばならない。
梁のこの砦があるが為に、自由に南下することを阻まれていたのだ。
大渝がこの砦を我が物にし、梁に気付かれずに、自由に南下出来るようになったとしたら、、、。
たちまちに、大渝は梁に攻め込めるのだ。
梁軍には気付かれずに。
それよりも、隠密に流通を行える。
北の寒い地に不足する物を、調達が出来るのだ。
大渝の地は寒く、作物が、梁ほどには育たぬという。
大渝にとって、梁の国は、何が何でも手に入れねばならぬ土地なのだろう。
梁の地への、侵攻の足掛かりとなる一歩が、この砦なのだ。
だからこそ、砦の奪還こそが、何より先決なのだ。
砦は、僅かな期間に、梁が守っていたときより、堅固にされているようだった。
それはそうだろう、梁が奪還しに来る事など、分かっている。
中には数千、そして砦の後ろには、2万程の大渝の軍営があった。
砦を広げるつもりなのだろう、、。
こちら梁軍は三万足らず。
圧倒的な軍の数では無い。
砦に籠られて、取り返せるのだろうか。
秘策があるのか、梅長蘇は涼しい顔をしているのだ。
「涼しい顔で、当然の様に取り返せ。この初戦が大切なのだ。大梁軍の力を見せつけねばならぬ。」
後続の部隊が到着してから、一気に攻めようと言う者がいた。
当然だった。危うい作戦を取らなくとも、確実に数で攻めた方が堅実だ。
「籠城と敵の数だけで恐れてはならぬ。この半分の梁の兵でも、梅嶺の砦は落とせる。
我々が、後続の部隊を待つほど、大渝もまた援軍が合流するだけだ。待てば待つほど、大渝の軍は膨らむぞ。
大渝も更に、梅嶺に援軍を送っている。」
梅長蘇は大渝軍の動向も掴んでいた。
「青白い、策士を気取る書生に、一体、戦の何がわかる!。」
「初戦だからこそ、安全策を取らねばならぬのに、幾らか待てば、後続の二万の軍と合流出来るのに、何故そんなに急ぐのだ。」
古参の将軍からはそんな声も上がったが、蒙摯が将軍等の声を制した。
「軍師殿は、既に決めたのだ。
軍師殿は、百戦錬磨の皇太子殿下より、この梅嶺での戦を預かったのだ。軍師殿を蔑むのは、皇太子殿下を侮辱するのと同じ事。」
蒙摯がそう言って、将軍を諌めた。
梅長蘇も知っている将軍だった。
父、林燮の友でもあった。
───かつてと変わらず、益々お元気だ。───
何だか嬉しくなってしまい、つい口元が綻んでしまう。
将軍にはその様子が不遜に映ったようで、更に怒り、顔を紅潮させている。
無視するように、蒙摯が会議を締めた。
「砦は目前だ。明日の昼には到着する。
予定通りに、到着次第に砦を攻撃し、落とすのだ。細かな配置は申し合わせた通りに。
明日、開戦となるのだ。皆、兵を休ませるように。」
その場は散会となり、主帥蒙摯の幕舎から、将軍たちは己の軍営に戻って行った。
「よく、我慢してたな、藺晨。」
藺晨が軍事会議の途中で、破裂するのではないかと思っていた。
傍にいた藺晨のイライラが伝わってきていた。
押し問答のような、会議だった。
皆、軍師に不安があるのだ。
たが、藺晨が破裂して老将に何を言っても、梅長蘇以上の説得力は無い。
その辺の新兵と変わりはないのだ。
そこは、わきまえている。
「私も後続軍と合流して、数で圧倒した方が良いようにおもうのだが、、、。」
蒙摯が一言。
「それがが正攻法だろうな。だが、大渝も梁軍がそうするだろうとみている筈だ。」
「何故、分かるのだ?。」
「この軍が、赤焔軍ではないからだ。」
「??。」
「赤焔軍ならば、戦場に着いたら、そのまま戦をするのだ。だが、赤焔軍はもういない。」
思いもかけない長蘇の言葉に、蒙摯も戦英も、返す言葉が無かった。
「いいんだ、そんなに私に気を使うな。」
長蘇が察した。
何ともない訳では無いが、決着の着いたことだった。
「赤焔軍がもういないのは、周辺国にも周知の事実だ。
赤焔軍を討ち滅ぼした謝玉と懸鏡司の夏江が、法に裁かれ死んだ事も、大渝は知っているのだろう。
そして、辺境の乱を鎮めて回った靖王は、皇太子となった。
陛下の体が思わしくない今、勇猛な靖王は金陵から離れられない。
大渝と互角に戦える、目ぼしい将軍と軍隊は、もういないと思っているのだろう。
だから、梅嶺の砦を侵攻してきたのだ。
奴らは、今こそ好機だと、簡単に勝てると思っているのだろう。」
「だがな、この梁軍は赤焔軍どころか、戦の経験のない者も多く、梁軍の分の悪さは目に見えている。
私でも分かるのだ。不安だぞ。」
藺晨が言う。
皆、不安なところだった。
「ふふふ、、、、。
それでも勝つのだ。」
梅長蘇が穏やかだが、何かを含みつつ笑った。
「正面切って戦うのは、古参の将軍達に任せるさ。我々は勝てる様に動くのだ。」
藺晨はその一言を聞いて、長蘇はてっきり前線には出ず、後衛で指示を出すのだと思っていた。
━━━意外に常識はあったな。
前線に行くのかと思っていた。いくら何でもな、、。━━━
梅長蘇は、大渝の思惑を考えていた。
恐らく大渝は、梁軍が軍幕を建てたこの場所に陣を張り、後続と合流すると。
明朝、自分たちはここを捨て、そのまま砦に進軍するのだ。
ゆっくりと梁軍兵の体調を見極め、調整しながらここまで進んで来た。
なるべく兵が、力を温存しつつ明日の奪還戦に挑めるように。
だが、大渝は合流の為、進軍を遅らせていると思っている。
戦意を消し、だが何時でも戦に挑めるよう、全軍に指示していた。
梅嶺の山岳地帯に入ると、平らな場所もそうはないが、、。
蒙摯と梅長蘇が、同じ軍幕を使うことになった。
梅長に付随して、主治医の藺晨が親兵を兼ねて、、警護の飛流も同じ軍幕に、、、、。
主帥が使う、大きな軍幕だった。
作戦会議などにも使われる、、。長蘇と藺晨と飛流の三人が間借りしても、充分な広さだった。
作品名:梅嶺───前ノ日─── 作家名:古槍ノ標