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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法5

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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法 5


 他の誰かは嫌だ。
 アンタしか…………、嫌だ。


*** Interlude V―1 ***

 インターフォンの音に弾かれたように玄関へ向かった。
「ちょっと早いけど、藤ねえかな?」
 今日のお昼も素麺だ。
 藤ねえには、きちんと教えてやらなければいけない、我が家は困窮しているんだってことを。
「それもこれも、主に、藤ねえのせいだけど……」
 藤ねえは、本当に厄介だ。バカみたいに食べる。足りないと怒る。
 じいさんがいた時はそうでもなかったのに、急に食欲が増えたんだろうか?
 ブツブツ思いながら玄関に着く。靴を半端に履いて、玄関の戸を開けたけど、そこに藤ねえの姿はなかった。
 代わりに……。
「こんにちは。士郎くん、だったね?」
 変な人がいる。
 真夏のこのくそ暑い昼間に、黒いマントと黒いシルクハットを被り、にこり、と笑った男が立っている。
 ぴしゃり、とすぐさま戸を閉めた。
 あぶない、あぶない。
 変質者だ。
 むやみに玄関を開けちゃダメだな、うん。鍵もきちんと毎度かけて、ちゃんと確認をするようにしないと……。
「あ、あのー、怪しい者じゃ、ないんだよ。えーっと、衛宮切嗣の知り合いなんだけど……」
「え?」
 閉めた戸を少しだけ開けて覗けば、そいつは困ったような顔で笑っている。
「僕はね、魔術師なんだよ」
 いつだったか、おんなじようなことを言ってた奴がいたな……。確か、魔法使い、だったっけ。
 何を隠そう、俺を引き取った養父・衛宮切嗣だけど。
 こいつも同類か、とため息が出た。
「ち、養父(ちち)の、知り合い、ですか?」
 言い慣れない言葉で訊いてみる。
「そうそう。知り合い」
 こくこく、と頷く魔術師というやつに、疑いの目を向ける。
「仕事上、関わることが多くてね。昔から、衛宮切嗣とはよく会うんだよ」
「ふーん。それで、なに?」
「うーん。まことに言いづらいんだけどねえ」
 魔術師は困った困ったと、唸っている。
「なんだよ、はっきり言えって!」
 イライラしてきたからそう怒鳴れば、
「うん、じゃあ、遠慮なく」
 にっこりと笑う魔術師が少し恐いと思った。
「あのね、お金をね、返してほしくてね」
「え……」
 思いもよらない話だった。
 ぽかん、として何も言えなくなった。
 蝉の声だけが、いつまでも耳について離れなかった。



*** Method 13 ***

「借金……」
 身体を起こし、額に下りた髪をかき上げ、アーチャーは何度か瞬いて、傍らで眠る士郎を見下ろす。
 すやすやと眠るその顔は、元々が童顔のせいか、いつにもまして子供っぽい。
「あんな子供の……時分に……」
 指の背で、そっと頬に触れると、ぴくり、と睫毛が震え、ハッとして手を引く。
「マスター……」
 目尻は赤く、瞼がまだ腫れている。
「たわけ……」
 動きはじめたと思われた聖杯は、アーチャーの機転によって収束した。庭を染めていた黒い影はなくなり、ただ泣き続ける士郎を抱きしめたまま朝日に照らされていた。身動きしない二人の影が一つのままで庭に長く伸びていた。
 士郎は震えて、静かに泣いていた。アーチャーにすべてを預け、泣き続け、そうして、やっとのことで士郎の涙は止まった。それが、もう夜が明けきった朝のことだった。
(殺したかった、消し去りたかった、過去の己……だったはず……)
 吸い寄せられるように、腫れた瞼に口づける。
(泣かれるのは……)
 とてもじゃないが、堪えた。
 あれから、泣き止んだものの、疲れ切った士郎を抱えて部屋に入り、冷え切った士郎の身体を温めるためと、いつまた黒い影なり人影なりが表立って出てくるかわからないという理由をつけて、アーチャーは添い寝をかって出た。戸惑う士郎に、そうしなければ落ち着かないとは、正直に言えなかったが、とにかく、ごり押しした。
 布団に入れば、士郎はすぐに寝息を立てはじめ、アーチャーも僅かな時間、意識が沈んで睡眠状態にあったようだ。
 サーヴァントは夢など見ないのだが、夢のようなものを見た。その夢が、士郎の過去の出来事だったようで、覚醒とともにアーチャーは呆然としてしまった。
 養父・衛宮切嗣が亡くなってすぐの頃、小学生最後の夏休みの最中と思えるある日、突然やってきた件の魔術師は、衛宮切嗣の借金を返せと言った。
「まさ……か……」
 そんなことが、と思いながら、そうだったのか、と頷ける。士郎が無謀にも直接供給などということをやらなければならない羽目に陥った理由に納得がいった。だが、そうは思っても、やはり、やりきれなくて苦いため息がこぼれる。
「なぜ、その時に……」
 士郎の赤銅色の髪を撫で梳き、再びアーチャーは横になる。
「たわけ……」
 どうして助けを求めなかった、と今さら憤っても仕方がないというのに、やるせなくなるのは、どうしようもなかった。

 昼を過ぎた頃に士郎は目を覚まし、肘枕で頭を支え、傍らで横になっているアーチャーに気づき、
「ぅ……っ、わっ!」
「む」
「うわわ!」
 叫びながら掛け布団に潜り込んでしまった。
「マスター……」
 呆れた声で呼べば、
「な、なんでっ!」
「ここにいると言っただろう」
「そ、そうだけど!」
「問題ないか?」
「…………ぅ、ん、ない」
「聖杯は?」
「今の、ところ、平気、みたいだ」
「では、マスター、」
 少し確認したいことがある、とアーチャーは掛け布団をずらし、士郎の顔を出させる。覗き込めば、赤い顔をして琥珀色の瞳を泳がせている。
「マスター、切嗣の借金は、いかほどだ」
「は? え? な、に言ってんだ、アーチャー?」
 明らかに動揺しながら誤魔化そうとでもいうのか、士郎はすっとぼけている。
「マスターの記憶を夢で見た」
「夢? サーヴァントも夢なんて見――」
「“夢”とはわかりやすい表現にしただけだ。サーヴァントは夢など見ない。ただ、マスターの記憶が流れてくる。眠っていなくともその状態は夢を見るのと変わらない。だから、夢と言っただけだ。話を逸らすな、そんな誤魔化しが私に通用すると思うのか」
「う……」
 一気にまくしたてられ、思いません、と士郎は観念した。

 まずは食事を、とアーチャーが手早く遅い昼食を作り、その手際の良さに士郎が見惚れている間にでき上がり、促されるまま食べはじめる。
 食欲はないと言っていたものの、食べはじめると案外身体の方が空腹を訴えていたのか、思いのほか箸が進んだようで、士郎はきれいに器を空にした。
「ごちそうさまでした」
 手を合わせた士郎に満足げに頷き、アーチャーは食器を下げて、ぬるめの茶を淹れる。
 ことり、と湯飲みを置いて、アーチャーも腰を下ろす。思わず士郎は居ずまいを正した。
「で? 金を返せ、と言われたのだな?」
「はい」
 居間の座卓を挟んで向き合い、士郎は正座、アーチャーは胡坐に腕組みで、衛宮切嗣の残した負債の金額と、あの魔術師との取り決めの内容を確認した。
「それが十二歳……。それから五年、ずっと続けていたのか」
「……不定期に」
「では、収入欄に半年前からしか記入されていないのは、なぜだ?」