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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法5

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「半年前に借金を完済したから、あとは、入用の時だけでって、話で……」
「完……済……」
 アーチャーは目を剥く。
「待て。一千万以上の借金だったのだろう?」
「うん」
「不定期と言ったが、頻度は?」
「ひと月に、四、五回。俺の魔力量ではそれが限界で」
 唖然としていたアーチャーは、だんだんと怒りがこみ上げてきた。
「……このっ、たわけっ!」
 びく、とその声量に士郎が肩を揺らす。
「だから、ごめんって……」
「私に謝ったところで過去のことなど、っああ、もう、お前なっ! どうして、藤村の人に言わなかった! あそこなら、利子など無しで貸し付けてくれただろうが!」
「……魔術師だとか、言えないし」
「……いや、まあ、そうだろうが…………」
 士郎の言うことももっともだ。そんな大金を何に使うのだ、と訊かれれば、借りる身としては答えなければならないだろう。
「だからといってだな……、なぜ、大人に頼るというような選択を省いたのだ……」
「そうだな……」
 士郎は俯いて、ぽつり、と答えた。
「はあ、まったく……」
 アーチャーは台所に入って、今度は熱い茶を用意して戻ってきた。座卓の角を挟んだ隣に席を移し、アーチャーは士郎の前に湯呑を置く。
「藤村の人は、お前に頼られることを喜ばない人たちではないだろうが」
「知られたら……、ダメだと思ったんだ…………」
「魔術師だということがか? そんなもの、真に受けるとは思えないがな、あの人たちが」
「違う。借金なんてしてたって……、知りたくないだろうなって……」
 藤村大河が衛宮切嗣に憧れていたことを士郎は知っていた。だから、そんなことで大河の憧れの人を穢したくないと思ったのだろう。
「お前……」
 大河を慮り、尚且つ衛宮切嗣の名誉のために黙っていたという士郎の子供心に、アーチャーはようやく気づいた。
「まったく……」
「アンタにも、恥ずかしい思いさせて、悪かったよ……」
 罪人のように身を縮めて謝る士郎の腕を掴めば、驚いた顔でこちらを見る琥珀と目が合う。
「恥ずかしいなどと、思ってはいない」
「でも、恥ずかしい生き方って、」
「ああ、あの時は言ったが……、今はそうは思わない。お前は親の名誉を守った。借金のことを聞いて一番傷ついたのは、お前自身だというのに」
「俺は、傷ついてなんか、って、え?」
 士郎を引き寄せ、アーチャーはそっと抱き込む。
「お前は親の責任を取ろうと、子供ながらに必死だったのだな……」
「ちが……っ……」
 否定しようとする士郎の頭を肩に預けさせて撫でれば、士郎はそれ以上何も言わなくなった。
「それでもお前は、相談するべきだったんだ。多少なりとも切嗣の財産もあっただろうし、藤村のじいさんなら、なんとでも手を打ってくれたはずだろう」
「……へっぽこでも、子供でも、俺は衛宮切嗣っていう魔術師の子だ。借りたものは返さないといけない。それが俺の責任だから、仕方がないんだ」
 きっぱりと言い切る士郎は、アーチャーの考えていた通り、無用の責任感を存分に発揮してしまって生きてきたようだ。
「たわけめ……。まあ、借金のことはそうかもしれないが、完済後は食費のためといえど、あのバイトは必要なかったのではないか? 切嗣の残した財産なり、貯蓄なりがあるだろう?」
「じいさんの遺産っていっても相続税でほとんど持ってかれたし、他の貯蓄は全部、藤村の爺さんが管理してるから、俺が勝手にお金を出せないようになっているんだ。若いうちから大金を持つなって、身の破滅の元凶だって言って」
「…………」
「学費とか税金とか、そのあたりの手続きと支払いは全部任せてあるんだ。じいさんの残した貯蓄で賄ってくれてる。でも、俺の生活費はバイトで稼ぐしかない。だから、借金が完済しても家計が厳しい時は、続けた。それでいいってあの魔術師も言うから、甘えさせてもらった」
「そうか……」
 それは甘えとは言わないと否定したところで理解できないはずだ、とアーチャーはため息をこぼす。
 一人で背負うには重かっただろう現実を、周りの大人に頼るに頼れず、士郎が責任感だけで凌ごうとしたのだとわかる。子供じみた考えと意地だと一笑に付すことは簡単だが、子供にとってはそれこそ真剣で、背負った責任は背負うには大きすぎて……。
 アーチャーはやはり大きなため息をつくしかなかった。
「では、これからは、その一端を、」
 士郎の頬に触れ、顔を上げさせ、
「私が担おう」
 触れた唇に士郎が気づき、身体を引こうとしたのを捕えて離さない。
「っん、……んく、」
 キスから逃げようとする士郎を追えば、畳に押し付けることになり、そのままアーチャーは圧し掛かった。もがく士郎の唇を解放すれば、
「ぅ、ちょ、な、なに、して、んだよ!」
 文句が出てきた。
「なに、とは?」
 小首を傾げてアーチャーが訊けば、
「なんで、キス、とかっ!」
 言いながら恥ずかしくなったのか、士郎は真っ赤になっている。
「ふむ。なぜ……」
 しばしアーチャーは考えてみる。だが、答えに辿り着けない。
「なぜ…………」
「な、悩むのかよ!」
 考え込んでしまったアーチャーにつっこみながら、圧し掛かっているアーチャーを押し退けようと士郎はもがいているが、まったく功を奏していない。
「なぜだろうな?」
「お、俺に、訊くなよ!」
「まあ、したくなった」
「はあ?」
「マスターも嫌ではないだろう?」
「い、い、嫌に決まってるだろ!」
「そうなのか? 私を望んだクセに?」
「う……」
 それを言われては弱い。士郎は何も言い返せなくなる。
「では、いいのだろう?」
「うぅ……」
 士郎に圧し掛かったまま頬杖をついて、アーチャーは士郎の答えを待つ。
「……………………いい……よ……」
 根負けしたのか、諦めたのか、士郎はやっと返答した。
「そうか、では、文句はないな」
 意味のないことをしている、とアーチャーは思いつつ、再び士郎に口づけた。



        ◇◇◇

(熱い……)
 アーチャーが触れた唇が夜になった今も熱くて、そっと指先で触れれば、がーっと恥ずかしさが込み上げて、士郎は脱衣所でしゃがみ込む。
「ぅ、うぅぅぅ……」
 これは、どう受け取ればいいのか、と戸惑うばかりだ。
 そして、なぜ自分はそれを喜んでなどいるのかと、士郎は頭を抱える。
(えっと……)
 まず、キスとはなんだ、というところから考えなければならない。
 思わず国語辞典を引いてしまい、その意味はというと……。
【敬意・愛情を表すために、相手の口・手・顔などにくちびるをつけること】
 何一つ当てはまらない、と士郎はさらに頭を抱えることになった。
 敬意も愛情も、アーチャーが自分に示すものではないことくらい百も承知だ。だというのに、アーチャーは……。
「うう……」
 自分たちはなんだ、と考えれば、アーチャーは士郎のサーヴァントであり、自身の未来の姿であり、敬意を表される間柄ではないし、まして愛情など、どこをどう取ればそういうものに行きつくのか、と疑問でしかない。
 そして、何よりも、大前提がある。二人して男だ。
「……俺…………男なんだけど…………」