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第三部8(108) 覚醒

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先程のミーチャの言葉がアレクセイの胸に突き刺さる。

― 本当はファーターも分かってるんでしょ?

― もう…モラトリアムは終わりだよ。

自分の失意にかこつけて、随分無為な時を過ごしてしまった。
その間に妻にかけた辛苦…。

本当は分かっていた。

妻は何も悪くないことを。

そして―、自分が浮上するときが迫り、無意識にそのタイミングを計っていたことも。

― もう、自分を…今の自分から目を逸らすのは終わりだ。

アレクセイは立ち上がると、釣竿を湖面から引き上げ、家路についた。

「ただいま…」

当たり前だが、ユリウスは勤めに出ており返事は返ってこない。

アレクセイはそのままバスルームへと向かう。

バスタブに水を張る。

「冷てぇ…」

水を張ったバスタブに浸かり、石鹸を泡立てリネンで身体中をこする。

水はひんやりと冷たく肌を刺し、アレクセイが小さく身震いする。
だけど、その水の冷たさが、強く身体をこするリネンの感触が、却ってアレクセイの心にかかった澱や蟠りまでもすっきりと洗い流してくれるようだった。

身体中を洗い流すと、身体は芯から冷え切ったものの、心と頭がすっきりと澄み渡って来る。

風呂を使った後に台所へ行き、熱いお茶で身体を暖めた後、意を決してウオッカの瓶の中身をシンクに開ける。

透明な液体がシンクに流れ消えていく。

「これでいい…」

ひとりごちたアレクセイが、上着を羽織ると、街へ出て行った。

作品名:第三部8(108) 覚醒 作家名:orangelatte