第三部10(110) Messiah ~Prelude
「しかしこのチビ助はちっともじっとしてないな」
床に下ろしたその子犬は、一緒に持って来た両端に結び目をつけた縄のオモチャを振り回したり、自分の尻尾を追いかけてグルグル回ったり、ヘレナと追いかけっ子をしたりと、ちっともじっとしていない。
「ムッター、名前どうするの?」
ミーチャに聞かれたユリウスが即答する。
「アリョーシャ」
「おい!勘弁してくれよ〜〜」
当たり前だが、同名の愛称を持つ人間から異議が上がる。
「フフ…。冗談だよ。そうだなあ。…活発でちょっともじっとしていないから、アレグロ…ううん、ビバーチェ!ビバーチェがいいや」
ー おいで!ビバーチェ。
ユリウスがしゃがんで両手を広げ、つけたばかりの子犬の名前を呼んだ。
ビバーチェ と呼ばれたその子犬は、キョトンとした顔で動きを止めて呼ばれた方を振り向いたが、一瞬の後、ー 自分の名前を認識したのかしていないかは分からないがー、呼ばれたユリウスの方へ一目散に駆け寄って行った。