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第三部10(110) Messiah ~Prelude

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「ファーター、教会行ってたんだって?どういう風の吹き回し?」

「吹き回しも何も、別に神様に祈りに行ってるわけじゃないぜ。…国は捨てても主義信条は健在だ」

その口調からも、父親はもうすっかり過去の蟠りを吹っ切ったようである。

ー よかった。
戻れないもの戻らないものに固執した所で結局その澱は他でもない当人に溜まっていくのだから、いつかどこかでスッパリ見切りをつけて前へ進まなければならなかったのだ。家族を必死に繋ぎ止め支えていた母がどうにか持ち堪えているうちに、浮上してくれて、本当に良かった。
父親の明るい表情に、ミーチャは心からそう思った。

「じゃあ何しに行ってたのさ?」

ミーチャが子犬をアレクセイの膝に下ろして尋ねる。賢い犬のようで、アレクセイがこの家の住人だと認識すると、今度は好奇心を全開にしてアレクセイの膝を登り抱っこを要求してくる。

「クリスマスイブに教会で「メサイア」を演るんだ。俺はその演奏会の発起人の一人で指揮者ってワケだ。お前たちも本番聞きに来いよ」

そう言えば父親は帰宅した時にヴァイオリンのケースを背負っていたっけ。

大好きな音楽に携わる事が出来て余程嬉しいのだろう。鳶色の瞳が少年のようにキラキラ輝いている。つい数か月程前の虚ろな瞳を湖面に向けていた父親の面影はもうどこにもない。

ー しかしまぁ…数か月ちょいで町の人と打ち解けて、のみならず中心人物になって何かをやるって…。人を惹きつける魅力とリーダーシップは相変わらずなんだな。

「うん。勿論。そうさせてもらうよ」