第三部11(111) Messiah 1
街の有志で演奏されるクリスマス恒例の「メサイア」が十数年ぶりに再開された。
以前指導と指揮をしていた男性が先の大戦で戦死してしまった為に長らく途絶えていたその伝統を、街の人間とすっかり打ち解けたアレクセイが聞きつけ、「またやろうぜ!」と奏者を募りまた自ら指導と指揮を買って出て、再結成させたものだった。
本番一月前はそれこそ毎晩練習場へ出向き、指揮を振り、指導に熱を入れ、急な結成にしてはなかなかの仕上がりとなっていたのだった。
また、合唱の指導にはユリウスもアレクセイのアシスタントとして参加し、ピアノでの伴奏などを引き受けていたのだった。
そしてイブの本番ー
「この燕尾、大事に取っておいて良かった〜」
楽屋で燕尾服に着替えたアレクセイの襟元を甲斐甲斐しくユリウスが整え、髪に櫛目を入れる。
「素敵…」
正装に身を包んだアレクセイにユリウスがウットリと呟く。
「…惚れ直したか?」
「…ぼくは、あの窓で出会った時から、…以来ずっとあなたに惚れっぱなしだよ」
そう言って潤んだ碧の瞳で自分を見上げたユリウスにどうしようもなく愛おしさがこみ上げ、アレクセイはユリウスの腰を強く抱き寄せ柔らかな唇を奪った。
「あん…人が来る…よ…」
「構うものか…」
片方の手で妻の頬を引き寄せ金の髪を指に絡めながら妻の唇を啄ばみ続ける。
そこへ
「大変だ!アレクセイ」
と、今回のメサイア演奏の発起人の一人、トランペット奏者のマルコが息せき切って楽屋に入って来た。
作品名:第三部11(111) Messiah 1 作家名:orangelatte