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梅嶺 弐───再会───

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「何処へ行ったのだ。」
梅嶺の砦を取り戻した夜、藺晨は梅長蘇の姿を探していた。
幾らか目を離した隙に、消えるように居なくなってしまったのだ。
藺晨は、砦中を探したが、梅長蘇は見つからなかった。

藺晨が知る、病弱な人間とは、まるで別人のように、寒さが増してゆく梅長で動き回った梅長蘇。
藺晨はこんな梅長蘇は知らなかった。
長蘇が、こんな力を持っていたとは驚きだ。
長蘇の配下からは、かつての林殊の姿を、聞いた事があるが、目の前の病人とは、とても結びついてはいなかった。
梅嶺への道中と、同じ人間とも思えない。
この行軍は、最初から長蘇の具合が思わしくなかった。
梅嶺に入るまで、二度、冰続丹を口にしていた。
長蘇の体が持たぬのではないかと、正直、思った。
だが、山麓に入り梅嶺の砦を奪還する数日前から、別人の様な。
全く別の人間が、長蘇の中に入ってしまったような、、、、。
━━━これが、林殊なのだろうか、、、。━━━
梅嶺に着いてからの奴は、まるで人も体も、変わってしまった、、藺晨は、そう思った。



梅嶺の中腹にある大梁の砦は、すでに大渝に奪われていた。
砦を基点に、大渝は更に梁の地を侵攻しようとしていたのだ。

梁軍は、それを一日で奪い返した。
梁の将軍達は、奪還は恐らく難航するだろう、長期戦になる、と予想していたが、軍帥、梅長蘇の作戦に大渝は翻弄され、大渝の軍営は慌て、浮き足立ったのだ。
浮き足立った軍など、敵ではない。


早朝、突然に現れた梁の騎馬兵達。
続々と梁軍二万が、騎馬兵に続き、砦前に結集した。
梅嶺の砦は、そう大きな砦ではない。
元は梁の持ち物だったのだ。
どこに弱点があり、攻める箇所は何処なのか、梅長蘇は知り尽くしていた。
当然だろう。
林殊であった頃、彼はここで戦ったのだ。



蒙摯と騎馬兵と共に、梁軍の前線に立った。
その凛とした姿に、味方も敵も、自然に誰もの視線がいった。




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....................................

戦いの前夜。
藺晨は、「馬車で指揮をしろ」と、口酸っぱくなるほど長蘇に進言したが、聞く耳を持たなかった。
「いくら身体の調子が良くても、槍や矢の雨を、お前は避けられるか??。最前線に立つな!。守りきれぬ!!。」
「最初はな、初戦のここは、私が指揮を取らねばならぬ。」
長蘇は、頑として譲らなかった。
「頑固者め!、勝手にしろ!!。私は知らぬぞ!!。お前の盾になるのは真平だからな!。」
藺晨は相当な剣幕で長蘇に食ってかかったが、長蘇は自信ありげな笑みを浮かべ、笑っているだけだった。
蒙摯も、長蘇が前線に立つのは大反対だった。
蒙摯などは、良いように長蘇に言いくるめられ、押し切られた。

緻密な作戦が練られていた。そして、砦の奪還に挑む。

夜明け前から、砦に向け梁軍は、梅嶺の麓に設営した軍営を発つ。
長蘇は、戦さを長引かせるつもりは無かった。
大きな荷物は持たず、必要な武器と共に、全軍、砦の前に結集する。
梁に面した、砦の南面を全軍で囲んだ。

峠の出入口を全て塞ぐ形で、梅嶺の砦は建っている。
大渝側の北面には、砦の中を通らねば行けぬ。
北面に行くには、砦の中を突破するしかないのだ。
だが、砦の北面のすぐ外には大渝軍の半分、二万が駐屯地していると、梁軍の斥候が報告していた。
砦だけでない、北面の大渝の兵もまた、梅嶺の要塞の続きのようなものだった。
そして、大渝軍はこの砦の他に、離れた場所に、、、赤焔事案の折、戦場になった場所近くに、三万の大渝軍が駐屯していた。

梁軍は、何部隊かに分かれていたが、それぞれ、将軍が兵を率い、ほぼ同時に砦に到着をした。
騎馬兵と共に、蒙摯と長蘇は、砦の南面に到着する。
長蘇の盾は御免だ、と言っていた、藺晨も共に行動していた。
ここで藺晨は、軍師としての、、、いや、将軍林殊を目の当たりにしたのだ。

南面に向け、整然と整列し、その中央に蒙摯と梅長蘇がいた。
「渝国よ、我が大梁のこの堅固な砦を、よくも破り占領してくれたな。ただでは済まさぬぞ。」
「大渝の勇士よ、砦を返してもらうぞ。ここは元より、梁が治める砦。我々に明け渡せば、追い討ちを掛けたりはせぬ。」
「我等が攻め込まぬうちに、早々に出て行くがいい。」
砦に向けて発する、蒙摯と長蘇の声。
宣戦布告。
蒙摯の声はもとより、長蘇の声も、澄んだ冷たい梅嶺の峰々に響き渡る。
蒙摯ならば当然だろう。
しかし、長蘇の体の一体どこから、山々に響く様な声が出てくるのだ。
藺晨は目を疑った。
━━━こんな長蘇は知らぬ。━━━
病に苦しむ長蘇の姿はここには無い。
その姿は、まるで軍神そのものだった。
江左の梅郎が、軍帥になったのは大渝にも知れているだろう。
今、この姿を見て、梅郎の「病弱説」は、完全に払拭されただろう。
長蘇は、敵を油断させる為に、さも「病弱な軍帥」を演たのだと。
大渝は、まんまと計られたと、冷や汗をかいていよう。

大渝は、蒙摯と長蘇の宣戦布告にも、応じる様子はなく、砦は静まり返っている。
痺れを切らした訳では無いが、この静寂を打破しようと思ったのか、止せばいいのに、長蘇は馬を前へと動かす。
「出るな!!、危ない!!。」
気が付いた藺晨が叫ぶ。
大渝の矢が、長蘇を狙っていた。
軍帥が誰なのかは、敵にも一目瞭然なのだろう。
砦の上から、矢が、長蘇を狙って放たれる。
藺晨が馬に乗ったまま、長蘇の前に立ちはだかり、飛んでくる矢を払い落とした。
しかし、側にいた藺晨でも、全ての矢に、対応など出来なかった。
真っ直ぐに飛んでくる矢だけではない、上からも降ってくるのだ。
長蘇の前に飛んでくる矢は払い落とせる、たが、上からの矢は、藺晨では防ぎきれぬ、、、。
大渝も間抜けでは無い、案の定、十数本の矢が長蘇の頭上から、襲いかかる。

「長蘇!!!。」
━━━長蘇に矢が、、、。━━━
たかが一本の矢なら、屈強な人間ならば大丈夫だ。
梅長蘇の場合は、体のどこかに当たっただけでも、命を落とすだろう。
雨のように降る矢を見ても、悠然としている長蘇。
瞬間、風のように飛流が飛んでくる。
飛流が上から降る矢を、全て払い落とし、一本として長蘇の体に、矢は当たらなかった。
幾らか長蘇の乗る馬が驚き、立ち上がりそうになったのを、梅長蘇が手網をひと引きして、御しただけだった。
雨のように降る矢に、動じない姿は、見事としか、、、。
その姿は、まさに百戦錬磨の戦場の将、堂々たる姿だった。
およそ、梅長蘇という人間を、よく知っている人間には、長蘇のこの慣れた風な仕草に、違和感を覚える。相応しくないような。
だが、長蘇を知らぬ人間には、無駄の無い、流れるような騎馬姿に、病弱な梅長蘇は結びつかない。
そして、長蘇と動きを共にするこの馬は、靖王の物だった。
こういった場所には、慣らされているようだった。
この馬は、靖王の愛馬だろう。良い馬だった。
靖王が、梅長蘇を守るために送ったのだ。
『勝って、自分で返しに来い』、とでも靖王は言ったのか、、、二人のやり取りは、誰にも分からなかった。