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第三部12(112) Messiah 2

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「ユリア、本番はどんなドレス着るの?」

リハーサル後参加者が持ち寄った昼食を皆で頂きながら、参加者の一人が急遽ソリストとして参加するようになったユリウスに尋ねた。

「あ!」
ー そうだった!

その質問にユリウスと、それからアレクセイがしまった という顔になる。

髪まで売ったぐらいだから、勿論外交官夫人時代のドレスなどは真っ先に売ってしまったのだろう。
それでも自分の燕尾服は売らずに大事に持っていた妻に、申し訳なさといじらしさが改めてアレクセイの胸に込み上げて来る。

ユリウスは少し困ったような顔で、今着ているウールの細身の紺のスーツを見下ろす。

「やっぱり…ソリストが足の出る服装は…まずいですよね」

「うーん。今あなたの着ているスーツもよく似合っていてとても素敵だけど…やっぱり、他の人との釣り合いもあるしね…」

その場が困ったようにシンとなる。

そのやり取りを一部始終見ていた町長夫人(音楽好きな夫妻で、夫婦揃って合唱に参加していた)が、少し離れた場所でミートパイに舌鼓を打っている夫の町長に呼びかける。

「あなた!」

細君に呼び止められた町長がミートパイを頬張りながら細君の方を振り向く。

「何だい?お前」

ミートパイをコーヒーで流し込んだ町長に、

「ちょっと取りに行きたいものがあるから、屋敷まで車を出してちょうだい」

と傲然と言いわたす。

昼食を中断して車を出せと言われた町長は、妻のその我儘に、やや不満を覚えたようで、チラリとテーブルに広げられた持ち寄りのご馳走を横目で見ながら、

「今でないとダメなのかい?お前。…何も昼食中に…」

と一応の抗弁を試みる。

そんな夫に

「今必要だから今言ってるのよ!分かったらサッサと車を出して頂戴!」

と一喝する。

妻の迫力に縮み上がった町長は、ファルセットで「はいぃ!」と返事すると、スタコラと車を出しにガレージへと向かった。

「ユリアさん。ドレスの事は何も心配いらないわ。私に任せなさい」

そう言って貫禄たっぷりの笑顔をユリウスに投げかけると、自分もその場を後にした。