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第三部13(113) Messiah 3

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その数分後、町長夫人は両手に何着ものドレスを抱えて戻って来た。

女性参加者全員で早速ユリウスの本番のドレスの選考に取り掛かる。

楽屋の姿見の前でユリウスに持って来たドレスを次から次へと当ててみる。

「これは?」

「ちょっと彼女の雰囲気とは違うわね」

「これはどうかしら?」

「教会でメサイアを歌うには、ちょっと派手?」

「じゃあ、これは?」

ユリウスの身体に当てたのは、優しいオフホワイトのシルクシャンタンのドレスだった。
ユリウスのミルク色の肌によくなじみ、また裾と共布のストールに施された金糸の刺繍が彼女の金の髪とリンクされている。

「これ…いいじゃない!」

「ステキね。メサイアの雰囲気にも良く合ってる」

「これにしましょ。ユリアさん、着てみてくれる?」

「はい」

ユリウスが着ているスーツを脱ぐ。
ふと町長夫人の目がユリウスの右腕にある銃槍に行く。

「あ…」
ー その…これは…。

気まずそうにその跡を手で隠しかけたユリウスに

「あら、種痘の跡、結構深く残っちゃったのね…」

と、町長夫人がその銃創に指を滑らせて言った。

「でもね、やっぱり種痘はした方がいいのよ。でないと万が一天然痘にかかりでもしたら、あなたの綺麗なお顔が台無しになってしまったところでしたからね」

この静かで平和な街で生まれ育ったこの名士夫人は、ユリウスの銃創をどうやら種痘の跡と思い込んだようである。思わずユリウスがプッと吹き出した。

「あら、どうしたの?」

「いえ…。そうですね。やっぱり種痘は大事…ですよね」

自分の腕の銃創に目を落としたあと、ニッコリ笑ってそう言った。

「そうよ。私の大伯母がね、やっぱり…」

「町長夫人、時間がないからその話は後後!」

その場にいた人間が町長夫人の話を遮る。

「そうね。…さ、じゃあ急ぎましょうか」

町長夫人のドレスにユリウスが身体を滑り入れた。

作品名:第三部13(113) Messiah 3 作家名:orangelatte