【青エク】(サンプル)ブルールビー、レッドサファイア
MAZY MAZE
「私は『捕獲』をお願いしたと思うんですがねぇ☆」
執務室の重厚な机の上に置かれた箱を見て、肘を突いて両手を組んだメフィストは大仰なほどに溜め息を吐いた。大きな机を挟んで立つ奥村兄弟は居心地悪さで僅かに視線を逸らしながら、神妙な顔をなんとか保って目の前の悪魔の言葉を聞いている。
「これはこれは、なんと無残な姿」
箱から赤と青の宝石だったものを取り出して、部屋の明かりでためつすがめつして透かして見ては、ぐすん、と一つ鼻を啜って、濡れてもいない目元をハンカチでわざとらしく拭いてみせる。
「ヒビ割れて……。おや、他の鉱石も混ざって。これは……、ふぅむ、元はこうした石でしたか」
やれやれ、ともう一つ大きく溜め息を吐いてメフィストはルビーとサファイアを箱に戻す。
「お安いものではなかったんですがねぇ」
そう言うと、いかにも座り心地の良さそうな椅子の、高い背もたれに背中を預けた。
「この宝石が生まれたのは中世から近世に移ろうという頃でしたかねぇ」
打って変わってメフィストは遠い目をする。まるで自分の目で見たその頃を思い出しているように。
「ある錬金術師がとある研究の途中で、偶然手に入れたものなのですよ」
メフィストが話した研究とは、人造人間だった。錬金術は近代科学を生み出し、一方で魔術や超自然的存在との親和も高く、オカルティズム、そして容易にサタニズムへも結びついた。
「もともと、とある金満家が錬金術に懲りましてねぇ。黄金を練成するための、賢者の石を生み出そうとしていたところへ、これらの悪魔が憑依したとか。その一家は、ありもしない賢者の石、金、そしてその所有を廻って醜い争いを繰り返した挙句、誰も生き残らなかったと聞いています。もとは仲のいい家族だったのですけれどねぇ☆ 人間の欲はあっけなく絆を壊すものなのですねぇ」
メフィストは恐らく誰が聞いても八割以上があまり楽しくないと感じるだろう話題を、あっけらかんと話す。雪男はいつもそこに、ちりりと不快感を抱く。
作品名:【青エク】(サンプル)ブルールビー、レッドサファイア 作家名:せんり