【青エク】(サンプル)ブルールビー、レッドサファイア
「で? どうだった?」
燐が病院に併設されているコーヒーショップに入って来るのを目の端で捉えて、タブレット端末を操作していた雪男が声を掛けた。チェーンのコーヒーショップで、軽食や調理パンを提供する店だ。コーヒー一杯の単価としてはやや高めの店だが、昼間だからか、見舞客や通院の患者らしき人や、病院の検査着を着た人、休憩中の病院職員と思しき人々で店内の席はそこそこ混んでいる。テンポの良い、だがうるさくはないほどの音楽に混ざって、ざわざわとした人の話し声やマグカップなどが木製のテーブルに触れる音がしていた。
「俺もコーヒー」
燐は唐突にそう言うと、踵を返す。そしてショーケースに並んだパンやケーキを物欲しそうに眺めながらも、コーヒーを注文し、マグカップを手に帰ってくる。どさりと投げ出すように雪男の向かいに座ると、ズズズ、とコーヒーを啜り、うーん、と一声唸った。
「どう言う意味の、うーん、なの?」
雪男は騎士團への進捗報告を打っていた手を休めて尋ねる。
「いる。でもスッゲー弱いんだよな」
燐が自信なさそうな声で呟く。
「憑いてるかどうか判らない、と?」
雪男の言葉に、燐はもう一つ悩んで、違う、と首を振った。
「いる。いるんだけど……、スゲー弱くて、でもいないわけじゃねーんだよな」
言葉が見つからないらしく、腕を組んで首を傾げては、はっきりしない言葉を重ねる。
「憑依したまま、気配を隠してるとか、隠れ潜んでいるとか」
「あー……、そんな感じ……かな」
しっくりこない、でも他に良い言葉が見つからないようで、燐はイマイチすっきりしない顔でそう答える。
「あ、そうだ。入院費とかどーすんだって聞かれた」
「ああ、それなら今回は騎士團持ちだから」
「ちゃんと言っといてやんねーと。心配そうだったぞ」
燐の言葉に、雪男もそうかと納得する。悪魔も正十字騎士團も知らない人たちならば、悪魔憑きかどうかの検査で入院も初めてだろうし、不安だろう。確かに費用に関しては説明が欠けていたと反省する。
作品名:【青エク】(サンプル)ブルールビー、レッドサファイア 作家名:せんり