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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法7

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不幸少年と幸運E英霊の幸福になる方法 7


 アーチャーは受け入れてくれるって、聖杯(あいつ)は言ったんだ。
 だから――――。


*** Method 18 ***

(私は、何をしているのだろうか……)
 アーチャーは、天井板の節目を一つ二つと目で追い、今、現状を鑑みるに……、と考えながら、空いた手で目元を覆った。
「あー……、ああ、そうだな、まあ…………」
 全く言い訳が浮かばない。
 とりあえず、全身全霊でため息をつく。
「やってしまった……」
 掠れた声が漏れた。
(世の男たちの多くは一生のうちに最低でも一度や二度、こんな経験をするのだろうな……)
 生前の己はそのうちには入らなかったが、それを今、この、英霊という存在になってからやってしまっている。
 生前にも経験がないことを、アーチャーはこの状態で、しかも相手が過去の己という、ともすれば気を失いそうな、この現状で……。
「だが……」
 士郎が腕の中にいるというのは、やたらと安心してしまう。
 すべてを預けられている、ということに何やら胸が高鳴る。
「重症だ……」
 ありえない、と頭痛を覚えながら何度も繰り返すのだが、受け取ってしまう感覚を誤魔化すことはできない。
「あー……っと、だな……」
 同意は得ていた。
 アーチャーが抱いてもいいかと訊けば、士郎は、いい、と頷いた。したがって、罪ではない。どうしようもなかったのだ、という言い訳はできる。
「いや……」
 士郎にはそれができるが、己にはどうしようもない理由などない。
 ただ、欲しかった。
 何よりも、士郎を抱きたいと思った。
 あんな衝動に駆られたのは、後にも先にも初めてのことだった。
 あの黒い人影と直接供給をする士郎に腹が立って、アーチャーはやめさせようとした。
(我慢が、ならなかった……)
 聖杯が作った偽アーチャーを消すためだとしても、己以外の者に簡単に触れさせるのかと、アーチャーは腹を立てたのだ。
(どうかしている……)
 なんの独占欲だ、とアーチャーは目元を覆った手を額にずり上げ、また、天井を見つめた。
(少し、冷静にならなければ……)
 士郎にベタベタと貼りつく黒い人影も消えたことだし、不愉快になることもないだろうと、アーチャーは努めて落ち着け、と自身に言い聞かせた。



「アーチャー、いいかしら?」
 障子戸の向こうから控えめな声が聞こえる。
 腕の中では、士郎がいまだ穏やかな寝息を立てていた。
「アーチャー?」
 士郎を抱き寄せる腕をそっとほどいて身体を起こす。障子の向こうの影は凛のようだ。
 立ち上がり、障子を静かに開ければ、少し心配そうな顔で凛が見上げてくる。
「あれから問題はない? 衛宮くんは、大丈夫?」
 士郎を起こさないようにとの配慮だろう、凛は小声で話す。
「ああ、あの影は出てこない。マスターは眠っているだけだ」
「そう。私たち、そろそろお暇しようと思うの。衛宮くんはなんだか疲れている様子だし、ゆっくり休ませてあげて」
「ああ、悪いな。食事も用意できず、」
「いいの、いいの。桜と一緒に楽しく作ったから。食材は勝手に使わせてもらったけれどね。あなたたちの分も置いておいたわよ」
「助かる」
「じゃ、そういうことで。また明日、来るわね」
 そのまま立ち去ろうとする凛を見送るために、アーチャーも士郎の部屋を出た。
「衛宮くんの傍にいなくていいの?」
「問題ないと言っただろう?」
「ふーん」
 凛が何やら含みを持った相槌を打つ。
「なんだ、何か言いたげだな?」
「衛宮くんじゃなくて、アーチャーが、よ」
「は?」
 凛の返答にアーチャーは思考停止に陥った。凛の言葉の意味がわからない。
「アーチャーが傍にいたいんじゃないの?」
 噛み砕くように言われて、すぐに否定しようとする。
「なに……を……」
 馬鹿げたことを、と言おうとした声は続かなかった。
「衛宮くんは、あの聖杯が作った人影がアーチャーと全く同じだって言っていたでしょ?」
「あ、ああ」
「だから、そうなのかと思って」
「……何が、そう……なのだ……?」
「うーん、だからね、あの人影は、アーチャーと同じなんじゃないかって、思って」
「…………」
「衛宮くんが直接供給するってことになってから、不機嫌だったじゃない、ずっと」
「そんな、ことは……」
「あの偽アーチャーは、あなたと鏡映しなんじゃないかなーって、そんな気がしたの。間違っていたら謝るわ。私がそう感じただけだから、確証はないし。ま、気にしないで」
 凛は笑いながら言って、玄関で待っていた桜とライダー、セイバーとともに帰宅していった。
「鏡……映し……」
 しばらく誰もいない玄関に立ち尽くし、アーチャーは呆然と凛の言葉を反芻していた。
 偽アーチャーと同じだ、と凛は言った。どこが同じなのかといえば、おそらく士郎に執着しているところだろう。
「私は、そんなことは……」
 ない、とは言い切れない。凛に指摘された通り、不機嫌だったのは認めたくはないが事実だ。しかも、凛に気づかれるほどあからさまに……。
 少々眩暈を覚えながら、玄関を後にする。見慣れた障子の前に立ってハッとした。
 アーチャーの足が向かったのは、居間ではなく士郎の部屋だ。そして既に、引き手に指先が触れている……。
「っ……」
 慌てて手を引いた。すぐさま踵を返す。無意識に向かった先が士郎の部屋だという事実に、ますます動揺する。
(冗談じゃない……、冗談じゃ、ないッ!)
 自身が何に焦っているのか、アーチャーは考えたくもなかった。


(傍にいたい、だと?)
 洗濯物をたたみながら、アーチャーは凛の言った言葉の意味を考えている。家事をしているうちに、心は平穏を取り戻した。彼女が投げかけてきた言葉が、いろいろと腑に落ちない。だが、凛の言葉を真っ向から否定してやろうと、真っ当な理由を探したがロクに思いつきもしない。
(私のどこをどう見誤ったら、そんなふうに……)
 凛の直感に呆れつつも、見透かされたような焦りを感じる。
 ただ、そう言われることに、アーチャーは思い当たる節がないでもない。
 安心させろと言ってセックスをした。あの黒い人影が現れて、何かあっては、とずっと添い寝をしていた。あの影を消すために直接供給をしなければ、と士郎に伝える時は、その身体を抱きしめて……。
「頭から……否定はできない……」
 自身の行動を振り返ると、凛の言う通りだと認める要素が出てくる。
「は……」
 苦いやら甘いやら、どっちつかずのため息をこぼし、凛に言われたために忌避していた士郎の部屋へと向かうことにする。
 そろそろ心配になってきたのだ。午前中に凛たちを見送ってから夕方になる今まで、アーチャーは極端に士郎の部屋を避けていた。
 洗濯をし、片付けをし、家事に勤しんで士郎のことを頭の隅へと追いやっていたが、もう限界だった。認めたくはないが、顔を見ていないと、すぐ手の届くところにいないと、落ち着かない。
「厄介な……」
 こんな感情を湧かせている己が、本当に信じられない。だが、足が嬉々として向かう。普段よりも早足になる。
「む……」
 それに気づき、速度を落とした。
「私は……何を……」