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白い闇4

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白い闇4


医務室を飛び出したアムロは、手錠をしたままアーガマ内を走る。
その目は虚ろで、ただ一点を目指していた。
「大尉!血痕が!こっちです!」
「アムロ…傷口が開いたか…」
「急ぎましょう!」
アムロを追うクワトロとカミーユは通路に点々と残る血痕を辿りながらアムロを探す。
「カミーユ!気をつけろ、アムロは今正気じゃない。一切手加減してこないと思え」
「大丈夫です、腕には自信があります」
空手のチャンピオンであるカミーユは素手での接近戦になっても負けない自信があった。
「油断するな!アムロは七年前、素人同然だったにも関わらず、軍事訓練を受けた私と白兵戦で互角に戦った男だ!」
「え?大尉と!?」
「そうだ、それに…今のアムロは錯乱して痛みすら感じていないかもしれない…」
手術をしたばかりで、本当ならば歩くのすら辛いはずだが、傷口が開く事すら気にせず走り続けている。
「大尉!」
角を曲がった先の通路には何人ものクルーが倒れている。
「この人数を一人で!?」
「チッ!アムロの奴、完全に正気を失っているな。手加減のカケラもない」
倒れているクルー達はなんとか息はあるようだが、皆起き上がれない状態だ。
アムロが手錠をしていなければ命が危うかっただろう。
「大尉!あそこ!」
カミーユの指差す先に、アムロの後ろ姿が見える。
アムロが通路の角を曲がったその瞬間、誰かの叫び声が聞こえる。
「わぁぁぁ」
「まずい!また誰かやられたか!?」
声のした所まで行くと、アムロがクルー数人を相手に大立ち回りを繰り広げていた。
腕を拘束された状態でも、流れるような動きで数人の男たちを軽々と倒していく。
「凄い…」
思わずカミーユの口から感嘆の声が上がる。
「カミーユ!感心している場合か!」
「すみません!」
クワトロとカミーユがアムロに掴みかかろうと駆け寄った瞬間、その存在に気づいたアムロが首を締めていたクルーを二人に向けて投げつける。
「わぁぁぁ」
あの細い身体のどこにこんな力があるのかと思うくらいに軽々と大の男を投げ飛ばし、それで二人を足止めしたアムロはくるりと背を向け、また走り出す。
「待て!アムロ!」
痛みは感じていないが、出血が酷くアムロの息が少しずつ上がり始める。
その為、クワトロ達との距離は少しづつつまり始め、徐々にアムロは追い詰められて行く。
「一体どこに向かっているのでしょう?」
「おそらくモビルスーツデッキだ!」
「モビルスーツデッキ?」
「アムロは…本能のまま…番いの元へ帰ろうとしている…」
「番いってジェリドなら営倉に…」
カミーユの問いに、クワトロがギリリと歯を噛み締める。
「アムロの番いは…ジェリド・メサじゃない…」
「え?」
クワトロはそれ以上は答えずに、目の前まで迫ったアムロの肩を掴もうと手を伸ばす。
しかし、それに気付いたアムロが振り返りクワトロへと蹴りを繰り出す。
それを咄嗟に躱すと、続けざまにアムロが身体を屈めて手錠で繋がれた両腕で殴り掛かってきた。
「大尉!」
それを間に入ったカミーユが受け止めるが、思った以上の力にそのまま弾き飛ばされてしまう。
「うわぁ!」
「カミーユ!」
床に転がりながらも直ぐに態勢を立て直し、アムロに向かって行く。
クワトロとカミーユ二人の攻撃を躱すアムロだったが、出血による貧血で一瞬グラついたところをカミーユの拳がアムロを襲う。
「ぐわっ」
しかし、アムロは尚も激しく抵抗をし二人を易々とは近づけさせない。
「アムロ…!正気に戻れ!アムロ!」
クワトロの叫びも今のアムロには届く事なく、焦点の合っていない瞳で荒い息を吐きながら二人を相手に怯まずに向かってくる。
「大尉!このままじゃアムロさん自身も出血で危ない!」
アムロの足元にポタポタと落ちる血が血溜まりを作っていく。
「アムロ!」
「はぁはぁはぁはぁ…」
互いに睨み合いが続いたその時、反対の通路から一人の男がアムロに駆け寄って来た。
「隊長!」
「ジェリド!?営倉にいた筈じゃ!」
「チッ!アムロめ営倉の電子ロックも医務室の端末から解除したのか!」
おそらく予め決めていたのだろう。
データのハッキングが完了したらジェリドの営倉の電子ロックを解除してモビルスーツデッキで合流し、稼働可能なアムロのバウンド・ドックで逃走するようにと。
アムロは正気を失いながらも、それだけは覚えていたのか、それともただ番いの元に帰ろうという本能だけで動いていたのか、ひたすらモビルスーツデッキを目指した。
しかし、アムロの元に駆け寄ったジェリドにもアムロは攻撃をした。
「隊長!?」
もう、人の区別はついていないのだろう。アムロは自身に近寄る者を全て排除しようと攻撃する。
ジェリドはアムロの様子に、少し動揺しながらも状況を直ぐに把握して一旦アムロから距離を取る。そして、ブーツの中に隠し持っていた簡易注射器を取り出し、アムロの隙をついてそれをアムロの腕へと突き刺した。
プシュっと音を立て、薬物がアムロの体内へと注入される。
その瞬間、アムロからガクリと力が抜け、ジェリドの胸へと倒れこんだ。
「隊長…」
ジェリドはアムロの身体を大事そうに抱えてギュッと抱き締める。
そんなジェリドを目にしたクワトロがギリリと拳を握り締める。
「ジェリド・メサ!アムロを離せ!」
クワトロが叫ぶのと同時に取り押さえようと動いたカミーユに向かい、ジェリドが銃を向ける。
「動くな!」
「なっ!どこに銃を隠し持っていた!?」
「フッ、甘いんだよお前らは!」
ジェリドはアムロを抱えながらジリジリと後ずさり、デッキの入り口のドアを開ける。
そこに、敵襲を告げるサイレンが響き渡る。
〈敵機接近!ティターンズのモビルアーマーが一機、本艦に接近中!〉
「何!?」
クワトロ達が気を取られたその隙に、ジェリドがアムロを抱えてバウンド・ドックへと移動する。
「待て!」
コックピットへと乗り込もうとしたその時、意識を取り戻したアムロがシャアを見つけ、切なげな表情を浮かべる。
そして、アムロはシャアに向かい手を伸ばす。
「…シャア…」
アムロの差し出されたその手を取ろうとシャアも手を伸ばす。
しかし、その手は触れる事が無いまま、バウンド・ドックのハッチは閉ざされてしまった。
「アムロ!」
「大尉!危険です!離れて」
カミーユに後ろから肩を掴まれ、バウンド・ドックのバーニアから逃れるようにハッチへと引き込まれる。
デッキを飛び出したバウンド・ドックは、援護に来たティターンズのモビルアーマー、シロッコが操縦するジ・Oに守られながらアーガマを後にした。
ジェリドに抱えられるようにコックピットに座るアムロは、モニターに映るアーガマを見つめ一筋の涙を流す。
『シャア…』
求め続けた存在から遠ざかって行くのを感じる。自分はシャアやブライトを欺き、裏切った…。おまけまた正気を失い、覚えていないがアーガマのクルーを傷付けてしまっただろう…。
ただ、これだけは確かだ、もう二度と受け入れられる事はない。
引き裂かれるような胸の痛みを抱えながら、アムロはジェリドへと身体を預ける。
心の痛みと共に、正気を失い暴れた身体が悲鳴を上げている。傷口からの出血もあり、アムロの意識がまた遠のいていく。
作品名:白い闇4 作家名:koyuho