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MEMORY 序章

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 明けて翌日は日曜日。中学生になった一護も、学校は勿論、部活動も休みで時間がある。朝の早い一護が午前中に訪ねてくる可能性も高く、浦原はテッサイに叩き起こされた。
 指針や緊急時は浦原の意見を優先するテッサイも、日常に於いては浦原の意向は優先してくれない事が増えた。殊に、一護が絡むと顕著である。
 やれやれと思いながらも取り敢えず布団からは抜け出す。
 時計は八時を刺していた。一護は特に時間を約束していない限り午前中に顔を出しても十時前に来る事はない。この時間なら食事と食後のお茶と一服をしている時間がありそうだ。
 疾うに食事も済んでいる従業員達は掃除や開店準備を済ませているらしい。家事に勤しむテッサイの代わりに雨が浦原の給仕をしている。

「お、オレンジ頭、随分早ぇじゃねぇか。」
「おはよう、ジン太。暑くなる前に来ただけだよ。浦原さんはまだ寝てんでしょ。」
「起きてんぞ。」
「え‥‥。」

 食事中の浦原を置いて、雨が席を立つ。

「おはようございます、黒崎さん。キスケさんはお食事中です。」
「ありゃ、急かす心算ないんだけどな。」
「黒崎サン、入って貰って構わないッスよ。」

 茶の間から声を掛けると、躊躇しながらも、一護は雨と一緒に茶の間に入って来た。

「おはよ、浦原さん。」
「おはようございマス。」
「慌てないでね。暑い中来るのが面倒だから早く来ちゃっただけだから。」
「ありがとうございます。」

 一護を頭から子供扱い出来ないのは、こういう気遣いをするからだ。自分の都合は通すが、その皺寄せを他人に持っていく事は嫌う。

「う~ん。浦原さんが起きてたなら、傘持って来なくても良かったかな?」
「どういう意味ッスか?」
「うん。梅雨時なのに朝からピーカンで、これは後で酷いのが来るかな、と思って一応傘持って来たけど、この時間に浦原さんが起きてるなら、今日は間違いなく晴れるよね。」
「‥‥‥。」

 それはつまり、雨になる筈の天気が、浦原がこんな時間に起きている珍しい事態を前に、晴れるという意味だろうか。

「言いますね。」

 卓袱台に両肘を着いて頬杖にしている一護は、瞳だけで笑っている。
 表情筋は僅かにしか動かさない一護は、瞳に感情を浮かべる。
 昔から出入りしていたかのように、一護は浦原商店にすんなり馴染んだ。裏表のない素直な態度でテッサイや雨を懐柔してしまい、ジン太も、何をやっても上手に熟す一護に脱帽しながらも、ライバル心を燃やしながら受け入れた。挙句一護の警戒心のなさが、浦原の警戒心を削いでしまった。
 雨が浦原と一護の前に茶を置く。
 浦原は食後だから普通に熱い茶がありがたいが、一護は外を歩いて来たのだから冷たい物の方が良いだろうと思うが、雨の気遣いを嬉しそうに受け入れている。
 一護の相談に乗るとは言ったものの、面倒事は少しでも早く収めてしまいたいのが浦原の本音だ。食後のお茶をゆっくり飲んで、煙管を吹かすのは一護の話を聞きながらで良いかと思い、一口ずつ丁寧にお茶を味わう。

「浦原さんにしては今日は随分と早起きなんじゃない?」
「テッサイに叩き起こされたンスよ。」
「ちゃんと眠った?」
「大丈夫ッスよ。流石に昨夜は夜更かしも程々にしたッスから。」

 へらりと笑う浦原に、一護は困ったように眉間に皴を寄せる。浦原のペースを乱した事を申し訳ないと思っているのかも知れない。本当に子供らしくない気遣いをしてくる。
 気を遣うくせに、一護の浦原に対する警戒心は薄い。そんな処ばかり無邪気で無防備だ。

「場所変えても良いッスかね?」

 一護が不思議そうに小首を傾げる。

「煙管吸いたいッス。」

 理由を告げると一護はふわりと笑った。
 私室の障子を開けて先に入って行く浦原の後に、一護は躊躇なく進んだ。手にはタオルなどを入れているスポーツバッグと、茶の間にあった団扇を持っている。中庭に面した縁側に煙草盆を持ち出す浦原に続いて、円座を置いた縁側に腰を下ろす。浦原は、腰を下ろす前に引き寄せた煙草盆の上で、懐から取り出した煙管に葉煙草を詰める。

「相談事というのは、一体なンスか?」
「うん。お父さん親馬鹿だからね、ショック受けるだろうと思って言えないんだよ。」
「一心サンが親馬鹿って承知してて、アタシの所に出入りしてるわけッスか。」
「お父さんが力取り戻してない以上仕方ない。まぁ、あの親馬鹿っぷりから考えると、私が望む事は出来ない可能性が高いから、蹴飛ばしてでも浦原さんとこ出入りする許可は取り付けたと思うけど。」
「‥‥‥。」

 一瞬、浦原ですら本気で一心を哀れに思った。

「一心サンが力を取り戻していない事と、黒崎サンが相談したい事と関係あるンスか?」
「あるよぉ。お父さんには言ってない事なんだけど、実を言うと私、多分死神の力目覚めちゃってるんだよね。」
「ハイ?」
「お母さんが虚に殺された時、どうしてか私、死神の力が目覚めたらしい。但、お母さんがどういうふうにか私の力を使って封じちゃったけどね。」
「封じたンスか? 死神の力を?」
「完全には封じきれてないよ。私の霊力年々上がってるみたいだし。」

 死神の魂を持っていれば霊絡は赤いが、一護の霊絡は赤くない。

「黒崎サン?」

 子供の思い込みだと、なんと諭せばいいものかと考えながら声を掛けると、子供は浦原から否定の言葉が返る事を理解っているように困ったような表情をする。

「お母さんが封じた理由も、理解ってる。」

 強ち妄想とも言えない真剣さを感じて、浦原は取り敢えず話を聞いてみる事にした。否定は、話を聞いてからでも出来るだろう。

「‥‥その理由は何スか?」
「‥‥‥私の中にいる虚を、私の精神力で封じ込める事が出来ないと思ったから、だと思うよ。」
「! 黒崎‥サン‥‥。」

 一心はそんな事までこの子供に漏らしたというのだろうか?
 いや、それは有り得ない。
 あの男は親莫迦だ。妻を子供を守る為になら自分の地位など簡単に投げ捨てる男が、子供の負担になる事を漏らすとは考えられない。

「何の事ッスか?」

 訊き返すと、子供は少し目を瞠り、次いで苦笑した。

「浦原さんてクールでシビアなのかと思ってたけど、存外優しいんだ? それとも徹底的にドライなのかな?」
「どういう意味ッスか?」
「身の内に虚がいるなんて状況はこんな子供に耐えられる負荷じゃないと考えて【いない】と思い込む事で封じていられると考えた? それとも、下手に認めて虚を封じる手段を講じる手伝いをさせられるなんて冗談じゃないと考えた?」

 浦原の本音としては後者だが、それを晒す程素直ではないし、手の内を晒す心算もない。

「あの時は何が何だか理解らなかった。ここに出入りするようになって、ジン太や雨やテッサイさんの霊圧を感じて、何となく理解ってきた。」

 ジーンズで胡坐を掻いて座る一護は、両手で自分の足を掴んでいる。

「あの時、私は自分の所為で母が虚に殺されたと思ってた。父から妻を、妹達から母親を取り上げた原因が自分だと思ってた儘の私なら、虚に体を奪われそうになっても唯々諾々と受け入れたかも知れない。」
「今はそう思ってないって事ッスか?」
作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙