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MEMORY 序章

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「‥‥‥両親の馴れ初めと、関わった浦原さんの事を聞いた。本来なら母があの程度の虚に殺される筈なかった事も知った。」
「え?」

 目を瞠る浦原に、一護はふと目を細めて視線を逸らした。

「やっぱ、浦原さん知らなかったんだ?」
「どういう、事ッスか‥‥?」
「純血統の滅却師で母と同じ日に死んだ人間はいないけど、混血統の滅却師であの日を境に命を落とさなかったのは一人だけだよ。」

 一護の瞳の中には、人の死をゲームのように軽く受け止めているわけではないが、母親の死を知っていながら呑まれてもいない強さがあった。

「あの日、母は、ううん、母だけじゃない。母と混血統の滅却師は命と能力を誰かに奪われた。そいつが母から滅却師の力を奪わなければ、あの日母が死ぬ事はなかった。あの日の事を思い返してて、その事に気付いたんだ。同時に母が何をしたのかも、なんとなく理解った。」
「‥‥‥真咲さんが何をしたと?」

 この子供に下手な誤魔化しは効かないと浦原は思った。

「人間である私の中には、死神の力と滅却師の力と虚がいる。滅却師の力は、虚とは混ざらない。滅却師にとって虚は毒でしかないから。でも、あの日、死神の力の目覚めた私の虚の力を、母は封じた。何故、それが出来たと思う?」

 一護の問いに、浦原の中で答えは出せる。
 滅却師にとって虚が毒でしかないと一護は言った。死神の力を真咲が封じたとも。
 考えられるのは、一護の中の死神の力が虚と融合しているという事だ。死神の力と虚が混じる事で、滅却師の力と同時に存在する事が出来るようになっているのだろう。だから、死神の力を封じた。

「何故、黒崎サンの中に虚がいるンスか?」
「理由なんて知らないよ。最初から虚の狙いは死神と同化する事なんだろうけど、何を考えて母に取り憑いたのかも解らないし。唯、虚が私の中にいる事だけは確かだと思うよ。母が逝ったのに、父が死神に戻っていないから。それは母と父を繋いでいた『紐』が切れたのに、父の死神の力と虚を繋いでいた『紐』は切れていないという事だろ? つまり、父の死神の力で虚を封じた儘だって事。それなら、母の中に封じた筈の虚は、私の中に移ったって事だ。私がお腹の中にいる間にか、あの日なのかは判らないけどね。」

 一護は肩を竦める。

「私はお腹の中にいる間に虚は私に移ったんだと思うけどね。」
「根拠は?」
「母が本当に封じようとしたのは虚だと思うから。虚を封じたら一緒に死神の力も封じられた、となれば、それは死神の力と虚が融合してるからじゃない? 仮にも私は真血だもの。一瞬で同化は有り得ない。なら前から私の中に虚が居座ってたと考えるのが妥当だと思う。」
「‥‥‥冷静ッスね。」

 いくら母に死なれてから三年経つとはいえ、目の前で自分を庇った母親が死んでいるのに、よくもこんな子供が此処まで冷静に事実を見つめられるものだ。

「父の言葉の所為、かな。『自分が惚れた女は子供を護る為に我が身を投げ出せるような女だったのは自慢だぞ。』って。」
「自慢ッスか。」
「『我が身より子供への愛情の方が勝るような女、自慢に思って何が悪い。』だってさ。母を犠牲にしたって私が思う事は、自慢の妻を貶された事と同じだって言ったんだよ。」

 そんな風に言われたら、子供は我が身が助かった事を嘆くわけにはいかなくなってしまうだろう。

「私が浦原さんに相談したい本題はね、私の中の死神の力の封印が解けてしまう可能性があるから、年々上昇していく霊圧をコントロールする訓練場所を確保したいって事。」
「訓練場所ッスか?」
「体の奥の方に、暴風雨みたいな荒れた霊圧があるのを感じるんだ。霊圧が揺らいで虚を引き寄せるくらいならまだいい。暴走したら手を着けられないかも知れない。だから‥‥。」
「何故、アタシに?」
「父は、私が力を持つ事で巻き込まれてしまう事を案じてる。でも、私の中の力は確実に霊力だ。暴走したら、私は重霊地でもある空座町に影響を与える者として尸魂界に目を着けられる。強制収容される事だってありじゃない?」

 面倒事を嫌う事を知っていながら、一護は浦原に敢えて相談するという。

「『何故、アタシに?』」

 問いを繰り返すと、一護はふと苦笑して、視線を逸らした。

「浦原さんなら、観察対象にしろ、駒にしろ、使い捨てやポイ捨てはしないでしょ?」
「ま、酷い。アタシがそんな真似をすると?」
「しないでしょ?って言ったよ。駒にするなら、有効利用する為に生き残れるよう鍛えるだろうし、観察対象にするなら、死んだ方がましだと思える事態でも死なせないで観察を続ける。それが浦原さんの遣り方だと思うけど?」

 出逢ってひと月余りのこの子供は、何故浦原の本質を見抜いているのだろう。

「感情より理性と計算、かな。悪い事だとは思わないけど?」

 微かに眉を顰めてしまった浦原に、気分を害したかと案じるような視線を向ける。

「黒崎サンは、アタシの立場を御存知なンスか?」
「あ~。まぁ。」

 カリカリと頭を搔いて、一護は息を吐く。

「瀞霊廷の浦原さんの事は知らないよ。けど、現在の浦原さんの立場は多分知ってる。ま、尸魂界がどうだろうと、黒崎家にとっては浦原さんは恩人だよ?」

 何しろ、浦原が真咲を助ける方法を示さなければ、虚に取り込まれて真咲の存在そのものが消えていた。

「黒崎サンが高い霊圧を持つ羽目になったのに?」
「生まれてなければ、それもこれもない。」

 一護は肩を竦めて、浦原の示すマイナスを、大した事ではないと肩を竦める。

「浦原さん。私は強くなりたいんだ。自分に力があるなら、その力を使い熟せるくらいに。抑え込んで周りの皆を傷付けたりしなくて済むように。皆を護れるように、強くなりたいんだ。私は欲張りだからね。我が身と家族だけ護れたら良いなんて言わない。手の届く範囲、目に見える範囲、皆を護りたい。だから、手を伸ばす事が叶うように強くなりたいんだ。」

 十三歳になったばかりの少女に見合わない強い瞳が、浦原に真っ直ぐ向けられる。

「‥‥‥霊力のコントロールを覚えたいンスね。霊力が暴走しても尸魂界に気付かれずに済む場所を確保するとなると‥‥少し、時間頂けます?」
「! 用意して貰えるの?」
「そんな『覚悟』を見せられたら、応じないわけにもいいかないッスよ。」

 その瞬間、一護の顔に浮かんだ嬉しそうな表情に、浦原は息を呑んだ。
 悟ったような大人びた表情でも、慈しむような表情でもなく、年相応の無邪気なまでの嬉しそうな笑みだったのだ。
 初めて見せた一護の無防備な笑みに、浦原は自分の心の隅にある罪悪感から逃れるように指先で帽子の鍔を下げて顔を隠した。
 一護は不思議そうに小首を傾げて浦原を見遣るばかりで、益々浦原の些細な罪悪感を刺激した。
 この時点では、浦原は昔馴染みとなった男の娘の保身の為の頼みを聞き入れただけの心算だった。
 一護に『記憶』があると知らない浦原が、訪れる可能性のある未来の準備の為に利用されている事に気付く筈もなかったのだ。



作品名:MEMORY 序章 作家名:亜梨沙