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MEMORY 死神代行篇

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 茶渡が怪我をして現れた日、インコを連れていた。
 すぐに整の存在を感じたので観察していると、『シバタユウイチ』と名乗った。ルキアはインコに憑いているのは淋しがっているだけの霊だと言った。ならば、『シバタユウイチ』を追い掛け回している虚は間違いなくシュリーカーだろう。
 一護が代行している死神業で、現世での収入源になるのは虚に架けられた懸賞金システムだ。ルキアの必要経費を、何から何まで一心にたかるわけにはいかないのだから、懸賞金が稼げる分はしっかり稼ごうと思う。怪我をして治療の度に浦原の世話になっていると、費用が上乗せになってしまうから、出来るだけ怪我はしないようにしなくては。
 虚との戦いに於いても霊圧を纏っていれば怪我などしないのだが、生憎と霊圧を鎧のように身に纏うと周囲へ及ぼす影響も小さくなくなる。
 記憶の中の一護は、竜貴の霊力が上がっている事に気付いていなかったが、代行証が見えていた時点で、故障を疑うのではなく、竜貴の霊力が上がったと判断するべきだった筈だ。竜貴の霊力の開花スピードは、織姫ほど早くなかっただけで、死神化した一護と接触した事で影響を受けていたのだ。織姫のアパートにいるたつきが気を失っていたとはいえ、あれ以上一護が放出する霊圧が高ければ、竜貴も早々に霊力が高まってしまっていた筈だ。
 高校一年生にして高校総体の空手部門で優勝を狙っている竜貴を、一護の我儘に巻き込むわけにはいかない。建前だけでなく、竜貴は正義感も強いし、理不尽だと思う事に我慢など出来ない。啓吾ほど浅慮ではないが、幸せな家庭に育った竜貴に、命懸けの事態など経験させるのはまだ早過ぎる。まだ、いや、出来るなら一生そんな経験などしないで欲しいのだ。
 一護自身は真血に生まれついた。覚醒してしまった死神の能力は、虚と混在してしまっている。心や考え方は現世の生き人だろうが、存在自体は既に普通の人間とは違うだろう。
 織姫は実の両親は生きているかも知れないが、捨てられていないのと同じ。茶渡も唯一の身内である祖父を既に失くしている。二人とも、自分自身と友人達に責任を負えばいい立場だ。
 けれど、竜貴も水色も啓吾も、自分だけでなく家族の存在がある。だから極力巻き込みたくはない。家族に心配を掛ける痛みなど、知らせたくはない。
 一護は帰宅途中に浦原の所に寄り、情報を欲した。

「連続殺人事件ッスか?」
「被害者の中に『シバタ』って名前があったような気がしたんだけど、違うかなぁ?」
「アタシに現世の情報を要求するって、黒崎サン。」
「だぁって、年明けてからは私、家事と受験と鍛錬で忙しくって、新聞読んでる暇どころかテレビ観てる暇もなかったし。」

 空座第一高校は上位者は高レベルな高校だ。一護は髪色から教師に目を付けられる事は想定済みで、それを跳ね返す為にも成績上位を確保しなければならないと決めているのだ。
 年が明けてからこちら、一護が自宅から浦原の所へ一週間分の新聞を交互に持ち込んで目を通しておいてくれと言っていた事は、まさかこれを見越していたのだろうか?

「黒崎サン?」

 流石に不審に思って問い質そうと声を掛けると、一護は溜息を吐いて口を開く。

「私の記憶力じゃ当てにならないけど、記憶バンクなら浦原さんだし。なんか『シバタユウイチ』って名前、ニュースで見たか聞いたかしたような気がするんだよ。」

 自分が覚えているくらいだから、浦原の記憶にある筈だ、と言って譲らない一護に、浦原は深々と溜息を吐いた。
 焦るばかりの一護では話にならないと踏んで、浦原はルキアから最低限の情報を引き出そうとした。

「『シバタユウイチ』とやらがどうしたんスか?」
「チャド、一護の友人が連れてきたインコに憑いていた霊が、そう名乗ったのだ。当のチャドはそのインコを貰った頃から連続して怪我をしているらしい。」
「なるほど……。」

 チャド、とは茶渡泰虎という名の、中学二年で知り合った一護の友人だ。知り合った当初から年の割に大きく丈夫な体の持ち主で、カツアゲされていた同級生を庇って代わりに標的にされた一護を助けてくれたのが縁で友人となったそうだ。その茶渡が連れていたインコに連続殺人の被害者と同じ名の霊が憑いているとなれば、腕力ではどうにもならない存在への対処を心配するのは当然といえば当然だろう。

「……はいはい。三月頃に最後の被害者が出た連続殺人事件ッス。子供を抱え込んで庇ってめった刺しにされた母親の腕の中で死んでいた子供の名前が『シバタユウイチ』ッスよ。」
「犯人は?」
「被害者の部屋のベランダから転落して死亡してますね。」

 その情報に、一護は眉間に皺を寄せて暫く考え込んでいたが、やがて唇を引き結んで顔を上げた。

「子供を必死で庇ってる母親をめった刺し、したわけだよね?」
「そうッス。」
「つまり、子供の目の前で母親を殺した?」
「はい。」

 一護の眉間の皴が深くなる。

「犯人が死んだ後、地獄の門が開いた形跡は?」
「……ないッスね。」
「ならその殺人犯、間違いなく虚になってるよね。」
「かなりの高確率でそうッスね。」

 地獄の門についても知っている一護と、平然と会話をする浦原に、ルキアの眉が潜まる。

「浦原。」
「なんスか?」
「貴様、現世に生きる子供に、情報を与え過ぎではないのか?」

 ルキアの勘違いに気付いた浦原は、苦笑して帽子の鍔を押さえた。

「勘違いしてるッスよ、朽木サン。」
「何?」
「黒崎サンに情報を与えたのはアタシじゃありません。」
「では、誰が……。」
「さあ……?」

 浦原自身は一護に情報を与えているのが一心だと思っているが、一護からそう聞いたわけではない。未確認情報を自分の口から言う気はなかった。
 考え事をしていたらしい一護が、顔を上げてルキアに視線を向ける。

「なんだ?」
「今夜にでもインコに憑いている霊を魂葬しに行く予定だったが、変更だ。」
「一護?」
「チャドの性格から考えても『シバタユウイチ』を付け狙っている虚を退治してからだ。」
「それでは、チャドを危険な目に合わせる事になるぞ。」

 危惧を口にするルキアに、一護は肩を竦める。

「あいつも私と一緒で、誰かを守る為に頑張れる奴だよ。」
「本当にそれで良いのか?」
「……中二からの付き合いだ。今更、だな。」
「一護?」

 苦笑を浮かべて口にされた言葉の意味を取る事は、ルキアには出来ない。
 浦原は、一護が死神化して接触した人間に気を配る心算でいる。
 一護が霊力のコントロールを矢鱈と気にしていたのは、虚を引き寄せるからだけではないのだろうと、見当を付けていたのだ。
 中学に上がる頃から浦原商店に出入りして、霊力のコントロールを身に着けるべく鍛錬を続けてきた一護だが、コントロールが自在になるよりも霊力が上がる方が早いように感じていた。つまりは、浦原が誕生日プレゼントを口実に贈ったペンダントは、一護の霊力を広く拡げない為の護符だったが、極身近にいる者への影響まで消し去る事は不可能だったのだ。だから、一護の傍にいた者は、一護の霊力の高まりに合わせて少しずつでも影響を受けているのだ。その事に、一護自身は気付いているのだろう。
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙