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MEMORY 死神代行篇

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 ぬいぐるみらしくしていろ、と言われて、部屋から出ないようにしていたコンは、折角丸薬状態から脱したにも関わらず、行動を制限されてストレスを溜めていた。ベッドサイドのチェストの上に転がって寝ていた事を思い出し、このままベッド目掛けて落ちれば、丁度寝ている一護の上だと思い付く。

「いっちご~! 朝だぞ、起きろ~!」

 叫びながら飛び降りたベッドに人の感触はなく、コンは起き上がってきょとりと辺りを見回した。
 ドアの開く気配に続いて、制服姿の一護とルキアが部屋に入ってくる。

「漸く起きたのか、コン。」
「一護?」
「元気に走り回って疲れたか? 学校に行って来るから大人しくしていろよ?」
「一護、そろそろ出ねば遅刻するぞ。」
「おう。」

 一護は、部屋を出ようとして目に付いたカレンダーで今日の日付に気付く。ルキアが現れてから虚退治やら何やらで忙しくて日付を忘れていた。
 動きの止まった一護に気付いたルキアが声を掛けると、一護は慌てて踵を返して部屋を出た。
 ルキアと共にバスに乗り込むと、啓吾と水色も同じバスに乗り合わせていた。
 声を掛けられて、全開笑顔を返した一護に、啓吾は舞い上がったが、水色は、おや?と訝しそうに微かに眉を顰めた。
 教室に入ってからも、一護は挨拶してくるクラスメイトに一見上機嫌に見える笑顔を向けて挨拶を返している。

「おはよう、いちごちゃん。」
「姫ぇ。おはよう。」

 ‪無邪気さの伺えない全開笑顔に、織姫が何か思うところを覚えて訝しそうな表情で竜貴を見遣ると、竜貴は小さく溜息を吐いた。

「なぁに、一護。随分とご機嫌じゃん。」
「そう、かなぁ?」
「何、言ってんの、織姫。」
「どう見ても上機嫌じゃない。」
「ねぇ。竜貴。」
「織姫は上機嫌だとは思わないんだ?」

 同意はせず、竜貴は織姫に質問をぶつける。

「上機嫌っていうより、なんかピリピリしてるみたいな気がする。」
「織姫ってば、何言って………。」
「流石だね、織姫。」

 織姫の言葉を否定しようとした声を遮って、竜貴はぼそりと言った。

「え?」

 竜貴は笑顔を浮かべて啓吾や茶渡と会話している一護を見遣って、低い声を出す。

「一護のあの顔は、物凄くピリピリしてる時の表情だよ。」
「え……。」

 織姫を囲んでいる女子達は、揃って一護を見て、竜貴の顔と見比べる。

「上機嫌の笑顔にしか見えないんだけど……。」

 ねぇ、と顔を見合わせる一護と違う中学出身者達が不思議そうに言い合う。

「今日って何日だっけ?」
「六月の、十六日。」
「明日、一護、学校休む日だから。」
「あ……。」

 織姫には心当たりがあった。
 織姫の反応に、周りの女子達が注目する。

「いちごちゃんの、お母さんの、命日………。」
「「「「!」」」」

 女子達の視線が一護に集中し、竜貴に突かれて慌てて視線を逸らした。

「一護の髪の色って、そのお母さん譲りでさ。だから教師に何言われても、天然なんだからって染めないんだよ。」

 竜貴が肩を竦めて言うと、教師の小言を食らうと承知で髪を染めない事に眉を顰めていた女子も、途端に見方を変えた。
 水色とルキアは、夫々一護から一歩離れて一護を見守っていた。
 水色は『Masaki Forever』と書かれた写真が居間にあったから、一護の母親がいない事は知っていた。ルキアも、一護の母親がいない事は知っていた。一心が過剰なスキンシップを測って一護や夏梨に冷たくあしらわれる度に『最近娘達が冷たいんだよ、母さん。』と写真に縋りついているから。
 身内を失くして何年も哀しい淋しい思いをするというのは理解出来る。けれど、神経を張り詰めてピリピリするというのはどういう事だろうか。
 ルキアの疑問に断片的な答えが与えられたのは、その夜行われた楽しそうな家族会議の後だった。居候とはいえ家族の一員だから、と出席を促され、意味も理解らぬままに出席させられた。その場で役割分担が言い付けられ、ルキアは、同行する事が役割だと言われた。

「随分と強引でいながら楽しそうな様子だったな。」
「ああ、父? あの人は何でもかんでもお祭り騒ぎにしてしまうからね。」

 常もの事だ、と一護は呟く。

「………明日は、母上の命日だと聞いた。」

 躊躇いながらも、ルキアは一護に訊いた。妹達や一心に訊いても良かったが、学校で織姫が呟くように言っていた声を耳にしているので、自分の立場では一護に訊くべきだろうと思った。

「お前が、ピリピリしているようだった。井上が、明日がお前の母上の命日だと言っているのを聞いた。」
「………。」

 “一護”はルキアに母が殺された日だとのみ教え、状況から虚の仕業と導いたルキアに怒っていたが、グランド・フィッシャー自身に肯定されて、敵わないのに感情だけで突っ走っていた。確か同じ日に、隠密機動がルキアの動向を探りに来ていて、死神能力譲渡が重禍罪だと知らぬまま、ばらしていたのだったか。

「明日が母の命日で、さっきの家族会議は、お墓参りの相談だよ。」
「………お前がピリピリしている理由は、なんだ?」
「突っ込むなぁ。」

 一護は苦笑してルキアを見遣る。

「六年前の明日、母が死んだ日………ううん。殺された日、だ。」
「殺された?」
「私が虚の罠に掛かりそうになって、母は私を庇って………。」

 六年前から虚の存在を知っていたのか、とルキアが驚いていると、一護は困ったような表情をしてルキアを見る。

「直接母の命を奪ったのは虚だけど、本来なら母はあの程度の虚に負ける筈なかった。」
「虚に負けぬ、だと?」
「母は滅却師だったんだよ。」
「滅却師、だと⁉」

 馬鹿な。
 思わず呟いたルキアに、一護は苦笑する。ルキアの反応は当然だ。
 ルキアから死神の能力を譲渡されたのならまだ理解る。が、一護に対してルキアが行ったのは、結果として封印を解いたという事だと納得せざるを得ない状況だ。滅却師が、何をどう間違ったら生きながら死神になれるというのか。

「母は純血統の滅却師だったらしいから、本来なら大虚とも戦える力はあったらしいよ? それが出来ずに殺されたのは、あの日、何者かに滅却師の力を奪われたからだそうだ。」

 告げない事も含めて、事実を告げる。

「一護。」
「母の死に、誰かを恨むとしたら、その何者か、だね。」

 一護の瞳に浮かぶ痛みは、誰か他人を責めてはいない。虚の罠に掛かりそうになった自分をこそ責めているようだ。だから一護はピリピリしていたのか。
 テンション高く、つまりは愛情表現が激しいくらい素直な父親から妻を、幼い妹達から母を、奪ってしまった原因が自分にもあると、自責の念に駆られているのか。しかし六年前なら、まだ十にも満たない子供だ。況してこれだけの霊力の持ち主ならば、子供の頃から生き人と幽霊の区別も付かないくらいはっきりと見えていただろう。

「一護。それはお前の所為では………。」
「ない、って!………浦原さんすら言ってくれるけど、あの時の母の制止の声を聞いていれば、なかった筈の事態なんだ。」
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙