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MEMORY 死神代行篇

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 グランド・フィッシャーは破面もどきになってから一心が片付けるらしいが、この段階でグランド・フィッシャーを軽くあしらえる力が欲しい。
 でなければ、剣八は兎も角、一角や白哉相手にボロボロになってしまう。藍染との力の差は卍解が出来るようになっても大きい事には違いないが、真っ二つにされて傷跡が残るような事はしたくない。霊体とはいえ、虚化をしていない状態で深手を負うと超再生は出来ないのだから傷跡が残ってしまう。織姫の完現術で治して貰えれば傷跡は残らないかも知れないが、記憶通りの力を織姫が発揮するとは限らないのだ。それに記憶の中では、ルキアを連れ戻しに来る白哉に負わされる傷は織姫の治療ではない事もあり傷跡が残っていた。
 一護に対して放任主義を装ってはいても、一心はなんだかんだ言っても親馬鹿なのだ。娘が体に傷跡など残したら気にするに違いなかった。傷が残ったら、死神能力を取り戻す事に賛成してくれないかも知れない。一心が協力してくれずに死神能力を戻す準備が遅れれば、間に合わなくなってしまいかねないのだ。
 始解をしない儘に西堂相手にあしらわれない力はあるとは思うが、記憶と現実の差は出来る限り正確に認識したい。
 一護は斬魄刀を抜くと始解させずに揮った。
 記憶の中で西堂は夏梨を庇った為に深手を負ったし、虚を倒す為に全力を尽くすと宣言していた真っ当な死神だ。
 斬術だけで西堂と渡り合い、霊圧をコントロールする練習をする。
 記憶同様、一護は霊圧探査は苦手だが、霊絡を視覚化出来る力も記憶通りだ。ならば、知っている霊圧を探る事は出来る筈だ。人の顔同様他人の霊圧を覚えるのは苦手だが、この先、石田雨竜が絡んできた時にも霊圧を探る力があれば要らぬ苦労をしなくて済む。

「なかなかやるじゃないの。」
「お陰様でっ!」

 軽口を叩く西堂に、一護は精一杯揮っている素振りで斬魄刀を揮う。
 瞬歩こそ出来ないが、一護は霊圧をコントロールする事で肉体よりも速く走れる。記憶の中の“一護”は意識して出来なかったが、記憶がある分一護は意識して霊力を使うようにしている。感覚だけだと使いたい時に使えない事態になり易いからだ。
 西堂と撃ち合いながら、一護は感覚を研ぎ澄ましていく。此処に居て妹達に迫る虚の気配が感じ取れるくらいの力がなければ、尸魂界に潜入しても行き当たりばったりの対処しか出来ない。
 西堂と撃ち合いながら探っていた感覚に、虚の気配を感じ取り、一護はハッとして動きを停める。同時に伝令神器が虚の出現を告げた。

「ルキアっ!」

 一護はルキアに声を掛けると駆け出す。霊体なのを良い事に道ではなく林を擦り抜けていく。一護が二人の元に辿り着いた時には、先に見に行かせたコンが孤軍奮闘していたが、グランド・フィッシャー相手に苦戦していた。五十年もの間、死神から逃げ果せているグランド・フィッシャーにコンが敵う筈もなく、夏梨が抑え付けられ遊子が吊るし上げられていた。

「コン、遊子を受け止めろよっ!」
「お、おうっ」

 一護はコンに一声掛けると駆け寄り始解せぬままの斬魄刀で切り掛かりグランド・フィッシャーの触手を断ち切る。コンが一護の体で遊子を受け止めるのを視界の端で捉えながら、グランド・フィッシャーの脚を掬うように横凪に切り払う。続け様の動作は素早く、西堂と撃ち合っていた時の数倍のスピードだ。夏梨を抱き取ってグランド・フィッシャーから離れると、コンの傍に降り立ち遊子を抱えるコンに夏梨も押し付けるように託す。

「二人を連れて父さんの所に行ってな。」
「…判った。」

 コンが二人を抱えて走り出すのを阻止しようとしたグランド・フィッシャーの前に走りこみ邪魔をする。その拍子にグランド・フィッシャーの疑似餌が視界に入り、一護の顔色が変わる。

「一護?」

 一護の霊圧が上がった事に、ルキアが驚いて一護の顔を見る。

「なんだぁ? さっきとはえらい違うじゃねぇか。」
「西堂さん。」
「お?」
「ルキアと一緒に少し下がってて。こいつの触手は延びるし鋭い。おまけに女が好物と来てる。」

 一護の低い声に、ルキアが目を瞠り固まる。西堂は一護の言葉に咄嗟に動いてルキアを抱えて下がる。
 視界の端に認めた一護は微かに唇を歪めて笑みの形にすると、斬魄刀を真っ直ぐ正面に向ける。

「駆けろ、天鎖。」

 呟くように告げられた一護の解号に、天鎖が反応してすらりとした斬魄刀が黒く大きくなる。もう片方には、長刀よりは小振りだが、普通の刀よりも太く大きな刀が現れる。

(こいつを逃がすのはごめんだから、叩くよ。)
『お前次第だぜ?』

 晶露明夜を使い熟す訓練の中で、集中すれば霊圧を高めても外へ放出しないでいられるようになっている。但し、訓練中に出来たのは短時間なので、本番でどこまで使えるかは判らない。

「やるっきゃないっ!」

 一護は自分に言い聞かせるように言い切って駆け出す。
 グランド・フィッシャーの繰り出す触手の攻撃を、躱し、断ち切り、何かと話し掛けて動揺を誘おうとする虚を、一護は無視して剣を揮い続ける。伸びてくる触手を切り払い、新しく生えてくる触手も計算に入れて動く。グランド・フィッシャーが一旦身を隠した隙に、一護はルキアの元へ走る。

「悪い、ルキア。奴の本体を斬ったら疑似餌に移って生き延びる気だ。移ったら動きを停めてくれ。奴の動きは速い。今の私じゃ追いつけない確率が高い。」
「……判った。」
「タイミングを外すなよ、ルキア。」
「貴様こそ。」

 強気の科白を吐くルキアに、一護は唇だけを歪めて笑みを返す。
 体勢を立て直したグランド・フィッシャーの攻撃に、一護は劣勢を装いながら確実にグランド・フィッシャーの力を削いでいった。
 未だ瞬歩も使えない程霊力のコントロールが自由になっていないが、グランド・フィッシャーに傷を負わされないように動けるくらいには浦原に鍛えられている。
 傷を負わずに凌いでいたお蔭で、グランド・フィッシャーは一護の情報を読み取る事が出来なかった。母の姿を見せられる事もなく済んだ一護はグランド・フィッシャーを追い詰めて、疑似餌に本体を逃がしたところを西堂とルキアの協力で仕留める事に成功した。
 ふうっと深く息を吐いて、一護が斬魄刀を収めると、ルキアが駆け寄ってくる。

「一護……。」
「さっきの、グランド・フィッシャーってさ。私の母を殺した虚だよ。幼かった私は疑似餌に気が付かなくて、母が止めるのを背中に聞きながら走り寄ってしまって………気が付いたら母が殺されてた。」
「一護。」

 息を呑んだルキアと驚愕の表情を浮かべる西堂に、一護は苦笑して見せる。
 一護の記憶の中に、少年一護としてではなくあの日の記憶が甦った。
 これに関しては、ルキアに言うわけにはいかない。
 浦原には、言っておくべき、なんだろうか。

「ルキアの霊力が戻るまでの間、代行業してやるっつったろ。母の仇取ったからって力抜ける事なんてないから安心しときな。」

 視線だけ真っ直ぐルキアに向けて宣言した一護に、西堂は溜息を吐いた。

「要するに、朽木女史は霊力を失ったから戻るに戻れない、という事なんだな?」
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙