MEMORY 死神代行篇
虚の疑似餌に掛かり、母の声に従う事も出来ずに駆けて行く一護を止めようと庇い立てをした母の体を貫いた虚の触手は、一護の体をも貫いたのだ、胸の中心を貫かれ魂が体から弾き出された瞬間、一護は斬魄刀の声を聴いて死神化した。母はグランド・フィッシャーに呑み込まれそうになりながら、何かを唱え一護の魂魄を体に戻した。
「体の中心を貫かれた、ッスか?」
「うん。その時に“声”が聴こえてさ。返事をしたら、母が何か唱えながら私の魂魄を体に戻そうとしてる姿を見たのが、その時の最後の意識、かな。」
「唱えながら?」
「うん。口が動いていたけど、音は何も覚えてない。」
「その、何か唱えていたらしいのが、黒崎サンの死神の力を封じる手段だった、と黒崎サンは思うわけッスね?」
「思うって言うか、斬月に確かめた。思い出したのならって言って、本当のところを教えてくれたんだけどさ。」
「斬月、とはなんだ?」
浦原との会話にルキアが割り込んでくる。
「私の斬魄刀の名前。」
「? この間、天鎖、と呼んでいた記憶があるのだが……。」
「それも、私の斬魄刀。対なんだ。斬月は単体でも使えるが、天鎖は対でないと使えない。」
ルキアの疑問に簡潔に答えて、一護は浦原に視線を戻す。
記憶の中で、尸魂界からルキアを迎えに来た白哉に魂睡と鎖結を封じられた時に失った死神の力は、一護本来のものではなくルキアから貰った力で、失った死神の力を取り戻させる事で浦原は“一護”に恩を売って“一護”を利用した。が、現在一護が身に着けている死神の力は一護本来の死神の力だ。その力を失えば取り戻すのは容易な事ではない。浦原の駒として動く事が出来なくなってしまうから、みすみす白哉の前に一護を送り出す事はしないだろうが、大きく運命を変えてしまわない限り、石田雨竜が死神の隊長・副隊長を止めようとして殺され掛ける事態は変わらないだろう。浦原が雨竜を助ける為だけに姿を見せる事などしないだろうし、かといって、一護も後々まで体に痕が残るような傷を負いたくはない。
溜息を吐く一護に、ルキアは意味は理解らない儘眉を顰め、浦原も思考の中に深く沈む。
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙