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MEMORY 死神代行篇

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「ひどっ!」

 ポソリと小声で言った一護の言葉を、浦原はしっかり聞いていたようだ。

「情けは他人の為ならず、って言葉もあるじゃない。」
「他人にやたらと親切にするのは良くないって事ッスね。」
「知っててそういう事言う!」

 一護と浦腹のテンポの良い遣り取りを呆気に取られて見ていたルキアは、二人の言い合いを止めようとして走った痛みに傷を思い出し、僅かに残った霊力で鬼道を使い、傷の止血をした。

「ああ、ほら。稼ぎを損なうよ。」
「ありゃ、朽木さん、回帰術使えるんスね。」
「……浦原、といったか、貴様は何だ?」
「しがない駄菓子屋のハンサムエロ店長ッスよ。」

 へらりと笑う浦原に、ルキアの中の警鐘が鳴る。浦原の登場で、ルキアの中に一護に対する不信感が沸く。
 気付いた一護はくすりと笑った。
 一護の笑いに気付いて、ルキアがキ゚ッと一護を睨む。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。仮にも元は瀞霊廷の住人だし。」
「黒崎サン………。」

 警戒して一護の名を呼ぶ浦原に、一護はくすりと笑う。

「大丈夫だよ。ルキアの怪我は私を庇って負ったものだ。身に換えて現世の生き人を守るのが己が使命と心に刻んだ者の行動だろ?」
「………。」

 自分の所在を尸魂界に把握されたくない浦原の事情は理解っていると瞳だけで伝えて、一護はルキアに向き直った。

「浦原さんは頭も勘も良い。その所為で邪魔に思った輩がいて、冤罪を被せられて尸魂界を追われたんだよ。で、ルキアの状況は、表面だけ見れば冤罪を被せられるに充分な事態に陥ってる。」
「冤罪……。」
「死神能力譲渡は重禍罪じゃなかった? 背に腹は代えられないと思って行使しただろうけど、霊力が戻らなきゃ確実にばれて処罰の対象にされるんじゃない?」
「………。知っておったのか。」
「他に方法がないのかって訊いたよ?」
「……そうだったな。」
「ま、実際は、死神能力譲渡じゃなくて、ルキアは残りの霊力で私の封印を解いちゃったんだけどね。」
「封印?」
「何故かは知らないけど、私は何年も前に死神になってるんだよ。ただ、死神としての力を封印されてただけでね。」
「私はお前の封印を解いてしまったのか。……解いてしまって良かったのか?」

 不安そうに訊いてくるルキアに一護は苦笑する。

「何を聞いているかな、この人は。ルキアよりも私の霊圧が高いって浦原さんが言ったじゃん、あれは、元のルキアの霊圧の事だよ。霊圧を大幅に失ったルキアより高い私の霊圧が封じられていたのに、ルキアの残りの霊圧だけでどうして封印が解けたと思う?」

 浦原ははっとして一護を見るが、敢えて言葉にしない。ルキアは浦原の様子にも気付かず考え込んでいた。

「……つまり……一護に施されていた封印とやらが、効力が切れ掛けていた、という事、なのか?」
「多分ね。」

 苦笑すると、一護は浦原に視線を向ける。

「浦原さん、ルキアの面倒見てやって。義骸での居場所に困るなら後でうちに来れば良いから。」
「おや、いいんスか?」
「生憎と、文字通り命懸けで家族を守る力をくれた恩人を見捨てられるほど、腐ってないんだよ、私は。」

 言いながら、一護は自分の体を抱え上げて自室の窓へ飛び上がった。

「うちの家族を夫々寝室に運んだら後でそっちに行くから。」

 そう言うと一護は、鍵が掛かっていない窓を開いて自分の体を運び込んだ。
 自分が関与する隙もない儘に進んだ事態に困惑しているルキアに、浦原が顔を向けてへらりと笑う。

「あ、記換神器を使っておかなくてはならぬのだったな。」

 ルキアは慌てて家の中に駆け込むと、失神している一心と遊子と夏梨に記換神器を使う。後に続いた浦原に疑問符を頭に浮かべたルキアだったが、浦原が鬼道で傷の手当てをしていくのを見て納得した。

「んじゃ、行きましょうか、朽木サン。義骸、お貸ししますよン。」

 あくまでも軽いノリの浦原に、ルキアは溜息を吐いて黒崎家から出ると、浦原と連れ立って歩きだした。
 封印が解けて死神になったのだと子供は言ったけれど、現世の生き人が死神になったなどと聞いた事がない。

「浦原。」
「なんでしょ。」
「一護の言った事は本当なのか?」
「既に死神で、封印を受けていたって事ッスか?」
「ああ。」
「どうなんでしょうねぇ。少なくとも死神能力譲渡は、譲渡した死神の霊力がそのまま譲渡された者の霊力になる。そして、朽木サンより黒崎サンの霊圧の方が高い。」
「一護の霊力は、私から譲渡した霊力と称するには食い違う、か。」
「そうッスね。」

 浦原が張った結界のお陰でルキアは浦原商店に着くまで浮遊霊にすら遭わずに済んだ。浦原が結界を張っていた事に、考え込んでいた事もありルキアは気付かなかったが。
 店のシャッターが開いている。

「おかえりなさいませ、店長。」
「只今、テッサイ。お客さん。」
「黒崎殿のお宅へ向かわれたのでは………?」

 シャッターの向こう側のガラス戸が開いて出迎えた大男に、ルキアは思わず腰が引けた。

「黒崎サンを虚から庇って霊力失っちゃったらしいよン。怪我治して義骸貸してあげてって、黒崎サンからの依頼。」
「成程、左様でしたか。」

 こちらへどうぞ、とテッサイの案内に恐る恐る続いたルキアは、茶の間に通されてテッサイの回帰術を施された。
 浦原が倉庫から出してきた義骸をルキアに宛がった頃、一護が死覇装で訪れた。

「黒崎殿。」
「こんばんは、テッサイさん。」
「如何なされました?」
「あれ? 浦原さんから聞いてない? 後で行くって言っといたんだけど。」
「私めは伺っておりませぬが。」

 ルキアの相手をしていた浦原の耳に、表の会話が届く。

「ああ。ごめーん、テッサイ。言いそびれてた。黒崎サン、入って貰って良いッスよ。」

 悪びれない浦原の声に苦笑して、一護は閉店後の浦原商店に入っていった。
 茶の間に入り、義骸に入ったルキアを一目見て、一護はふと口元を緩める。

「うち(空座高校)の制服かぁ。編入だけなら記換神器で何とかなるだろうけど、授業どうすんの?」
「霊力が戻れば尸魂界に帰るからな。」
「うちに出た虚退治したって事は、現世駐在任務中だろ。」
「その事だ、一護!」
「あ?」

 ルキアが勢い良く一護に詰め寄る。

「お前に注ぐ力は残った霊力の半分だけにしておこうと思ったのに、全部持っていかれたからな。期間中、私の代わりに虚を退治しろ。」
「………。」

 ルキアの命令口調に、一護は頭痛を堪えるように額を押さえた。

「……浦原さん。」
「なんスか?」
「死神ってのはみんなこうか? それとも、朽木家のお嬢様だからこうなのか?」
「さぁ……?」
「何が言いたい?」

 死神になりたての現世の子供が、況して自分の霊力を奪った者が、自分に対して何を意見する心算なのか、というルキアの態度に、一護は溜息を吐いた。
 一護はガリガリと頭を描いて、口を開いたり閉じたり繰り返し、やがて深~く溜息を吐いた。

「まぁ、いいや。諒解。」

 そして浦原に向き直って口を開く。

「ついては、浦原さん、勉強部屋貸して。」
「今からッスか?」
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙