MEMORY 死神代行篇
猫被りルキアに鼻の下を延ばす一心に溜息を吐いて、一護はルキアと連れ立ってコンビニまで出掛けた。
買い物を済ませた帰途で、竜貴と顔を合わせる。
「あれ、一護じゃん。それに、朽木サン?」
「たつき。」
「どうしたんだよ。」
立ち止まる竜貴に合わせて足を止めた一護は、ルキアの顔を見て、竜貴に向き直る。
「ルキアの家庭の事情で、住む所ない状態になっててさ。」
「はぁっ⁉」
「ルキアって兄貴と二人なんだって。で、その兄貴が急に海外勤務になって、あまりに急だったから引っ越しを業者に任せたら、ルキアの荷物を、貯金通帳に至るまで海外に送ったらしい。で、ルキアが頼った親戚が男所帯で年頃の娘さんを預かるのは、って難色を示したんだ。」
「それで、どうして一護と一緒なわけ?」
「ルキアが頼った親戚が、私が何かとお世話になってる人なんだよ。で、ルキアはクラスメイトだし、あの人も困ってたし、うちの連中が大歓迎ムードなんで、暫くうちに住む事が決定したってところ。」
「へぇ。」
竜貴の観察するような視線がルキアに注がれる。
「一護ってお姉ちゃんだから面倒見が良いけど、甘え過ぎないように気を付けなよ?」
「……わかってますわ。」
猫被りのルキアの返事に、竜貴はふんと小さく鼻を鳴らした。
「あ、と。あまり吹聴なしね。特にケイゴとか煩いし。」
「諒解。じゃあね、おやすみ。」
「おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
竜貴は幼少の頃から通った空手道場の娘で幼馴染だと説明すると、ルキアは納得したような表情をする。
「ルキア?」
「何やら先程の態度がな。」
「たつきが?」
「一護に迷惑を掛けたら許さない、とでも言いたそうだったぞ。」
含み笑うルキアに、一護はふっと溜息を吐く。
竜貴は小さな頃から一護を知っている。泣き虫で、母が大好きで全開笑顔を見せていた一護が、母が亡くなった後、表情を失くした事も知っている。
「そういえば一護。」
「ん?」
「普段、眼鏡を掛けているのに、死神化した時にはないだろう。大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫。伊達眼鏡だから。」
「伊達眼鏡?」
何故そんな物を、と問うルキアに、一護は眼鏡を外した顔を向ける。
「私は表情筋が動かないんだ。眼鏡を掛けているとそれを誤魔化せる。死神になった時にはそんな配慮は要らないだろ?」
虚に愛想を振りまく必要はないし、ルキアにとって一護の表情はどうでも良いだろう。問題は死神業をスムーズに代行出来るかどうかに尽きるに違いない。
記憶通りなら、この先、織姫や茶渡が虚に襲われるようになり、ある日突然死神になっただけの現世の生き人に滅却師の誇りとやらで石田が絡んでくるようになるのだ。
つまらない怪我を負わない為に精進しようと、一護は密かに決意する。
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙