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MEMORY 死神代行篇

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「言い訳としては、あれかな? 両親とかお兄さんが急な海外勤務で親戚である浦原さんちに放り込まれたけど、浦原さんが、年頃の娘を預かる事に一日二日なら兎も角ずっととなると難色を示した、とか?」
「や、うちで預かれない言い訳には出来でも、黒崎サンが引き取る理由には……。」
「そうでもないじゃん。浦原さんにはお世話になってるし? ルキアがクラスメイトで仲良くなったからって言えば、うちの連中っていうか、遊子が簡単に納得する。」

 自分の尻拭いをさせるというシチュエーションに浦原が躊躇すると、一護は何でもない事のように口を開く。一心は、浦原の親戚という設定で、尸魂界絡みだと気付いていい顔はしないだろうと思って躊躇われたのだ。
 遊子の名に反応したのはルキアだった。

「そういえば、確か妹は二人いたな。」
「虚に掴まってたボブカットが夏梨、もう一人のショートカットが遊子だよ。で、家事を多くやる分権限が強いのが遊子。」
「なんだ? お前は権限が薄いのか?」
「半日授業とか休日に浦原さんとこで修行させて貰って、家事放棄する事があるからねぇ。最近はすっかり権限が弱くなった。」

 くすりと笑う一護に、ルキアが訝しそうな顔をする。現世の子供が何故そうも浦原の所で修行をしたがったのかが判らない。尤も、先ほどの浦原との手合わせを見る限り、自分の代役を安心して任せられる腕前だとは思う。

「上に上がりまショ。」

 浦原の促しに、一護が跳び上がり、浦原がルキアを抱えて後に続いた。
 土曜の学校帰りは、浦原の所で夕食を摂ってから帰宅するのは当たり前くらいになっていて、泊まる時は連絡を入れなければならないが、そうでなければ改めて連絡を入れる必要はない。
 テッサイの料理に舌鼓を打ち、食休みをしてから、浦原に送られて一護はルキアを伴って帰宅した。その際、浦原商店の棚から歯ブラシを買い取る事も忘れない。

「歯ブラシッスか?」
「うちは、食後十分以内に歯磨きをしないと自動的に次の食事が抜きという『遊子法典』がある。」
「『遊子法典』?」

 不思議そうなルキアに、一護は溜息を吐く。

「乳歯の時に虫歯を経験して懲りたんだろうねぇ。遊子が言い出して実行したら歯磨きを忘れなくなったんだ。遊子が言い出して実行するようになった我が家のルールを『遊子法典』と呼んでる。」
「門限七時もその『遊子法典』ッスか?」

 浦原の問いに、一護は眉間の皴を寄せる。

「いーや。家族団欒大好き髭達磨が決めた。高校生になっても家族団欒は変わらない、とか主張して撤回はなしだ。週末に浦原さんとこ行く頻度が上がったから平日は厳守の上、門限破る時は浦原さんに送って貰え、ときた。」
「泊まった方が世話なしですねぇ。」
「それじゃ、ルキアを預かれない言い訳が成立しないよ?」
「一日二日なら兎も角、って言ってたじゃないッスか。」

 なんとも長閑なテンポの会話に、ルキアは半ば呆れ半ば諦めの心境で並んで歩いた。
 黒崎家で出迎えた遊子と一心は、一護の指摘通りルキアを歓迎すらして見せて、一人クールな夏梨も、年頃の娘をずっと預かる事に浦原が躊躇したという言い訳には納得した。

「申し訳ないッスねぇ。お姉さんがルキアさんとクラスメイトで親しくなられたとかで、申し出て下さったのを良い事に甘えてしまって。」

 一護の考えた言い訳に浦原も協力して、遊子に頭を下げる。

「……高校生の女の子をやたらと泊める事を良くないと考える人なら、反って信用が出来ます。」

 如何にも愛想笑いと判る頬を引き攣らせた遊子の笑顔に、浦原は内心で苦笑する。
 浦原が帰った後、娘が四人になった、とハイテンションで真咲の遺影に報告する一心に、言葉を失くしているルキアを見て、夏梨が同情半分で口を開く。

「あの髭達磨のハイテンションには、一姉だって付いて行けないんだから、気にする事ないよ?」
「あ、ありがとう。」

 にこり、と、現世現代知識として仕入れた情報を駆使して礼を言うルキアに、一護は小さく溜息を吐く。

「ルキア、何処で寝て貰う? 私の部屋か、ピアノ室のソファをベッド仕様にして寝て貰うか、かな?」
「ルキアちゃんの好きな方で良いんじゃねぇか?」

 言葉を挟んだのはハイテンションで真咲の遺影に縋っていた一心だ。

「じゃあ、取り敢えず私の部屋行こうか。」

 ルキアは一護に言われるままに後を付いて行く。ルキアの希望で、表向きは一護の部屋に布団を敷いてという形に納まり、一護の部屋の押し入れで寝起きする事になった。

「リネン類はうちの物を使えば良いけど、下着は流石にね。帰り道では浦原さんが一緒だったから買うに買えなかったからないんだ。」
「どうすれば良いんだ。」
「ん~。とりあえず、コンビニで買ってくるか。」

 一護はそう言ってメジャーを出すとルキアのサイズを簡単に測った。

「何をしているのだ?」
「洋服はあまり体に合わない物だとみっともないんだ。」

 言いながらルキアのサイズをさらさらとメモした一護は、遊子のパジャマで間に合うな、と呟いた。
 メモを置き去りにして部屋を出た一護は、隣室の双子の部屋のドアをノックをしてから顔を出す。

「お姉ちゃん?」
「遊子。ルキアにパジャマ貸してやって貰えない?」
「ルキアちゃんにパジャマ? そういえば、ルキアちゃん、荷物らしい荷物持ってなかったね。」
「なんか、あまりにも急だった所為で引っ越しを業者任せにしちゃって、ルキアの荷物も海外に送ったらしい。」
「え……。」
「教科書は転校したから学校支給だけど、私服が一切ないんだってさ。」
「待ってて。持ってくる。パジャマと、着替え、ワンピースで良いかな? あ、下着とかも要るよね?」

 慌てて箪笥に向かう遊子に、一護は苦笑する。

「下着は流石に遊子のじゃ困るでしょ。今夜の分はコンビニで買ってくるし、明日買い物行ってくるよ。」
「あ、うん。」

 下着に至るまで私服がない状態ではさぞかし困るだろうと、遊子はルキアを気の毒に思い、一番楽なパジャマと、遊子にはまだ早いと言われながらも強請ったワンピースをルキアの為に用意した。

「サンキュ、遊子。」

 多少の嘘は仕方ないとしても、後で辻褄が合わなくならないように最低限の嘘で済ませようと、一護は肝に銘じる。
 遊子から借り受けたパジャマとワンピースを持って部屋に戻り、ルキアが自分の空間と認識した押し入れに入れてやる。

「後でちゃんと遊子に礼、言いなよ?」
「わかっておる。」
「下着の替えは取り敢えず今夜の分はこれからコンビニに行くよ。帰ったらお風呂一緒に入ろう。使い方、判んないだろ?」
「………頼む。」
「うん。じゃ、行くよ。」

 一護はこの場合を見越して密かに隠しおいた小遣いを持ってルキアを促した。

「なんだ、一護、こんな時間に出掛けんのか?」
「帰りに買えなかった物、コンビニまで買いに行ってくるよ。」
「浦原に買って貰えば良かったじゃねぇか。」
「流石に下着は、浦原さんに買って貰うのはねぇ?」
「そ、そうか。」

 肩を竦める一護に、デリカシーがないと普段から言われる一心も言い募る事は出来なかった。

「それでは、おじさま、行って参ります。」
作品名:MEMORY 死神代行篇 作家名:亜梨沙