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MEMORY 尸魂界篇

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 花太郎から聞かされたルキアの話は、ルキア自身が生きる事をさっさと諦めてしまっている。ルキアを助ける為に、現世から尸魂界まで来た自分達は、ルキアが生きる事を諦めてしまう事など受け入れられない。
 つらかろうが苦しかろうが、誰かの命を引き継いで生き延びたなら、精一杯生きるのは、助けられた者の最低限の義務だ。

「必ずルキアを助け出す。」

 懺罪宮を目の前にした地下水道の出口に辿り着き、一護は岩鷲と花太郎を伴って地上に出る。
 霧で霞む視界が晴れると、懺罪宮への階段前に赤く長い髪を風に靡かせた長身の姿があった。
 恋次の姿に、一護は驚きもしない。

「岩鷲、花太郎。下がってろ。」
「無茶だ、一護!」
「一護さん!」
「大丈夫だ。」

 言うと、一護は恋次の前に進み出た。

「テメェ、あん時の餓鬼……。」
「あの時、ルキアを助けようって気概もない、と私を詰っていたな、阿散井恋次。」
「俺の名を……。」
「知っているさ。あの時の言葉、其の儘貴様に返してやる。」
「何っ⁉」
「自分で助ける力も気概もないくせに、よくも私に向かってあの科白が吐けたものだ。」
「テメェ……!」
「何の為に今まで上を目指してきたっ⁉ 力が及ばないと、指を咥えてルキアが殺されるのを眺める為か⁉」
「テメェがルキアの力を奪ったからじゃねぇかっ!!」

 恋次が怒りに任せて放った蛇尾丸の始解を、一護は手を翳して軽く跳ね除けた。

「勘違いも甚だしいっ!!」

 一護も斬月を開放して斬撃を放つ。
 一護の霊圧を食って放たれた斬撃は、恋次の頬を掠めて傷を残す。

「逸れてるぜ。」
「当たり前だ。外したんだから。」
「テメェ……。」

 恋次の霊圧が上がる。
 岩鷲も花太郎も、高まる霊圧に物質的な圧力を感じていたが、一護はまるきり平然としている。

「ナメるんじゃねぇっ!」

 怒りに任せて蛇尾丸を放つが、一護は蛇尾丸の膂力を軽く受け流す。

「!」
「何を勘違いしてるんだ? あの時ルキアを連れ戻すお前達を止めなかったのは、処刑自体をやめさせる決定が下らなけりゃ、同じ事を繰り返すだけだと思ったからだ。その為には尸魂界に乗り込んで、処刑を下した奴を潰すしかないからな。」
「処刑を下した奴を潰す? 四十六室をか? はっ! 出来るわけねぇだろうがっ!!」

 怒鳴りながら放つ恋次の攻撃を一護は悉く軽々と跳ね返した。
 恋次は、限定霊印を受けていた現世でなら兎も角、尸魂界では力の制限は受けていない。それなのにあしらわれるのは、一護が強いのではなく、自分が力を出していないからだ、と思っていた。だから徐々に霊圧を上げていったが、一護は恋次に合わせるように霊圧を上げていく。

「テメェ如きに何が理解るってんだっ!」

 蛇尾丸を放ってくる恋次の攻撃を躱しながら、一護は恋次との間合いを測る。月牙天衝を使う時よりも近い間合いで、一護は斬月を構えると、恋次だけに攻撃が向かうように角度調整をする。

「月牙放散。」

 大きくはないが、鋭い霊圧の牙が恋次を襲う。
 恋次は訳も理解らずに月牙を受けて全身に傷を負った。

「!!」

 恋次は目を瞠る。
 一護をルキアから死神能力を譲渡されただけの現世の人間だと侮っていた恋次は、あっさりと一護に後れを取ったのだ。

「確かに、お前程度じゃ、朽木白哉を止める事もルキアを助ける事も出来ないな。」
「テ…ン…メェ……ッ…。」
「……初めから敵う筈もないと諦めていれば、可能性はなくなる。」
「!」
「ルキアを助けられないって思いの八つ当たりを向けて来るだけしか出来ない餓鬼なんぞ、相手にしねぇっての。」
「テメ…ッ…。」

 一護は鼻先で、フンっと嗤うと花太郎を手招きした。

「一護さん?」

 呼び寄せられる儘にトコトコと近付いてきた花太郎の疑問に、一護は恋次を指差す。

「応急処置だけはしといてやってくれ。私達はルキアを助ける為に来たんであって、死神を殺す為に来たわけじゃないからな。」
「は、はいっ。」
「!」

 戦う事は死と隣り合わせ、敗北は死を意味するという認識しかなかった恋次は、一護の言葉に目を瞠る。

「何を驚いてるんだ。死神が虚を撃つのは死後の罪を浄化して魂魄を尸魂界へ送る為だろうが。掟に唯々諾々と従っているだけで、悪事を働いているわけでもない死神を殺す謂れは、私にはないぞ。」

 腕を組んで、倒れ伏す恋次を見下ろす一護の瞳に、感情は浮かんでいない。

「死神ってのは気の毒だな。軍隊と同じ機構だから、上官に従うのは絶対条件とはいえ、正しいか間違いか、真実や事実を見極める事さえ出来ないんだからな。」

 呟くように言う一護に、恋次の傷の手当てをしながら、花太郎は一護の言葉を思い出す。

「そういえば、一護さん、ルキアさんは冤罪だって……。」
「ルキアが深手を負った時、本人はしようとしてたけど、実際にはしなかったからな。第一級重禍罪だから未遂でも罪だって理屈もあるが、未遂である以上、平隊員に双殛での処刑は有り得ないだろう。」
「双殛ってなぁ、なんなんだ?」
「斬魄刀百万本に値する破壊能力を持つ隊長格専用の処刑具。」

 岩鷲の質問に応えて、驚きに目を瞠る岩鷲を置き去りに、一護は恋次を見下ろす。

「明らかに四十六室の決定自体が異常なのに、疑問を持たないらしいな? 朽木白哉に伝えろ。『自分で考える事を放棄しているから付け込まれるんだ』ってな。」
「……誰に、付け込まれるってんだ?」
「さぁな。そんな事ぁ、自分で考えろよ。私達は敵なんだろ?」
「ッ!」

 花太郎が止血だけでなく手当までしようとしている事に気付くと、一護は花太郎の肩を掴んで止める。

「応急手当っつったろ。それ以上手当てして回復されたら、また再戦になるのは目に見えてるからな。そんなのは御免だ。」

 言って花太郎を離すと、一護は小さく呟いた。

「塞」
「!」

 初級とはいえ、俄か死神が詠唱破棄で縛道を使って見せた事に恋次は驚愕する。

「助けが来るまでそこに転がって良い子にしてな。」
「て……めぇ……!」
「出来るわけがねぇと、さっさと諦めて指咥えてルキアが殺されるのを見てるか、無理でも無茶でもしてルキアを助けようと動くか、選ぶのはテメェだ。」

 一護は恋次を見下ろして、頬に負った掠り傷から滲んだ血を指先で拭った。

「チッ! 副隊長相手に掠り傷でも負ってるようじゃ、先が思いやられる。」
「副隊長ったらとんでもなく強ぇんだぞ。」
「隊長から見れば半分の力もないんだよ。私が相手にしなきゃならないのは隊長だ。まだまだ力不足だっつの。」

 ぼやきながら一護はさっさと恋次に背を向けて立ち去ってしまった。
 岩鷲と花太郎も慌てて後を追う。
 深い傷ではなかったものの、出血した量がある程度だったので、恋次は一護に掛けられた縛道を解く力もなかった。
 吉良イヅルに助けられた恋次は、単身で出掛けたにも拘らず敗北を晒した咎で隊舎牢に入れられた。
 恋次は霞んだ意識の中で、一護の言葉を白哉に伝えたが、「戯言だ」と一蹴された。始めから聞く耳を持たない白哉の態度に、恋次は初めて掟に従うという事の危険性に気付いた。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙