MEMORY 尸魂界篇
「で? そうやって騒ぎを大きくしてでもなんでもルキアを双殛で殺したかったのは何故って訊いたら答えてくれるのかな?」
するべき質問をしたご褒美だと言わんばかりに、藍染は滔々と講釈を垂れる。途中で狛村左陣の乱入もあったが、藍染の鏡花水月の前に敢え無く深手を負った。
狛村の乱入で陣形を崩され、白哉が一護を庇って傷を負い、恋次は深手を負い、藍染の手にルキアが囚われる。
藍染の話の中で、ルキアは斯波海燕とその妻・都を死に追いやった虚が藍染によって作り出されたものだと知った。そして浦原が親切で義骸を貸し与えたわけではなかった事も。
一護は、崩玉の作用が、浦原が狙った物でも、藍染が望む物でもない事に気付いていた。寧ろ、浦原が狙った作用の方がましだったかも知れない。
「私達を浦原さんの部下だと思って、浦原さんと知恵比べをしている気でいたんじゃないのか、藍染惣右介?」
「知恵比べだなどと、そんな事はしないよ。彼は千思万考。流石の僕も及ぶところではないからね。だからこうして彼の造った物を欲して動いている。」
「ふぅん? 浦原さんを千思万考と評価しながら、目当ての物が未だルキアの中にあると信じているんだ?」
「……何を言いたいのかな?」
「これ、な~んだ?」
一護は、手の中に握れる程度の大きさの透明な物を指で挟んで翳して見せた。
「……それが、なんだというのだね?」
「さて、なんでしょう?」
一護は首を傾げて見せる。
「………まぁ、いい。それが何であるかは、朽木ルキアの中から崩玉を取り出した後から確かめれば済む事だ。」
藍染は浦原の置き土産の技術でルキアの魂魄から異物質を取り出そうとするが、何もなかった。
「何っ⁉」
ルキアを放り出して一護を振り返った藍染の視線を留めるのは、先程一護が翳して見せた小さな物質。
「白哉!」
一護の叫びに素早く反応した白哉がルキアを掬い上げ藍染から距離を置く。
「ギン。」
藍染がギンの名を呼び視線が一護に向く。
「しゃあないなぁ。」
藍染の指示に従おうとしたギンの視界から一護の姿が消える。
「言ったろう?」
ギンの背中から一護の声がする。一護はギンの『神槍』を封じた反対の手でゆっくりとした動作でギンの手を取りそれを載せる。
「『あんたがルキアの命を奪う気がなけりゃ、あんたの目当ての物なんて簡単にくれてやる事も厭わなかったんだ。』と。」
一護の華奢な手がギンの手に崩玉を握らせる。
認めた藍染が動こうとした直後、空から兕丹坊に載った空鶴が降ってきて破道の六十三『雷吼炮』を藍染に向けて撃ち込む。空鶴の『雷吼炮』は難なく避けた藍染は直後、夜一と砕蜂に取り抑えられた。松本乱菊が市丸ギンを捕え、檜佐木修兵が東仙要を捕える。
「乱菊さん、市丸を放すなよ。」
一護は乱菊に囁いて、崩玉を握らせたギンの手をぎゅっと握ってから離れる。
「!」
驚いて一護に視線を遣ったギンを乱菊が不審そうに見る。
一護はルキアを抱き取った白哉の元へ行き、ルキアの無事を確かめてから恋次に駆け寄る。
次々と護廷隊の隊長格が駆け付けてくる。
「遅うなってすまんかったのう、一護。」
「私は時間稼ぎしてただけだし。頑張ったのはルキアと恋次。手を貸してくれたのは白哉だ。」
「時間稼ぎ……? それは僕の科白だよ。」
「夜一さん、砕蜂さん、乱菊さん、檜佐木さん! 反膜が降る! 気を付けて!!」
直後、藍染に降った反膜に夜一と砕蜂が飛び離れる。続いて東仙要に降った反膜から檜佐木が飛び離れ、ギンに降り掛かった反膜から、乱菊はギンを引き摺って飛び離れる。
「放してくれんの、乱菊?」
「あの子が、あんたを放すなって言ったからね。」
ギンを拾い上げようと反膜を降らせようとする大虚に、一護が月牙天衝を放つ。
無駄な事をする、と思った山本元柳斎重國の前で、一護の放った月牙天衝に斬られて大虚が逃げを打ち、ギンを追い掛けようとした反膜が消えた。
「なるほど。卍解状態を保ちながら僕に斬り掛かるでもなく大人しくしていたのは、反膜を断ち切る為かい? だが、僕や要の分までは防げなかったようだね?」
「おや? 気付いているかと思っていたのは買い被りかい?」
一護が態と藍染の口調を真似て揶揄する。
「………成程。たいしたものだね、旅禍の少年。君に免じてギンは見逃してあげよう。」
己が天に立つと宣言した元隊長は反膜に導かれて異空間へ消えていく。
「さようなら、死神の諸君。そしてさようなら、旅禍の少年。人間にしては、君は実に面白かった。」
余裕の笑みを浮かべている藍染の視界に入るように、一護はギンの手の中から崩玉を取り上げて翳して見せる。天鎖斬月と同じ手に崩玉を持ち、もう片方の手をひらひらと振ってみせる一護に、藍染は一瞬顔を引き攣らせたが、不敵な笑みを浮かべて片手を挙げて見せた。
「ふん。性別の見分けも付けられん奴が、偉そうにしても格好なぞ付かんわ。」
近くにいた乱菊がギンを拘束した儘一護の声を拾う。
「性別の見分け?」
首を傾げる乱菊に、拘束された儘のギンがポツリと言う。
「そら、こないに可愛いお嬢ちゃんを少年とか言うんやもん、カッコ付かんわなぁ。」
「お嬢ちゃん……少年……って、あんた女の子ぉっ⁉」
乱菊の大声に、周囲にいた死神達の視線が集中する。
ルキアと恋次、白哉、夜一は驚いていないが、他は全員が驚愕している。
一護は肩を竦めて視線を走らせる。
決着が付いた事を知ったのだろう仲間達が駆け寄ってくる。
「姫! 恋次の……赤い髪の男の手当てしてやって!」
「いちごちゃん?」
「黒崎、君は怪我は……。」
「白哉とやった時に怪我したけどそれはもう治ってる。」
一護は駆け寄った織姫に恋次を示し、織姫は恋次の怪我の状態に気付いても顔色を変えるでもなく早急に手当てに懸かる。
「双点帰盾。」
わらわらと現れた旅禍達に、隊長達は無言だ。
旅禍の仲間に山田花太郎の姿を見つけ、隊長格が驚く中、一護は花太郎にも容赦なく指示を出す。
「花太郎! 狛村さんの傷の手当てを! 詠唱破棄とは言え藍染から破道の九十の『黒棺』を喰らってる。荷重力による傷だ!」
「は、はいっ!」
花太郎が狛村に取り付く傍ら、岩鷲が一護に歩み寄る。
「一護……。」
「いよぉ。クソガキ!」
「ね、ねーちゃん。」
一護にルキアの事を正そうとした岩鷲を空鶴が遮る。
「あまり役に立たなかったみてぇだなぁ?」
「く、空鶴さんっ! 岩鷲、ちゃんと役に立ったからっ! 私の手間省いてくれたしっ! 回帰術使える同志拾ってくれたのも岩鷲だしっ!」
一護が慌てて空鶴に食い下がる。
「ほぉっ⁉」
疑いの目で見る空鶴に、一護はびくびくしながらも言い募る。
「マジ、実力三席の奴を岩鷲が引き受けてくれたお陰で、私は楽させて貰ったからっ!」
「実力三席……?」
「綾瀬川弓親、だよ。十一番隊の五席だけど、他の隊なら間違いなく三席の実力だから。」
そんな強い奴いたの? 岩鷲の言外の疑問に、一護が溜息混じりに答える。
「あいつそんなに強いのか?」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙