MEMORY 尸魂界篇
「一護が真血って、一体誰の……。」
岩鷲の呟きに、意味が理解ると判断した雨竜が、一護と織姫の間から身を乗り出して岩鷲の肩に手を掛ける。
「岩鷲君、教えてくれないか。しんけつって一体何の事だい?」
「本当の事かどうか、俺は知らねぇ。」
「え?」
「真血ってぇのは、死神と人間の間に、親の死神よりも強い力を持って生まれると言われてる混血の事だ。」
岩鷲の代わりに雨竜の疑問に応えたのは隣にいた空鶴だ。
「死神と人間の混血?」
「ああ。」
空鶴の肯定に、雨竜と茶渡は驚いて一護を見る。
「黒崎?」
「一語……。」
戸惑う現世組に、一護は肩を竦める。
「一護ちゃん、君、一体誰の………?」
京楽の問いに、一護は困ったような顔をする。
「一護………。」
戸惑って向けられる隣からの声に、一護はルキアを見る。
「初めに話したろう? ルキアは私に死神能力を譲渡したんじゃなく、私の封印を解いたんだ、と。嘘だと思っていたんだろ?」
「ああ…………。」
「だから、尸魂界に居場所がばれると思った時に、一人で姿を晦まそうとした?」
「解っていたのか。」
「ま、私が誰なのかを知っている浦原さんですら、信じられなかったくらいだ。ルキアが信じられる筈もないさ。」
「でも、その所為で付け込まれたわけだしねぇ。」
京楽が口を挟むと、一護は肩を竦める。
「どちらかというと、付け込ませた、かな。」
「え?」
意味が掴めずきょとりとする隊長達と違い、夜一はくすりと笑い、ギンは呆れたように一護を見る。
「もしかしなくても、一護ちゃん、藍染隊長が黒幕って、初めから知っとったん?」
「私には事情通の情報源があったから。」
「浦原君かい?」
京楽の問いに一護は肩を竦める。
「浦原さんは私には事情は何も話してくれなかったよ。」
「何も?」
「そう。あの人が私に教えてくれたのは、霊力の扱い方と斬拳走鬼の基本と、私が答えを求めた質問の一部の答えだけだ。」
「基本だけ?」
「そう。教えてくれたのはね。応用は、私が確認した時に正解か否かだけ答えてくれるくらい、かな。私が使えるようになってきてから、相手はしてくれたけど。」
「相手?」
「実戦形式で。」
「「「「「………。」」」」」
「“鬼の喜助”が弟子をねぇ。」
死神としてはまだまだ未熟な一護に実戦を強いる浦原に絶句する面々の中で、若干名は別の事に感心している。
「そういえば、浦原さんが言ってたなぁ。“アタシが弟子を取るのは後にも先にも黒崎サンだけッスね”って。」
「へぇ……。」
京楽が興味深そうに頷くのに、一護は小首を傾げて夜一に視線を向ける。
「浦原さんが弟子を取るって、そんなに凄い事?」
「あやつは究極の面倒臭がりじゃ。」
「は?」
「相手に理解るように説明なんぞしたりはせんぞ。」
「ハイ?」
夜一の言い分こそ不思議だとでも言いそうな一護の反応に、夜一が眉を跳ね上げる。
「なんじゃ? 不思議か?」
夜一が面白そうに尋ねるのに、一護は不思議そうに小首を傾げながら頷く。
「斬拳走鬼に限らず、現世の学校の勉強でも理解るように教えて貰ってたし。」
「ほう?」
「貴様、夜一様が嘘を吐くとでも言う心算か?」
凄む砕蜂に、一護は困惑頻りという表情だ。
「よいよい。一護にとっては喜助の教え方が理解り易いのが普通なのであろうよ。」
「あの喜助君がねぇ。」
京楽の言う“あの”は一護には理解出来ない指示語だった。
「ぺいっ! 話が逸れておるわっ!」
元柳斎の叱咤に、古株の隊長達は興味深い浦原の話から話題を戻すべく顔を見合わせる。
一護は苦笑して話の続きを始める。
既に死神化していながら、その能力に架けられていた一護の封印を、ルキアが注いだ霊力が焼き切った。封印が解けると同時に、一護は死神化して虚を葬った。深手を負ったルキアの手当てと家族の手当てをしようにも一護は回帰術は使えない。困っていたところに浦原が来て、霊力の殆どを失ったルキアの状況から考えて、重禍罪の嫌疑を掛けられる危険を感じた一護が、浦原にルキアに霊力を回復させる義骸の貸し出しを求めた。
「後で義骸代払うって言ったのに、実際に提供してくれた義骸は霊力分解して只の人間にしちゃう義骸だったんだから契約違反だよな、浦原さん。」
「何故、そんなな真似を……。」
浮竹の疑問に、一護は溜息を吐く。
「ルキアに魄内封印していた崩玉を藍染が狙っている事が判っていたから、ルキアごと崩玉を行方不明にしようとしてたんじゃないかな?」
「何故今更。」
「それを狙って、戌吊で見つけた赤ん坊の捨て子に、魄内封印で隠したんだと思う。」
「あ?」
「戌吊って、捨てられた赤ん坊が生き延びられるような所じゃないんだろ?」
「私が成長して死神になったのは、浦原にとっては大いなる計算違いというわけか。」
ざまぁみろ、とでも言いそうなルキアに、一護は溜息を吐く。
「朽木ルキアが、死神能力を譲渡しようとして、結局封印を解いた、という事なんじゃな?」
「まぁね。意思があれば有罪とまで言うなよ。」
「そこまでは言わん。」
「うん。」
「したが、その封印は、誰が施した物なのじゃ。朽木ルキアの残った霊力如きで解けるような脆い封印とは。」
眉を顰める元柳斎に、一護が溜息と共に口を開いた。
「母、だと思う。」
「む?」
「あの時、自分の命と引き換えに私を護って、その時に死神化した私の力を、最後の意識で封印したんだと思う。朧な記憶なんだけど。本当の所は判らないけどな。」
何故一護の母親が死神能力を封印するなどと言う真似が出来たのかという謎は残るが、一護の指摘通り話が進まなくなる。
肩を竦める一護に、事実の解明も此処までらしいと自分を納得させて、元柳斎は息を吐いた。
「で、自分が死神化した事は覚えてたから、年々上がる霊力に、このままじゃ拙い気がするからって父親を問い詰めて、真血の事を聞き出したのが十三になろうかって頃。それで、浦原さんに霊力のコントロール教えて貰い出した。」
随分と聡い子供だ、とチラリと元柳斎は思った。
「封印が解けてから霊圧のコントロールが効かなくなって、姫やチャドの霊力を目覚めさせちまった上に、死神に恨みがあるっつー滅却師に絡まれて面倒な事になって現世に出現した大虚を倒したら、尸魂界に居場所がばれると思ったルキアが逃走を図ったんだよな。探索に来た白哉と恋次に早々に見つかって連れ戻されたわけだけど、白哉と恋次が派遣された事自体、命令を下したんは藍染だったようだぞ。」
驚く死神達に、元柳斎が溜息と共に頷く。
「虎徹副隊長からの天挺空羅の後、藍染が得意げに喋っとった模様を、天挺空羅で聞かせたのは誰の仕業じゃ?」
元柳斎の視線は、白哉、恋次に注がれている。
「へ?」
「?」
恋次の間抜けな声と白哉の訝しそうな視線に、元柳斎は予想が外れた事を知る。
「そういやあ、俺にも聞こえたな。」
「俺もッすね。」
「へぇ? 隊長と一角は聴こえたんだ? 僕には聞こえなかったんだけど。」
旅禍として追われていたメンバーと花太郎には聞こえていた。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙