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MEMORY 尸魂界篇

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「え、あ、なに?」

 花太郎に名を呼ばれて慌てて振り返る織姫の声が高く跳ねて、一護が不思議そうに振り返るのに、織姫は慌てて両手を振って何でもないとジェスチャーする。一護は首を傾げながらも、再び桃に顔を向け柔らかく声を掛ける。
 冬獅郎は、花太郎と荻堂を促し織姫を廊下に連れ出した。

「黒崎、階下の談話室にいるからな。」
「あ、うん。」

 離れ難そうな視線を向けはしたものの、織姫は素直に冬獅郎の促しに従った。
 花太郎は織姫が秘かに落ち込んでいる事までは判ったが、理由にまでは思い至らなかった。一方荻堂は見当が付いていたが、それが同性に対する憧れなのか本気なのか判らず、口に出す事が憚られて言いあぐねていた。
 口を開いたのは冬獅郎だ。

「黒崎と井上でここ数日、雛森の見舞いに来てくれているんだってな。」
「あ、うん。私は虎徹さんの天挺空羅って言うの? 聞こえなかったから良く判らなかったんだけど、雛森さんを傷付けたのは直属の上司だった人で、その人が裏切りの主犯格だって。いちごちゃん、もっと上手くやれば雛森さんを傷付けさせなくて済んだんじゃないかって……。」

 気にしていたから気に掛けるんだろう、と呟くように小声になる織姫に、冬獅郎は苦笑する。幼い妹が大好きな兄や姉を他人に盗られたと拗ねているようだ。

「それに付いちゃ、俺の油断と計算違いだ。黒崎の所為じゃねぇよ。」
「うん。……ありがとう。いちごちゃんにも言っとくね。」

 にっこりと笑顔を浮かべる織姫の、笑顔の下の戸惑いを、冬獅郎は正確に把握していた。
 思い掛けない霊圧の接近に、冬獅郎が弾かれたように談話室の入口を振り返ると、ルキアと一護を伴った白哉がゆっくりと歩いて来るところだった。傷を負って間もなくに織姫が治療をしたとはいえ、織姫の使う術は回帰術ではなく、失った霊圧は回復しない。霊圧が回復しないという事は体力は回復しないという事である。傷が塞がっただけで安静を言い渡された身でありながら、事情聴取に参加する事を望んだ為、回復が遅れ未だ入院しているのである。

「朽木。起き出しても良いのか?」
「卯の花の許可は取った。」
「卯の花隊長の許可が出るくらいまでになられたのなら良かったです。」

 花太郎の気弱な笑みに、白哉は視線だけを向けた。
 花太郎の隣にいる織姫に気付いて軽く頭を下げる。

「白哉が姫に礼を言いたいって卯の花さんを説得したんだ。」
「え、ええっ⁉ あたし?」

 織姫が自分を指差すと一護が頷く。
 ルキアが白哉を冬獅郎の隣に促すと、冬獅郎も空間を空ける。
 荻堂と花太郎が席を立ち、ルキアと一護は織姫の隣に並ぶ。

「井上織姫。双殛の丘では世話になった。礼を言っていなかったので、改めて、感謝を述べたいと思ってな。」
「え、いえ、そんなっ!」

 慌てて言葉になっていない織姫は、白哉に下げられた頭をどうやって上げて貰えば良いのか解らず途方に暮れる。助けを求めるように一護を見るが、一護は苦笑しているだけで手を差し伸べてくれる気配もない。

「あ、あたしはっ……いちごちゃんに言われる儘に動いただけで、何かしたわけじゃなくてっ………お礼を言われるような事してません。」

 一護の役に立てなかったという意識が浮かび上がり、秘かに落ち込んだ織姫は俯いてしまった。
 織姫の様子に気付いた一護は、白哉に頭を上げさせるように冬獅郎に視線で頼み、織姫に向き直る。

「ひーめ。一緒に来たのに役に立たなかったとか思い込むのいい加減でやめな。」
「でも、いちごちゃん。」
「あんたは自分の怪我は簡単に治せないんだから、怪我しないでくれたのは何よりなんだよ。仲間の怪我どころか、未だ旅禍扱いされてる中で、恋次と白哉を躊躇い無く治してくれた事も感謝してる。」
「だって、二人とも酷い怪我だったし………。」
「姫にとっては、敵も味方もないんだよね。」

 苦笑しながらの一護の言葉に、白哉と冬獅郎は微かに眉を顰める。

「あたし……。」
「姫は優し過ぎるんだよ。」

 一護は織姫の頭に手を載せ、撫でるように何往復かさせて離す。

「今回は、ルキアの処刑を止めたかっただけで、誰の命も失わせたくなかったから良いんだけど、姫の能力はこの先確実に藍染に目を付けられると思う。」
「えっ⁉」

 驚く織姫に、一護は息を吐いて口を開いた。

「姫。覚えて置いて。戦うって事はね。敵を殺す覚悟が必要なんだよ。」
「………っ!」
「その覚悟がないなら前線には出ちゃいけない。でなきゃみすみす仲間を危険に晒す事に繋がる。」

 息を呑んだ織姫に、一護は静かに、だが断固として言葉を継ぐ。

「いちごちゃんは……その覚悟をして、尸魂界に来た……の?」
「生きて帰る為に必要なら、斬る覚悟を付けて来たよ。」
「生きて、帰る、為……?」
「そう。一人で乗り込んだなら、ルキアさえ助けられれば良いと思ったかも知れない。けど、みんなで来たからさ。」

 一護は回想するように視線を飛ばして言葉を継ぐ。

「みんなを生きて返す為には私は負けるわけにはいかなかったからさ。」

 ふ、と一護が苦笑する。

「浦原さんは、私に生きて帰る覚悟決めさせる為に、みんなを一緒に送り込んだのかも知れないな。」
「……っ!」

 それはつまり、浦原が言っていたように一護の援けになる為というのは表面上の事で、本当は一護の枷にする為に一緒に送り込んだという事なのだろうか。

「まぁ、石田なんかはちゃっかりお師匠さんの仇取ったらしいし、チャドは運良く京楽さんと当たって生き延びたし、姫に至っては剣八ややちるに保護して貰って、四番隊に収監されてた石田とチャドを助け出すまでしてくれたから、多分浦原さんの期待以上の活躍したんだと思うけどな。」

 くすくす笑いながら言う一護の横顔に、織姫は苦笑して俯く。

「いちごちゃんは、裏切った隊長さんの存在を知ってたんだね。」
「先日話したろ。私は真血で、私の存在を藍染は知ってた。」

 ルキアが気付いて口を開きそうになるのを察して、一護がルキアの手をぎゅっと握る。
 ルキアと雨竜は、一護が滅却師と死神の混血の真血である事を知っている。

「どうして、あたし達に話してくれなかったの?」
「死神嫌いを公言してる石田が同行し難くなるじゃん。」
「あたし達が、ビビると思った?」
「……チャドも石田も怯んだりしないと判ってたよ。姫だってそれでも私が行くと言えば一緒に来たろ?」

 こくりと頷く織姫に苦笑して、一護は頭を掻く。

「みんなに余分な情報を与えて気を散らしてほしくなかったんだよ。知ってたら多分そっちを気にして、なんとか死神達に真実を伝えようとしたんじゃないか?」
「あ、そう、かも、うん。」
「そんな事して、もし誰か一人でも信じてくれたら、信じてくれた死神は今頃殺されてただろうね。」
「えっ⁉」

 まさか、と織姫の唇が動いた。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙