二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

MEMORY 尸魂界篇

INDEX|61ページ/67ページ|

次のページ前のページ
 

「私が引っ掻き回した十一番隊は、一角と剣八は重傷だけど命に関わるほどじゃなかった。他は軽傷。恋次も重傷だったけど、重体じゃない。副隊長三人は打撲くらいだし、白哉の傷は温泉で治した。石田は姫ばかり狙った卑怯者の霊力を奪うだけに留めて、涅マユリは戦闘不能まで追い詰めただけだったらしいし、チャドは八番隊の三席を戦闘不能にしたくらいで他は軽傷だったろ?」

 一護は確認するように花太郎に顔を向ける。
 花太郎は良く判るものだと半ば感心しながら頷いた。

「旅禍である私達が出した被害はそれだけだったけど、藍染は思い切りよく命を奪ってるだろ。」
「思い切りよくって、お前な。」

 一護の物言いに冬獅郎が呆れたように口を開く。

「中央四十六室皆殺し。雛森さんを殺す心算で手に掛けた。それを発見した冬獅郎も殺す心算だった筈だ。で、ルキアを守ってた恋次も容赦なく甚振ってたし、ルキアを奪うついでに私を封じようとして庇ってくれた白哉に深手を負わせた。ルキアの中に崩玉がないと知れると市丸にルキアを殺させようとした。」
「実際に殺した人が四十六人で、殺す心算で五人……?」
「ん~。四人、だろうね。私に向けてた刃に殺気はなかった。けど実力差を思い知らせる為に深手を負わせる心算ではいたと思う。」
「性格の悪さが思い切り出てるな。」

 冬獅郎の合の手に一護はくすりと笑う。

「いちごちゃん、笑い事じゃないよ。白哉さんにはよくよく感謝だね。」
「だ・か・ら、その白哉の傷の治療したんだから、姫は十分私の役に立ってくれたんだよ?」

 理解った?
 一護は織姫の顔の前に指を突き付けて言い聞かせるように言葉を継ぐ。

「……うん。」

 漸く織姫の顔が晴れて、一護は小さく息を吐く。
 一護は苦笑して、話を変えるように、白哉とルキアの顔を見比べた。

「そういえば、ルキア、昨日、カレーの作り方訊いて来たけど、結局十一番隊へ差し入れにしたろ? どうなったんだ?」
「兄様には白粥を作らせて頂いた。」
「作り方覚えてるか?」
「カレーの、か?」
「白哉が元気になったらまた作れば良いんじゃね?」
「兄様は食べて下さると思うか?」

 一護に訊いてくるルキアに溜息が漏れる。

「目の前に本人いんだろうが。」

 苦笑して、一護は肩を竦めた。

「まともな感覚持って育っていれば、弟や妹は可愛いもんだと思うけどな。」
「………貴族の当主になるべく育てられた人間てのは、まともな感覚ってものを持つように育つのか?」

 冬獅郎の、失礼だが尤もな懸念に、一護は噴き出す。

「一護!」
「いちごちゃん!」

 噴き出した一護の態度が白哉に失礼だと声を荒げるルキアと、慌てる織姫に、一護は笑いを殺す努力をしながら手を振る。

「当主になってから、責任と義務で自分を律しているらしいけど、夜一さんが話してくれた白哉なら、間違いなくまともな育ち方をしてるぞ?」
「夜一さん、白哉さんと知り合いなの?」

 織姫の疑問に、一護は白哉をちらりと見て口を開いた。

「子供の頃の白哉を揶揄って遊んだらしい。」
「「「「………。」」」」
「黒崎一護。」

 静かな白哉の声には威厳が籠っているが、一護は慈母のような笑みを浮かべて白哉を見ている。

「子供の頃は恋次より沸点が低かったそうだから、随分自制心が強い人だよなぁ。」

 尊敬さえ籠められている一護の視線に、白哉は溜息を吐いて諦めた。
 その様子を黙って見ていた冬獅郎は、蛙の子は蛙、という諺を思い出していた。斯波一心も、豪放磊落、明朗快活で、人を惹き付けるものを持っていたが、娘の一護も父親と同様人を惹き付けるものを持っているのだろう。あの、朽木白哉を黙らせてしまうのだから。

「だから、ルキア。」

 隣に座るルキアに顔を向けて一護は口を開く。

「そういう事に一々他人を介入させるな。屋敷の使用人だって他人だぞ。流魂街出身だって事でルキアを侮る輩もいるだろうけど、そういう輩は虎の威を借る狐の典型だぞ。」
「……そのような不届き者がいるのか。」
「本気で気付いてないなら、監督不行き届きじゃねぇの、白哉?」

 不快そうに眉を顰める白哉にも、一護は臆した風もなく言い募る。

「主人が義妹として迎えるという意向を示した存在を侮る行為は、主人に対する不敬だって事が判らない莫迦って事だ。再教育が必要なんじゃね?」
「……兄の言う通りだな。」

 素直に認める白哉に、冬獅郎はうっかり声を出しそうになって慌てて息を呑む。気位の高い白哉が、一護のような子供の言い分を素直に受け入れるとは思わなかった。

「ほぇ~。白哉さんて大人だねぇ。過ちては改むるに憚ること勿れ、を地でイケちゃうんだ。心が広くて寛容な証拠だよね。」
「本当に誇り高いから、間違った儘でいる事なんぞ選ばないんだろ。」
「朽木さんのお義兄さんて格好良いねぇ。」

 織姫の感心したような発言に、一護が当たり前のように白哉の誇り高さを肯定すれば、ルキアに向き直った織姫が拳を握って力説した。

「黒崎一護。」
「ん、何?」
「兄は私の誇りを踏み躙ると言ったのではなかったか?」
「あんたが掟に従う事を誇りだとほざいてたからな。」
「ほざ……っ。一護!」

 一護の口の悪さにルキアが抗議するように口を開くが、一護は平然と白哉に視線を据えた儘だ。

「白哉は、朽木白哉という自分にこそ誇りを持つべきだ。護廷十三隊六番隊隊長って肩書も、四大貴族の一の朽木家当主という立場も、その後だ。」

 とても十六になったばかりの子供の言葉とは思えない。
 だが、一護の言葉は正しいのだと、白哉には理解った。
 白哉が自分自身にこそ誇りを持っていたならば、中央四十六室の命令という見掛けに騙されて藍染の命令に唯々諾々と従う間違いを犯す事もなかった筈だ、と子供は言外に告げているのだ。

「手厳しい事だ。」
「言ったろ。私なら掟と戦うって。」

 端的な言葉を紡ぐ白哉の声には重みはあるが嫌悪はない。一護は肩を竦めて平然と答える。誇りある生き方を自分に課す男は、卑怯な真似も権威を振り翳す真似もしないと、一護は踏んでいる。

「誰に対しても通じる物言いとは思わぬ事だ。」
「誇りと気位を履き違えてる輩には言わないさ。」

 一護の言葉に、白哉は僅かに目を瞠り、微かに口元を緩めた。
 正面から白哉が間違っているのだとぶつけて来た現世の子供は、己の非を認めた途端に、敵対心を消し、尊敬心すら抱いてみせる。頑固なのか素直なのか判らない。
 その奔放さが、且てルキアの心を捕らえていた男と似ていて棘が刺さっているような気がしたが、彼の男の奔放さが神経に障ったのは、白哉自身が頑なに掟を重んじていた所為だったのかも知れない。
 あの男は白哉よりも年上で、自由奔放でいながら部下からも上司からも信頼が篤く、白哉は彼が苦手だった。終いには、虚に取り憑かれ、ルキアにとどめを刺させる真似をして、ルキアの心に深い傷を負わせた男は憎くさえあった。
 白哉にとって、自分が定めた形でなく変えられたのは初めての事で、驚愕の事実を自分に齎した現世の子供に、急速に惹かれていく気持ちを止める術を失っている。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙