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MEMORY 尸魂界篇

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 戸惑った儘、動く事の出来ない織姫の存在を、一護は既に意識から外している気配があると見て取った天鎖斬月が内心で舌なめずりをしている事に気付かない儘、一護は続けての手合わせに入った。
 天鎖斬月は立ち位置を一護と入れ替えながら動き回り、無防備な儘の織姫に“逸れた”攻撃が向くように仕掛ける。
 が、天鎖斬月が技を放つと同時に発動した円閘扇や断空を一護は織姫の前に移動させて防いでみせる。

「意識から外しているのかと思ったが、そうでもなかったようだな。」
「………。」

 一護は天鎖斬月の声に応える事なく不機嫌顔で手合わせを続けている。
 一護に天鎖の気持ちも斬月の気持ちも天鎖斬月の気持ちも全ては理解らないように、天鎖斬月にも一護の気持ちまでは理解らない。
 天鎖斬月に理解るのは、今の一護が鍛錬を希望しているという事だけである。ならば要望に応えるまで。
 二度三度と“逸れた”攻撃を一護の鬼道で防がれて我に返った織姫は、のろのろと動いて立ち位置を移動する。動きながら、織姫はやけに遅く感じる思考速度で記憶を辿り意味を考える。
 一護は此処へ来る前に織姫の同行を拒んだ。
 無理に付いて来る事を望んだのは織姫で、此処に着いても温泉の近くに降ろされて離れた所にいるように言われた言葉に従わずに見守っていたのも織姫で、実体化した一護の斬魄刀の“逸れた”攻撃に反応出来ずにいたのも織姫で。
 午前中に一護に言われた言葉を、織姫は軽く考えていた。
 確か、ルキアを殺そうと目論んだ中心人物で、雛森桃の直属の上司でありながら殺そうとした張本人だというその人物が、ルキアの中にあった筈の崩玉を手に入れ損ねていて、この先織姫の能力に興味を示すだろうと、一護は予想した。
 織姫の能力など大した能力ではないし、一護の心配し過ぎだと織姫は思っている。
 ルキアの存在そのものが消されたような学校のみんなの反応に戸惑っていた織姫は、織姫の能力は貴重だから一緒に来てくれるなら有り難いと一護から言われたから、一護の力になれると喜んで同行を決めたのだ。
 実際には織姫は一護の力になれたとは思えない結果だけが残った。
 そうだ。今になって思い出した。
 一緒に行ってくれると助かると言われて舞い上がってしまったが、一護はあの時、命懸けになるから覚悟をしておいてくれとも言っていたのだ。
 織姫は一護が心配だった。
 自分の命さえ顧みないのではないかという勢いで突っ走っているようにしか見えなかった。
 けれど、と。斬魄刀と手合わせしている一護の姿を視界に捕らえて織姫は思う。
 実際は、一護はこうして織姫には見えない所で鍛錬を積み修行をして、織姫の援けなど要らないくらい強くなっていたのだ。
 一護を守るとか助けるとか考える事自体、思い上がりも良い処だったのだ、と織姫は思い至る。
 一護自身が護りたいという思いの強い人だから、織姫の気持ちを汲んでくれただけだったのだ、と考えた織姫はどんどん凹んでいく。
 凹む気持ちの儘に足を進めた織姫は、此処に来て降ろされた場所まで戻っていた。
 視界の端に入った温泉に気付いて、織姫は手を浸す。
 手先を浸しただけで力が湧いてくる感覚に驚いて手を引くと湯がパシャンッと撥ねた。

「この温泉? 何なんだろ。」

 不思議な感覚にじっと見つめていると、ザっと地面を踏み付ける音がする。
 振り向くと、擦り傷だらけになった一護が立っていた。

「いっ、いちごちゃんっ!」

 慌てて治療しようとする織姫の手を停めさせた一護は、死覇装を脱いでいく。

「いちごちゃん⁉」
「姫も一緒に入る?」

 言いながら、一護は軽く畳んだ死覇装の上に手拭いを置いて湯の中に入って行く。湯に入った途端に一護の傷は瞬く間に消えていく。

「えっ⁉」
「うん。この温泉、傷が治るんだよ。姫の力は姫の霊力を削るけどこの温泉は負担懸かんないからね。姫も浸かると良いよ。疲れも取れるから。」
「………。」

 織姫は茫然としながら、温泉に浸かって傷の消えてしまった一護を眺めていた。
 こんな温泉まであったのでは、織姫など本当に不要だったのではないかと思っていると、一護が織姫に視線を寄越して溜息を吐く。

「姫。この温泉に意思はないよ。自由に場所を移す事も出来ない。姫でなけりゃ兕丹坊を助けられなかったし、双殛の丘で動かせない怪我人だった恋次と白哉も助けられなかったんだって理解ってる?」
「……いちごちゃん。」
「適材適所って言葉があるじゃんか。姫の戦い方と私の戦い方は違うんだって事をちゃんと理解ってほしい。」
「いちごちゃんとあたしの、戦い方……?」

 織姫には、すぐには意味が理解らなかった。
 一護を見ても、一護は織姫を見る事なく静かに目を閉じて湯に浸かっている。
 一護は答えを教えたりしない。
 成績は織姫の方が上だから学校の勉強を一護から教わった経験はないが、竜貴や啓吾、水色から一護の勉強の面倒の見方は聞いている。法則の説明はしてくれるが、答えそのものを教えてはくれないのだと、啓吾などは不満そうに言っていたが、一護に教わって成績が上がらない者はいないらしい。
 意識が逸れている事に気付いた織姫は、気持ちを切り替えて一護に言われた言葉を考え直す。
 一護の戦い方と、織姫の戦い方は違う。
 一護は斬魄刀という死神の刀を使う。それは斬る為の武器だ。
 織姫は盾舜六花を使う。名前の通り盾舜六花は盾、防具だ。
 攻撃する武器と、防具では使い方が違うのは当たり前の事。それはその儘使い手の戦い方が違うという事だ。
 考え込んで動きの止まってしまった織姫に、一護は小さく溜息を吐く。
 織姫は何故か一護を『護る』のだと決意して付いて来たらしいのだが、織姫の中で一護を『護る』という発想が何故起こるのかを理解出来ず、実のところ一護はかなり困惑していた。気持ちは、一護にとって嬉しいものである。が、織姫の盾舜六花は、戦線に立つ一護を護るには力が足りていない。浦原が織姫と茶渡を同行させた思惑が一護の推測通りなら十分一護を護っているので、それ以上を為そうとする必要もない筈なのだ。
 寧ろ前線に立つ一護を護ろうと織姫が前線に出てくれば、危険な目に遭う織姫を護る必要があり、一護には負担を掛ける事になる。現時点で、織姫が一護と同じ位置に立って守ろうとする事は、一護にとって明確に言葉にすれば有難迷惑である。
 浦原の言った「思う力は鉄より強い」という言葉は、基礎の力が近ければ通じる言葉であって、基礎が違う者には通じないのだ。
 一護が本当に少し霊力が強いだけの只の人間であるなら、真咲が虚に殺された時点で死神化しないし、封印されていた能力が目覚めてすぐの頃に始解もしない内から大虚を撃退するだけの霊圧など持ち合わせている筈もない。
 織姫は、一護を霊力が強いだけの普通の人間だと思っていたかった。
 クラスメイトの女子達に向けられる一護の見守るような視線は、嘗て亡き兄が自分に注いでくれた“兄”としての視線と同じだったから。冷たく見える無表情の中でその薄い色の瞳に浮かぶ感情がいつでも優しかったから。
 一護が男なら、自分は間違いなく一護に恋していただろうと織姫は思うのだ。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙