MEMORY 尸魂界篇
「すみませんでした。」
土下座をする浦原の隣で、一護も低く頭を下げる。
「浦原さん、いちごちゃん……。」
「浦原さん、一護……。」
「浦原さん、黒崎。」
隣で一護まで頭を下げている姿に気付いて浦原が反射的に顔を上げる。
「黒崎サン……。」
トレードマークにしてしまった縞模様の帽子を胸元に抱えた儘、浦原は隣の一護に視線を向ける。
「何で黒崎サンまで頭下げてるんスか。」
「………。」
一護は無言の儘頭を上げて浦原を見て、みんなに視線を向ける。
「私は藍染の存在も陰謀も知ってた。皆が尻込みするとは思わなかったけど教えなかった。姫もチャドも死神達に報せようとするだろうと思ったからだ。」
「いちごちゃん……。」
「一護……。」
既に尸魂界で一護から告げられていた織姫は、一護の考えを否定できない自覚があった。茶渡にしても、あの時その情報を持っていたら一護の言う通り、おそらくは京楽辺りに告げていただろうと思う。
「その方が事態が良い方に転んだ、とは思わなかったのかい、黒崎?」
「思わないさ。護廷十三隊は隊長達の力が拮抗してるんだろうな、個別に動く。隊間の連携とかないだろう?」
雨竜も一護の言葉で、隊長達が牽制し合っていて、連携する気配は窺えなかった事を思い出す。隊長同士が個人的に仲が良いところが連絡を取り合っているようだったが、それ以外は個人プレーで動いていた。
「各自の判断力も優れていてこその隊長だけど例外だってある。現に総隊長のじーさんは、中央四十六室が偽物になっている事に気付かずに唯々諾々と命令に従ってたしな。そのじーさんがこの千年余り一番強い死神で通してきたんだ。」
肩を竦める一護に、その場にいた者は全員コメントに困って言葉を失くした。
「じゃがまぁ、一護が向こうへ乗り込んだ価値はあったじゃろ。」
取り成すように夜一が口を開く。
何の事かと視線が集中すると、夜一が呆れたように溜息を吐く。
「市丸は、一護の介入がなくば藍染達と同行しておったじゃろ。」
「あ~、あれ、な。」
「市丸? 市丸ギンッスか?」
藍染の子飼いが藍染と同行しなかった事がプラス要素だとでも言うのか、とばかりの浦原に、一護が溜息を吐く。
「市丸ギンが藍染の下に付いてたのは奴の隙を窺う為だったんだよ。」
「……市丸ギンにとって藍染惣右介は敵だと?」
「そ。詳しい話はまた後で。」
「ああ、はい。今日はもう始業式の朝ッスからね。」
「ええっ⁉」
「ム……。」
「おいおい。」
クラスメイトの反応に、一護は溜息を吐いただけでコメントは入れなかった。
「……じゃあ、みんな、学校でね。」
言って、雨竜は早々に空飛ぶ絨毯から降ろして貰い、アパートへ帰って行った。
茶渡も片手を挙げて絨毯から降りた。
織姫もアパート近くの公園に降ろして貰い、一護に向かって無邪気に手を振った。
「黒崎サンはどうします?」
「コンは?」
コンの動向を尋ねる事はイコール一護の肉体の状態を尋ねる事だ。
「流石に昨日の時点で、旅行から帰ったふりで黒崎サンのお宅に戻って貰ったッスよ。」
「この時間じゃ寝る暇ないな。流石に今日は朝のジョギングはパスだ。」
苦笑している一護に、浦原の唇が綻ぶ。
空飛ぶ絨毯から降りようとして、ふと一護の動きが停まる。
「浦原さん。さっきは私が邪魔しちゃったけど、あいつらには謝ってくれよ? それと私には要らないけど、ルキアにはちゃんと謝らないと拙くね?」
「黒崎サン。………はい。」
「それと………。」
まだ何かあるだろうか、と浦原が首を傾げると、一護が悪戯っぽい色を瞳に浮かべて浦原を見ていた。
「ルキアに提供した義骸、私の依頼を果たしてないから付けはチャラ、な。」
「……っ!」
口を開き掛けた浦原は、一護の瞳に一瞬浮かんだ真剣な色に気付いて言葉に詰まる。
浦原が反論出来ずにいる隙に、一護はスルリと空飛ぶ絨毯から降りて瞬歩で自宅の自室窓から室内へ入ってしまった。
見て取った浦原が溜息を吐いて、外した儘になっていた帽子を被り直す。
「お主が一護には敵わぬと言うておった事を、儂は向こうで実感したぞ。」
「夜一サンにまでそう思わせるんスから、アタシが黒崎サンに敵わないのは当然ッスかねぇ。」
夜一は、浦原がルキアに霊力を失う義骸を渡していた事を、一護は知っていて今まで黙っていたのだろうと気付いた。
浦原に利用された事に対する一護なりに意趣返しなのだろうと推測したのだ。
浦原にしてみれば、利用しようという下心があったとはいえ、散々修行に付き合ってきた上での事なので、意趣返しを喰らうとは思ってもみなかった所為で少々遺恨が残った。この遺恨を晴らすには、一護が留守の間に預かっていた改造魂魄を見ていて思い付いた事を実行に移すに限ると思い付く。一護の為になる事でもあるから、遣り方が悪戯染みても問題はあるまい。
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙