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桜恋う月 月恋うる花

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 新選組で名だたる剣豪の五人を、然程の手間を掛けずに抜いた無名の存在に、平隊士達が右往左往して収拾が付かなくなった壬生寺から、八木邸までぞろぞろ戻ってきた。
 まぁ、今朝着替える時に晒を巻いて確り男装しておいたので、平隊士達は、取り敢えずは細身ではあっても私を若い剣士と認識していたらしい。
 これで新選組に厄介になりながら隊士にならないとなると、後々平隊士の不満が出るかも知れないなぁ。
 広間に戻った私達は、座する位置が変わった。上座は局長・総長・副長の三人だけど、近藤さんの左の山南さん側に永倉・藤堂・原田の三人が、右の土方さん側に、沖田・斎藤・井上の三人がコの字になり、土方さんと近藤さんの間に一歩下がって千鶴ちゃんが座る。私達四人は近藤さん達に向かい合う位置で、綾乃と煉を挟んで一番の下座に坐した。
 夫々の前には源さんと千鶴ちゃんが用意したお茶が置かれている。
 源さんから渡されたお茶を和麻さん達に回す前に、〝力”で〝毒味”を済ませている。

「世の中は広いって事だろうさ」

 お茶を啜りながら、和麻さんが飄々と嘯く。

「例え名目上だけでも、新選組は最強である必要があるのですもの。そんなに簡単に言ってのけられては彼等の立場がないでしょう?」
「よく言う。お前が伸した張本人だろうが」
「だって、不審人物ってだけで斬られかねない。無傷で済む相手じゃないって認識して貰わないと困る」
「そんな短慮なのは沖田くらいだろうが」
「その沖田さんが問題。少なくとも速さなら新選組随一ですからね」

 飄々と交わされる私と和麻さんの会話に、煉がハラハラしている。新選組のプライドを気遣っているのか、挑発に乗って騒ぎになるかと恐々としているのかも知れない。
 和麻さんと私は問題はない。
 でも綾乃と煉では沖田さんのみならず、幹部に後れを取る。
 人外の力が操れるといっても、体は只の人間なのだから、傷を負わされては命に関わる問題になる。
 現代に帰還すればそのまま戦いに突入の可能性の高い私達は、こんな所で負担を負うわけにはいかない。

「何かな? その言い方だと、僕の所為で新選組の幹部が試合とはいえ負ける憂き目に合わされたみたいなんだけど?」
「勿論、みたいじゃなくて沖田さんの所為ですよ。貴方が、近藤さんの障害になる〝かも知れない”という理由だけで刀を抜こうとするから、そんなに簡単に斬れる相手ではないと認識して頂く必要がありましたからね」

 にっこり笑って言ってやる。
 近藤さんに心酔するあまり、障害の可能性の段階で排除しようとする沖田さんは、はっきり言って迷惑な存在といえる。
 なまじ腕が立つだけに厄介なのよね。
 沖田さんをその気にさせたのは山南さんだった筈だけど、あの人もここまで沖田さんが見境なしになるとは計算外だったのかも知れない。
 それに、山南さんも『羅刹』になった所為で狂気に走るんだから、留め立てする必要があるわよね。

「あんまり生意気な口利くと斬っちゃうよ?」

 幾分本気を込めた沖田さんのセリフに、土方さんの隣にいた千鶴ちゃんがピクリと震える。

「良い加減になさいませ。千鶴が怯えていますよ。そういうところが見境がないと申し上げているのです。」
「…………」
「総司」
「お前の敵う相手じゃねぇ、やめとけ。」

 無言になった沖田さんに、諫めるような斎藤さんの声が掛かり、止めに土方さんが溜息混じりに告げた。
 新選組の剣、だというのなら、剣らしく使い手を選んだら、後は自由意志など持つな。剣が斬る相手を選ぶなら、それはもう魔でしかない。

「だって、どこまで信用できるか判らないじゃない。そもそも言ってる事が「沖田総司!」」

 千鶴ちゃんの前では口にするなと言った事も忘れて口走り掛けるのを、名を呼んで遮る。

「私は貴方の事を、近藤局長第一が強過ぎて先走るだけだと思っていたのですが、本当は馬鹿なんだと認識を変えなければなりませんか?」

 にっこり笑って言葉を綴る。

「わっ、出た!」
「静香……さんのあれが出た時に逆らうと碌な事ないです。」
「あれに逆らった時、流石の俺も3日くらい死ぬ思いしたな」

 ぼそぼそと言い合う未来組の声を聞き付けて、永倉・藤堂・原田さんが顔を向ける。

「あれって……?」
「静香のあの笑顔は最終警告だ。あれに逆らうとあいつの気が済むまで命を狙われる。」
「はぁっ!?」
「それも気を抜かなければ躱せるギリギリのやり方で、ね。」
「しかも微塵も殺気を出さずにやってのけます。」
「おい。」
「いくら総司でも……」
「しずさんって、見掛けに拠らず怖ぇのな。」

 和麻さん達のぼそぼそした会話が聞こえたらしい山南さんが、面白そうに私を見遣る。

「神矢君?」
「はい、なんでしょう? 山南さん」

 山南さんに最終警告笑顔は向けない。表情を戻して小首を傾げると、山南さんが苦笑しながら訊いてくる。

「八神君達の話が聞こえたのですが、内容に偽りなし、ですか?」
「いくらなんでも、ここで即実行は致しませんよ。許可が頂けるなら実行致しますけど。」
「ふむ。実害はないわけですね。」
「まぁ、流石に間違っても沖田さんを殺すわけにはいきませんから、和麻さんに仕掛けたような真似はしませんからね。精々沖田さんの運が悪ければ風邪を曳くくらいで済ませます。」

 私の言葉に仕掛ける内容に想像が着いたらしい和麻さん達が、冷や汗を浮かべながら苦笑している。

「そんなに沖田君の態度は気に障りますか?」
「貴方方にとって確かに私達は得体の知れない不審者でしょうから、警戒心を持つなとは言いません。持たないようなら馬鹿かと思います。けれど、警戒するというのと、斬って捨てて排除するのとでは、意味合いがまるで違います。不審人物だから後が面倒だと判断して切り捨ててみてから、実は自分達にとって有益な存在だったとしたらどうします?」
「……まぁ、確かに。」
「それと、新選組に敵対する心算なら、昨夜、千鶴を助けてそのまま他に駆け込んでいますよ。態々貴方方の前に姿を現す必要などありません。」

 言ってから、幹部達を見回す。
 近藤局長は尤もだとでもいうように頻りと頷いている。
 山南さんは納得したように息を吐いた。
 土方さんは思考に沈んだらしく眉間の皺が深くなった。
 永倉さんは私の言葉を反芻するように真剣な顔をしている。
 平助君は感心したように頷き、笑顔を見せた。
 原田さんは私の視線に気付くと肩を竦める。
 源さんはほっとしたように頷いている。
 斎藤さんは理に適っていると思ったのか、警戒心が薄らいだ。
 沖田さんは拗ねた子供のような表情のままだ。

「沖田さんは懲りないと理解できないようですね?」

 にっこりと笑顔を浮かべて最終警告。

「近藤局長、土方副長、山南総長。駄々っ子へのお仕置き、開始しても宜しゅうございますか?」
「「「どうぞ。」」」
「ちょっ……近藤さん!」

 沖田さんの抗議はあっさり無視された。
 斯くして、自分の感情を優先して納得を拒んだお子様への、静香流のお仕置きが開始されたのである。


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙