桜恋う月 月恋うる花
文久三年の年の瀬。
『薄桜鬼』にはいない筈の私達の参戦は、一体何を求められた為なのか。
なんの力が働いて私達神凪の者がこの時代のこの場所へ飛ばされたのか判らない。
ただ、こういった場合のセオリーとして、要求されたノルマをクリアすれば元の場所へ還れる仕組みになっているもので。
セオリーが当て嵌まるかどうかは不明だけれど、何もしないというのは性分に合わないし、どうせ出来る事なんて限られているんだし、この際思い切りこの事態を楽しむに限るわ。
私個人としては、土方さんと千鶴ちゃんがカップルになってくれると嬉しいので、その方向で擽ってみましょう。
いつまでいられるか判らないけれど、この世界は恋愛シミュレーションゲームの世界だから、最悪歴史を塗り変えてしまっても支障がないと思うのよねぇ。
それにそもそもこのゲーム。俗説や史実で生き延びる人達が死んじゃったり、史実では死んでる人達が生き永らえたりしてるんだもの。
表舞台から消えれば死んだ事に出来るんだから、試衛館出身者を全員生き延びさせても問題ないんじゃないかなぁ。ゲームの中だと選択肢が決まっているけど、この世界だと選択肢は無限大のような気がする。第一、千鶴ちゃんが土方さんや近藤さんと既知の仲というのは、原作にはない設定なんだもの。尤もこの一点だけは、土方さんに一目惚れしたと思われるシーンを私が妨害してしまった為に起きたイレギュラー修正のコマンドの可能性もあるんだけど。
少なくとも、今までの時間の経過の中では、私が与えた情報を新選組は忘れてはいない。
まだ物語は序盤だけれど、明細に描かれていなかった部分や曖昧な部分は修正が効くのかも知れない。
新選組の終焉がそのまま土方さんの運命のような歴史だけれど、史実と事実は必ずしも一致する必要もない筈だもの。
新選組の終焉は変えられなくとも、試衛館からのメンバーが永倉さん以外悉く死んでしまう運命は変えてみせる。
必要なのは情報収集と健康管理、かな。
池田屋討ち入り事件とか、禁門の変とか、長州側の動向を正確に掴んで効率的に新選組が動けるようにしないと。
池田屋事件の時には隊士の半数が動けない状態だった筈だから、それを改善しないと。
千鶴ちゃんを手伝って、一部を除いて幹部の胃袋は掴んだから、平隊士の食事管理まで手を伸ばせる可能性も出てきた。何よりご飯が美味しくなった所為か、沖田さんがちゃんと食事をしている。沖田さんは食生活に問題があったから、免疫力の低下で労咳を発症したのだろうし、免疫力を上げれば、発病を遅らせる事に繋がる筈だ。
平隊士が一部屋で雑魚寝状態なのも衛生面で問題ありだけど、私に剣の稽古を着けてくれっていう申し出をしてきている人がいるから、食事と掃除を条件に出した。いくらかでも改善が見らると良いのだけど。
ッと、その前に、確か文久四年のお正月過ぎに山南さんが怪我するんだっけ。二度と刀が握れないほどの深手を負った所為で後に追い詰められて『変若水』に手を出す筈だから、深手にならないようにするか、傷の治療とリハビリをさせてもらうか、かしら。
どちらにせよ、大阪出張に同行させてもらう必要があるわね。
只着いて行くのは無理だし、不信を買うと困る。
ここはやはり、土方さんに交渉して同行させてもらうのがいいかしらね。
作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙