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桜恋う月 月恋うる花

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「人外の力、浄化、払う……」
「悪霊退治でもしてるわけ?」

 沖田さんが小馬鹿にしたように口にする。

「魔を払うのですよ。『変若水』はおそらく西洋の魔物の血を元にしています」
「西洋の魔物?」
「人の血を糧とし、普通の刃物や銃で負った傷は瞬く間に治り、力も強く空も飛ぶとか。その化け物の血を飲んだ者は同じ化け物になると伝えられています。眠っている間に聖別された杭で心臓を貫くか、朝の清浄な光を当てるかしない限り滅びる事のない永遠の命を持つという化け物です。」

 『変若水』の正体が吸血鬼の血なら、浄化の力で払えるけど、もしも『キリストの血』説の方だと厄介なのよね。でも、そんなものだったら、そもそも輸入されないだろう。

「つまり何か? 魔を払う一族だから、魔に関わる記録として『変若水』や『羅刹』の事が一族に伝えられていて知っているって事か?」

 原田さんは、普段永倉さんや平助君と攣るんでいるから三馬鹿なんて呼ばれているけど、本当は鋭いのよね。

「未来から来たってんなら、『あれ』の事も未来に記録が残ってるって事か」
「いいえ。」

 土方さんの呟きに否定を返す。
 一同の間に動揺が広がる。

「私達の時代、新選組は大層有名です。誠を貫いた武士として人気があります。だからこそ、芹沢鴨暗殺は史実とされますが、『変若水』や『羅刹』の事は歴史の闇の部分として新選組も幕府も関わりのないもの、なかったものとされています」

 ならば何故知っている。
 ありありと浮かんだ疑問は、当然の事だけど、土方さんや沖田さんが気付いていないのは、やはりこの人達は表の世界の人間で、甘いところがあるという何よりの証拠ね。

「申しましたでしょ。私達は未来から来たんです。覚えているかは兎も角、一部の幹部の方は、誕生日まで情報が残っていますよ。」
「へぇ。それ凄くね?」

 藤堂君が口笛を鳴らして言う。

「それはつまり、我々が歴史に名を遺す存在だ、と?」

 山南さんの突っ込みどころはそこですか。

「そうですね。尤も史実というのは、残したくない事実は消去しているものですから、『変若水』も『羅刹』も、新選組とも幕府とも関係のないものとして闇に葬られていますけれどね。『変若水』や『羅刹』についてだけなら、史実としてではなく、俗説として伝えられていた事を小説、戯作として発表されたので知っている人は空想の産物として知っています」
「戯作……」

 土方さんが眉を顰める。

「人気がないと戯作のネタにはされませんよ? 百五十年も経つと、真実は闇の中、事実は謎に包まれたまま、となってしまったのです。」

 くすりと笑う。

「ふうん。現在のここじゃ、俺達壬生狼なんて呼ばれて嫌われてるけど、時間が過ぎると好意的に見て貰えるようになるんだ?」
「好意的か否かは人によります。擦り付けられた罪を晴らさなかった為に、無実の罪で謗られていた部分もありますからね」
「例えば?」

 おや、自然な流れで情報を引き出そうという辺り巧みだわ。流石は山南さん。

「今その情報は早過ぎます。分岐点で情報を差し上げますよ」

 ふわりと笑みを浮かべると、山南さんは引っ掛からなかった私に驚いたようだ。
 同時に土方さんは苦い表情をしている。

「つまりここにおけ、と?」
「あら? 解放して下さる気がおありでしたの? どこの誰とも知れない不審人物に新選組の最重要機密を握られているのに、野放しになんてしませんでしょう?」

 小首を傾げて言って見せれば沖田さんから殺気が放たれる。

「簡単だよ、斬っちゃえば良いんだから。君達が本当に未来から来たのだとしても新選組に関する情報が正確だとは限らないんだし」
「短絡的ですこと」

 沖田さんが殺気立つ。
 私は平然と居住まいを崩さない。

「この程度で殺気立たないで。申し上げましたでしょう? 古くからこの国を陰から守ってきた一族だと。人外の力に対する為に人外の力を有しているのですよ。その力を使いこなす為に人の技の修練は怠りません」

 沖田さんが鯉口を切ると同時に席を立ち、大小を奪って首の前で交差させて刀の背を首筋にピタリと当てる。
 子供の頃から鍛錬してきたのだもの、このくらい難なくこなせる。当然、同時に動いている和麻さんは綾乃と煉を安全圏に確保している。
 私の技に、彼らは目を瞠り言葉を失くしている。
 私はニコリと笑みを浮かべてみせる。

「先手必勝です」
「くっ……!」
「自分が最強などと思い上がらぬ事です。上には上がいるもの。そう心して精進なさる事ね。」
「……話を続けて下さい」

 山南さんが溜息を吐いて、苦笑しながら私を促す。

「恐れ入ります」

 軽く頭を下げてから、沖田さんに刀を返して席に戻る。幹部達を見回し口を開く。

「新選組の立場としては、綱道氏が姿を消した事は幕府側に知られたくない事実でしょうし、千鶴さんを京都所司代や会津藩に預ければ綱道氏が行方不明である事が知られますよ」
「そうだ」
「ふうん、だったらあの子、ここに置くしかないよね」

 もう沖田さんが口出ししてきた。立ち直り早いなぁ。

「問題は、綱道氏が『変若水』を完成させて討幕派の力として使われた場合です」
「それは……」
「その場合、新選組が綱道氏に対する監視を怠った事になります」
「だが……」
「策がないではありません。新選組は会津藩お預かりですから」
「どういう事だ?」
「芹沢殿の暗殺を命じたのは会津藩でしょう? 明確な言葉はなかったでしょうが、芹沢さんが暗殺された事を承知していながら近藤さんに新選組の局長を改めて命じた以上、会津藩も呉越同舟」

 山南さんの視線が鋭くなる。

「私達はいつ未来に戻れるか、もしかしたら戻れないかも知れません。この時代で生きていくしかなくても一族に身を寄せるのは頂けない。私は、新選組に降り懸かる災難を幾つかは未然に防ぐ術を持っています。共闘関係を結べると効率が良いので、協定を結びたいと思っているのです」

 土方さんと山南さんを交互に見ながら、殺気の収められない沖田さんに対する注意は怠らない。不意打ちを食らって沖田さんを殺しちゃうわけにはいかないもの。

「策がある、と仰いましたね」

 流石に山南さん。計算が早いのかしらね。

「それこそ先程の『羅刹』が使えますわ」
「使える?」
「つまり、芹沢さん暗殺後、綱道氏が新選組で研究する事に難色を示し始めた。逃亡を図りそうだった矢先に診療所が火事になったので、新選組に軟禁状態に置いていたが、研究材料を自分で吟味しなければならないと言ったので、見張りを着けて外に出した。江戸の娘御に手紙が届いていたので綱道氏が裏切り行為をしていた事に気付くのが遅れた。娘御が京に来て手紙が途絶えていた事を知った矢先、見張りに付けていた者達が『羅刹』となって新選組屯所を襲い、次いで町に出て凶行を働いたので成敗した」
「それでも新選組の責任は……」
作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙