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桜恋う月 月恋うる花

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「綱道氏の逃亡の動機が会津公ご命令の芹沢暗殺となれば、新選組だけに責任を押し付ける事は出来なくなります。新選組だけに責任を負わせようとするなら差し違える覚悟があると見せればいい。新選組は腕利きです。敵に回すのではなく抱え込んで最悪飼い殺しにすれば良いと考えるでしょうね」
「それはつまり、私達は最前線に送られるという事ですね」
「このままでも変わりませんよ? 役に立てば飼い殺しにするのは惜しいと考えるようになるものです」
「乗るか反るかの大博打、というわけか」
「現状でも博打を打っているようなものではないのですか? 『変若水』や『羅刹』という爆弾を抱えさせられているのです。隊則が厳しく切腹する代わりに『変若水』を飲むという選択肢を与えているといっても、新選組が『変若水』の実験に使われている事実には変わりがないでしょう? 千鶴さんは、幕府にとっての切り札になります。土方さんとも近藤さんともお知り合いなのですから、新選組が取り込んでしまえばいい」
「千鶴を道具にするわけか……」

 土方さんが苦い表情をする。身内には甘いのよね、この人は。

「新選組を守る為だけに千鶴さんを利用するなら千鶴さんを道具扱いした事になりますけど、新選組も千鶴さんも両方取るなら、掴んだ者の勝ちですわね」

 挑戦的な視線を向けると、目を瞠った土方さんはにやりと力強い笑みを浮かべた。
 強気になったところで、私の都合も押し付けないとね。

「それと……」
「なんだ?」

 返事をした土方さんに首を振って見せて、視線を綾乃と煉に向ける。

「綾乃、煉」
「え?」
「はい?」

 二人にとっては不意打ちだったらしく、反応が遅れる。
 相変わらず突発事項に弱いのは、経験不足が否めないのよね。

「ここまで離れていると気配は読めないかしら?」
「え、っと?」
「?」

 やはり読めないのね。溜息を吐いて和麻さんに視線を送る。
 顔色には出ていないけど、この人が気付いていない筈がない。

「綾乃。煉。ここでは一族としての義務は放棄しなさいね。『羅刹』の存在は、新選組にとっては表沙汰に出来ないけど放棄する事も叶わない秘密事項なの。普段は彼らが監視・管理しているけど、時々血に狂って暴走するから、その時は『力』を使わずに首か心臓を狙う事。貴方達じゃ『力』が大きいのに隠せないから『西』に気付かれて厄介事に巻き込まれる事になるわ」
「静香姉さま」

 困惑頻りの煉の表情が見えるけど、『羅刹』に無暗に手を出されるのは困る。

「いいわね」

 念押しすると、綾乃が反感を抱いたような表情で私と和麻さんを見比べる。

「和麻には確認や釘を刺したりしないわけ?」

 溜息が出る。

「確認する必要があるとでも? 私が感じ取れる気配を和麻さんが気付かない筈ないし、報酬無しには指一本動かしたくない和麻さんが、義憤に駆られて余分な手出しをする筈もないでしょう」

 納得はしたくないけど納得せざるを得ない、という表情になって綾乃が黙り込む。
 沖田さんの殺気が和麻さんに向く。こっちも溜息ものだわ。

「言っておきますけど、和麻さんは私より遥かにお強いですよ」

 私の指摘に沖田さんばかりか、原田さんも永倉さんも息を呑む。

「で、後、着替えをお願いしたいのです。私は兎も角、三人はこのままでは目立ち過ぎますからね」
「まぁ。そうだな。和麻には、総司、お前のを貸してやれ。綾乃と煉は、斎藤から借りるといいだろう」
「それから、無理に私達を監禁したり監視したりする必要はありませんよ。」

 言い放つと、土方さんだけでなく幹部達が殺気立つ。
 ある意味単純過ぎるのよね、この人達。

「よく考えて下さいね。私達としても面倒事に巻き込まれるのが明白なのに、態々こんな事を吹聴する気はないし、そもそも私達が新選組にとっての重要機密を握っている事を、誰が知って情報を引き出そうとするというのです?」

 『薄桜鬼』の原作の中ではその点が矛盾していた事でもある。

「それから『変若水』についての情報が洩れる経路として考えられるのは、行方不明の雪村綱道がどこで『変若水』の実験を続けているかという事と、それから新見錦が情報を流していた可能性を十分に考慮してください。」

 私の言葉にまたしても幹部が殺気立つ。
 一々ウザい。
 思わず苛立ちの籠った溜息を吐いてしまう。
 土方さんが眉を顰めた。

「一々殺気立たないでくださいます? 少し頭を使えば理解る事でしょう? もしも新選組に敵対する気があるなら、こんな情報を態々開示してみせて警戒心を煽るより、黙ってさっさと逃げ出して敵対する連中に情報を売った方がお手軽だわ。」

 丁度タイミング良く、湯を使って着替えた千鶴ちゃんを斎藤さんが案内して広間に向かってくる。

「さて、このお話は今はここまで。千鶴さんが来ます。皆さん、くれぐれも千鶴さんにはご内密に。特に藤堂さんと永倉さんは迂闊なところがおありになるようですからね。」
「名指しかよ。気を付けるさ。」
「俺も新八っつぁんと同等なの? 了解」
「当然だな」
「当たり前だ」
「いいよ。乗ってあげる」
「続きはまた後ほど」
「そうですね」

 皆さん、何のかんの言ってもフェミニストだからありがたいわ。

「和麻さん。千鶴さんの前では今は姿を消していて。明日の朝、宿から呼び寄せた事にした方が無難でしょうから。土方さん、沖田さん、三人の着替えの手配、お願いします。今夜のところは三人とも一緒の部屋で良いわよね」

 抗議しようと開いた綾乃の口は和麻さんが塞いだ。千鶴ちゃんが近付く気配がしているから時間がないと判断したのだろう。実際時間はなかった。綾乃に貸した羽織を返して貰って、三人の姿が消えたのと、斎藤さんが障子を開いたのはほぼ同時だったもの。
 千鶴ちゃんを中へ促した斎藤さんが障子を閉めようとするのを無言で阻止した沖田さんは、沓脱石の上の靴が三足消えるのを確かめてから障子を閉めた。


作品名:桜恋う月 月恋うる花 作家名:亜梨沙