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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 フェンリルが片手に本を持って開け放たれている門の前に立つ。相当広い真四角の敷地を白い石壁が囲っていて、その中に見えるグレーの屋根の屋敷は立派で歴史を感じさせる格式の高さがあった。門からその家の玄関まで砂が敷いてある白い道が続く。玄関までの道沿いに立派な樹木に混じって赤や白の花を咲かせる樹花、桃色の果実のなっている樹なども見える。フェンリルが中に入って玄関に向かって歩いていくと、厚く茂っている植物の向こうに広場があり、白いテーブルと椅子のが何組か置いてあるのが見えた。フェンリルがなかなかしゃれた庭だと思ってみていると、なにかの鉱物の結晶のようなものが集まっている巨大な石が置いてあったりして、石として見れば美しいがこの庭には場違いな感じのものがあったりもする。フェンリルは木製の玄関の前に立った。見上げる程に大きい立派な扉だ。そして、玄関の小さな屋根をゴシック調の白い柱が支えていた。
「たのもーっ!」
 玄関で声をだせば魔法で中の人に聞こえるようになっている。フェンリルが待っていると扉が開いて白いエプロン姿の女性が姿を見せる。
「どなたですか?」
 声も言葉づかいも柔らかで、見た目は優し気な感じの人だった。瞳の色はマゼンダで長い青髪の一部をロールにして薄紫のリボンで結び、残りの髪は結わえて背中に流してある。
「この本を書いたのはあんた、じゃない、あなたですか?」
 本を見た女性は、「まあ」と言って嬉しそうに微笑む。
「これはわたしが書いた本よ。手に取ってくれてありがとう」
「実はあんたに料理を、じゃない、あなたに料理を教えてもらいんです!」
 フェンリルはそう言って頭を下げた。普段はボルクスを口ぎたなく罵ったり、部下の猫たちを怒鳴ったりしている彼女だが、必要に応じて礼儀正しい振る舞いもできるのだ。
「あら、お料理教室の申し込みかしら?」
「いや、そういうんじゃなくて! もっとこう、あれだ、弟子! そう、弟子にして下さい! 料理を真剣に勉強したいんです!」
 フェンリルは少し心にもない事を言っているが、自分の地位を守るのに真剣なのは確かだ。青い髪の女性は考えていた。
「特定の人を弟子にして料理を教えたりはしていないんだけれど、あなたは本気で料理を勉強したいみたいだから教えてあげましょう」
「フェンリルです、よろしくお願いします、師匠!」
「その呼び方はなんだか硬いわね。リリアでいいわよ」
「いやいや、教えてもらうのに呼び捨てになんてできません。じゃあ、先生と呼ばせて頂きます!」
 フェンリルはひょんなことから、魔法界とナシマホウ界で名を馳せている料理研究家リリアの弟子になってしまった。
 リリアの案内でフェンリルは広い玄関ホールから右側の部屋に入る。そこは居間になっていて広い部屋に長いテーブルと椅子が並んでいた。そして居間の先にある部屋に入った時に、フェンリルが声を上げた。
「な、なんだこのキッチンは!?」
 キッチンの広さが居間と同じだった。料理台が部屋を囲むようにコの字型になっていて、壁には大小のフライパンやフライ返しなど様々な料理道具がきれいに並んでいる。中央には六角形の回転式の食器棚が置いてあり、どこにいても好きな食器が取り出せるようになっていた。料理台の下のシンクや食器棚の引き出しにも鍋や包丁や小物などが詰まっているに違いない。この大掛かりな料理設備を見て、フェンリルは弟子にしてくれなどと言ったことを後悔し始めた。
「さあて、どんな料理を作りましょう。最初だから簡単なのがいいわね」
「あ、あの、できれば肉か魚を使った料理をお願いします!」
「じゃあ、7色サーディンのフリッターにしましょうか」
「7色サーディン??」
 リリアは部屋の片隅にある高さが天井くらいまである大きなフレーザーに向かって箸のように先細りになっている白い杖を振った。
「キュアップ・ラパパ、7色サーディンよ出てきなさい」
 フレーザーの扉が開いて白い皿の上に円に並んだ虹色の魚が料理台まで浮遊してくる。目の前に降りてきたそれを見てフェンリルの顔が引きつった。
 ――魔法界には変わった魚がいるな……。
「じゃあ、お手本を見せるからね。キュアップ・ラパパ」
 リリアの魔法で底の深いフライパンやボウルなど必要な道具が一か所に集まる。それから包丁が勝手に動いて魚をさばき、同時にボウルには小麦粉や卵、調味料などが入ってホイッパーがひとりでにかき混ぜていく。天辺に穴のあるヤシの実に似たオイールの実がフライパンの横で傾いて穴から良質の油が注がれた。フライパンに火などは必要ない。魔法をかければあっというまに適温になるのだ。
 リリアの魔法の料理さばきは素早く正確で、横で見ているフェンリルは目が回りそうだった。もう熱した油に衣の付いた魚が入る。リリアが中央の食器棚に向かって杖を振りキュアップラパパの呪文を唱えると、棚がひとりでに回転して一枚の大皿が料理台の上に移動してくる。その皿に通ったサーディンから移動してきれいに盛り付けられた。
「はい、できあがり!」
 あっという間に料理ができた。正直、フェンリルには何が起こったのか分からないくらいだった。しかし、驚くのはまだ早い。リリアは両手の親指と人差し指でハート型を作ってそれを料理に近づけて、
「仕上げに、愛情は・い・れ?」
「……先生、それは料理に必要なことなんですか?」
「もちろんよ。愛情は料理にとって一番大切な要素なの、よく覚えておいてね」
 フェンリルは自分もそれをやらなければいけないと思うと震えてしまった。
 ――料理って思っていたよりもずっと難しいな……。
「さあ、お味を見てちょうだい」
「あ、はい」
 フェンリルが作りたて熱々の魚のフリッターを一つ口に運ぶ。ものすごい旨さで黙って二つ三つと食べてしまった。
「先生、美味しいです!!」
「よかったわ。じゃあ、次はあなたの番ね」
 急に言われてフェンリルの動きが止まる。
「先生と同じの作るんですか?」
「大丈夫、わからないところはちゃんと教えるから」
「わかりました。魔法でやればいいんですよね」
 フェンリルが右手を上げると、その手首に銀の腕輪が付いていた。中央には宝石がはまりそうな円形の台座があって、台座には真ん中に白いシルエットの猫が座る六芒星の魔法陣が描かれていた。
「フェンリルちゃん、魔法の杖は持っていないの?」
「杖はありませんけど、この腕輪で魔法が使えます」
「まあ、腕輪で魔法を使うなんて変わっているわね」
 フェンリルは人差し指を包丁に向けて唱えた。
「キュアップ・ラパパ! 包丁よ魚を切れ!」
 空中に浮いた7色の魚にすごい鋭さで包丁が入り、魚が見事に真っ二つの開きになった。しかし、リリアのフリッターに開きになった魚など入っていない。
「それじゃダメよ。取るのは頭と内臓だけでいいの。まずは包丁の使い方から始めましょうか」
 フェンリルは魔法が使えても料理を全く知らないので、油の温度や調味料の分量など、一つ一つリリアに教えてもらわなければならなかった。リリアが10分足らずで作ったものに、フェンリルは2時間近くかかった。そして、ようやくおいしく食べられるものが出来上がった後に最大の難関が待っていた。