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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 小さなな体の力をすべて使い果たしたチクルンが、床に落ちる前に体の割には大きな荷物を投げ出した。二つ重なっていたそれがばらけて床に転がった。それは楕円形のパンのような形をしていて、草の葉にくるまれていた。つぶれたカエルみたいな恰好でうつ伏せにおちたチクルンは、顔だけ前を見て何か言いたそうに口をパクパクしていたけど、息が辛くて声が出せないようだ。
「チクルン!?」 
 リコが駆け寄ってチクルンを両手ですくって持ち上げる。彼はまだつぶれたかえるみたいだったけれど、リコを見るとカラカラののどから声を絞り出した。
「はらへった……」
「どうしたっていうの?」
 リコの隣で小百合がチクルンをのぞき込んでいた。チクルンはリコの手の上であぐらになって二人の少女を見上げる。
「小百合もいたのか、ちょうどよかったぜ! 女王様に頼んで妖精の秘薬を作ってもらったんだ。どんな病気にもきくすんごい薬なんだぜ!」
 チクルンはリコの手から飛んで床に降りると、葉っぱにつつまれている秘薬の一つを両手で持ち上げた。
「ほら、リコ」
 リコがしゃがんでそれを受け取ると、奇跡がそこにあるような顔で手のひらの秘薬を見つめる。
「ありがとう!」
「おまえらのために命懸けで妖精の里までいったんだからな、感謝しろよ」
 チクルンは少しオーバーにいってから、リコの後ろで棒立ちの小百合を見上げて妙な顔になる。
「おい、小百合、なにぼーっとしてんだよ」
 チクルンはもう一つの秘薬をもって飛び上がり、不安の混じる顔で漫然(まんぜん)と立っていた小百合の手に秘薬を持たせた。
「ラナも怪我してんだろ。それで治してやれよ」
 小百合が手の上の緑色の包みを見ていると、彼女の黒い瞳が揺れた。チクルンがあり得ないものを見たというように目を見張り、リコも立ち上がって小百合を見つめる。小百合が秘薬を優しく握って手の中に入れると、少し細めた瞳から溜まっていた涙が零れた。
「ありがとう、チクルン……」
 小百合が初めてチクルンの名を呼んだ。いつものクールさなどどこにもない、思いやりのこもった優しい言葉だった。
 それから少しばかり時間が流れた。リコは窓際に、チクルンは窓枠に立って箒に乗って空に向かっていく小百合の姿を見つめていた。その時、チクルンは心に音が響いてくるような気持になった。
「あいつ、いいやつなのかもな」
 チクルンがそう言うと、リコは悲しい気持ちになった。
 
 小百合が魔法学校から去った後くらいに校長が外から戻ってきた。彼は帰るなりすぐにリズを呼び出した。
 校長室に瞬間移動してきたリズは、いつになく真剣な校長の顔を見ると、思わず上官を前にする軍人のように身を正していた。校長の隣には教頭先生まで立っていた。これはただ事ではなかった。
「リズ先生、おりいって話があるのじゃ。ちょっとしたお願い事なのだが」
「はい、わたしの出来ることであれば何なりと」
 校長は安心したと言うように微笑を浮かべ、手に持っていた水晶をリズの目の前に置いた。
「わしはこれから魔法図書館にゆく。数日は帰れぬだろう。その間君に校長代理をお願いする」
 リズは実際に平手で叩かれるくらいの衝撃を受けた。聡明な彼女でも、話がとっぴすぎて校長の言っていることが飲み込めない。彼女は苦い物でも喰わされたような顔のまま言った。
「ま、待って下さい! わたしが校長代理だなんておかしいです。代理を頼むのなら教頭先生にお願いするべきです」
「校長代理の件は、わたしから校長先生にお願いしたのです」
 教頭が口を挟む。この一言で、リズは教頭がこの場にいる意味が分かった。リズはまだ少し苦いような顔をしながら教頭に言った。
「どうしてわたしなのですか? わたしはまだ教師になったばかりです」
「確かにあなたの経験は浅いですね。しかし、重要なのは生徒たちをまとめる、それにもまして生徒たちに信頼してもらえる人格者であるかどうかです。リズ先生は十分にその素養を持っています。ですから、わたしから校長に進言しました。あながた校長代理となれば、生徒たちは喜ぶばかりでなく、進んであなたに協力してくれるでしょう。あなたはそれくらい生徒達から信頼されているのですよ」
 教頭にはっきりと言われると、リズは純粋に嬉しかった。それにしても、自分がそこまで生徒たちから信頼されているとは思ってはいなかった。それをちゃんと知っている教頭には頭が下がる思いだった。
「心配ごとはあるだろうが、安心したまえ。教頭がしっかり陰から支えてくれる」
 校長が言うと、リズは迷いを捨ててはっきりと返した。
「わかりました。校長代理はつつしんでお受けいたします。それから、校長先生が図書館に行く理由を教えて下さい。魔法図書館から何日も帰れないなんて、普通の事ではありません」
「そうじゃな、校長代理の君には聞く権利がある。今から話すことは、決して生徒には言わないでもらいたい。もちろん、リコ君にもだ。これ以上あの子に心配をかけさせたくないからのう」
「わかりました」リズが言うと校長は話し始めた。
「わしがこれから向かうのは、魔法図書館の最深部じゃ。図書館の扉から先へ行くことが禁じられ、ずいぶんと長い時がたつ」
「扉の向こうへ行くと、迷って出られなくなってしまうというお話は聞いています」
 リズが言うと、校長の顔が急に変わった。彼は恐ろしい記憶に触れて顔が強張ったのだ。
「実は、あの扉を封じた理由はそんな事ではない。図書館の最深部に行くための地図も存在している。時間はかかるが、それがあれば誰でも最深部へ行くことはできるのだ。実際に、多くの魔法つかいが知られざる真実を求めて魔法図書館の最深部を目指した。だが、そこから帰ってきたのはたったの一人、その者も図書館の扉を出たところで力尽き、命を落とした。彼は死す前に言った、闇が襲ってくると。図書館の最深部には何者かがいる。帰ることのできなかった魔法つかい達は恐らくは……」
 校長から想像もしない恐ろしい話が飛び出してきて、教頭もリズも固まってしまった。その時に水晶から魔女の影が現れた。
「図書館の最深部には、魔法界の歴史の始まりから闇の魔法発祥の歴史までの古い書物があるはずですわ。校長は宵の魔法つかいに関する歴史的な事実が、そこに記されているとお考えなのです」
「これ以上の悲劇を起こさぬためにも、何としても古(いにしえ)の書を手に入れる。それが、今わしが生徒たちのために成さねばならぬ事なのだ」
 校長の声は静かだが、何者も曲げることは叶わない強い意志があった。校長は今まで長期間でかけるとしても、校長代理など誰にも頼んだことはない。今回に限って代理を立てるところに校長の覚悟が表れていた。
 リズは胸にとても嫌な予感を抱いたが、それを言葉に出すことはできなかった。
「二人とも、わしが帰るまで、学校を頼む」
 リズも教頭も、校長に「はい」と答えるしかなかった。


 銀髪の流麗な男が図書館の巨大な扉を見上げる。彼が右手を広げると、そこへ輝きをまとった杖が現れいでる。その丈は長身の校長の肩をこえる程に長く、先端に金環を仰ぐつぼみのような形の群青の水晶が輝き、それを口を開いた金竜のようなオブジェがくわえていた。