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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 密かに見送りに来たリズと教頭は、不安を隠しきれない様子だった。
「校長先生、どうかご無事で」
「リズ先生は何をそんなに心配しているのだ? わしは必ず帰ってくる。当然じゃ、そうでなければあの子らを守れぬ」
 校長の中にはみらいとリコのみならず、小百合とラナの姿もあった。彼は扉に向かって杖を上げると呪文を唱えた。
「キュアップ・ラパパ、扉よ開け!」図書館の奥に通じる巨大な扉が中央で割れて内側に開いていく。校長は振り返らずに奥へと入っていった。その後に扉は再び閉じて、リズと教頭だけが図書館の寂寥(せきりょう)とした静けさの中に取り残された。



 小百合はラナを家の方に移して様子を見ていた。エリーも一緒にかいがいしくラナの世話をしてくれるので、とても助かっていた。ラナはまだ眠っていたが、チクルンが持ってきた薬を与えてから少し様子が変わった。
「顔色が良くなったわね」
 エリーがベッドの横に立って言った。小百合はベッドの近くに椅子を置いて、そこにリリンを抱いて座っている。小百合はほとんどつきっきりでラナの様子を見続けていた。
「ラナは帰ってきたデビ。今はただ寝ているだけデビ」
 リリンの帰ってきたという言葉には実感がこもっている。小百合もそれを感じていた。薬を飲ませる前のラナは、息はしていても屍(しかばね)を見ているように生気がなかった。きっとみらいも大丈夫だと思うと、小百合は胸が少し軽くなった。



 魔法学校で授業の終わりを告げるチャイムが響く。リズはその音を聞きながら校長がいつもいる机の前で黙って座っていた。彼女の目の前にある水晶に魔女の影が現れて言った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ」
「そんなこと言われても、何だか変な感じだわ、ここにわたしが座っているなんて」
「校長のように泰然自若(たいぜんじじゃく)としていればいいのですわ」
「それは難しい注文ね……」
 そんな話をしていると、リズの前にリコがふっと現れた。
「噂は本当だったのね!!?」
 驚きつつもどこか嬉しそうなリコを、リズがにらんでいった。
「まず最初に言うことがあるでしょう」
「あ、ごめんなさい。失礼します! おねえちゃ、じゃなくて、校長代理!」
 最後の校長代理には、リズは背中をくすぐられるような、恥ずかしいような妙な気持ちになってしまった。リコはそんな姉をちょっと面白そうに見ていた。リズは校長代理から妹を思う姉に戻って言った。
「あなたのその様子だと、みらいさんは大丈夫そうね」
「ええ、教頭先生はもう心配ないって。チクルンが持ってきてくれた薬のおかげよ」
「あの妖精さんには恩返しをしなければね」
「もう美味しい物をお腹いっぱい食べさせる約束をしたわ」
 それからリコは、急に真面目な顔になって言った。
「ところで、聞きたかったことがあるんだけれど」
「なにかしら?」
「前にお姉ちゃんが助けてくれた時に、すごい吹雪の魔法をつかっていたから、ずっと気になってて」
「ああ、あれね……」リズは間違いをごまかすような空気で妹から目をそらし、「自分でもよくあんな魔法を使えたと思うわ。あの時は必死だったから、よく覚えてないのよ」
「ええ、そんな落ちなの……」
「あんな魔法はまぐれでもないとできないわよ。何もないところから強力な魔法を使うことができるのは校長先生くらいね」
「校長先生と言えば、なんでお姉ちゃんが校長代理になったの? いつもは出かけても代理なんていないのに」
「大したことじゃないわ。今回は少し長くかかるから代理をお願いされたの。あのお方はいつも気まぐれに旅にでてしまうから困ってしまうわね」
 リコは校長代理になった姉を前にして、妙なやる気を出していた。妹としては姉が校長代理に抜擢(ばってき)されたのが嬉しいのだ。
「お姉ちゃん、わたしに出来ることがあったら何でも言って、手伝うわ!」
「ありがとう、頼りにしているわ」
 それからリコは鼻歌混じりに校長室から出ていった。リズは一人になると、悪いことをしたような気持ちになった。妹を始め生徒たちに嘘をつくのは心苦しい。それに加えて校長のことも心配でならなかった。
「水晶さん、校長先生は図書館の奥にいるものと戦うつもりなの?」
 水晶は何も言わない。魔女のシルエットも消えていた。するとリズの雰囲気ががらりと変わった。水晶を真摯(しんし)に見つめ、校長のような威厳を持って言った。
「水晶よ答えなさい。校長先生の魔力が下がっていることは、ずっと近くにいるわたしには分かっています」
 水晶の中の魔女が姿を現し、観念して言った。
「校長からは決して言ってはならないと釘を刺されています。しかし、あなたには話しておくべきでしょう、もしもの時のためにも」
 それを聞いたリズは心にいきなり重しをかけられた。それでも、何も言わずに水晶の次の言葉を待った。
「校長は禁呪を使うつもりですわ」
「校長先生が禁呪を!!?」
「実は、校長の得意とする光の魔法には多くの禁呪が存在するのです。光の魔法の禁呪は、闇の魔法とは真逆で、使用者自身に害を与えます。使い過ぎれば命はないのですわ」
 水晶が淡々と言うところが世にも恐ろしかった。水晶は辛い気持ちを押し殺しているのだ。リズは震える手で水晶に触れた。
「校長先生はどんな魔法を使うつもりなの?」
「生命転魔(せいめいてんま)、自らの命を魔力に変換する魔法ですわ。強大な魔法力を得る代わりに命が削られてゆくのです」
「そんな……。校長先生、あなたはそこまでしてあの子たちのことを……」
 リズは目を固く閉じて校長の無事を一身に祈った。



 校長の目の前には宇宙を彷彿(ほうふつ)とさせる深い闇が広がっていた。普通の闇ではなかった。見ていると魂が吸い込まれそうな闇、母のかいなのように包み込んでくる優しい闇、あらゆる命を生み出す大いなる闇、侵入者の命を容赦なく砕く恐ろしい闇、そして凄まじい拒絶の意思、校長は闇が突如叩きつけてきた突風と共に恐怖の衝撃を受け、無意識に足が下がりその背が石造りの壁に支えられた。彼の目の前にあるアーチを描く入り口の先に何も見えぬ闇があり、それは禁を犯すものを捕食しようとする獣の口のようにも見えた。
 はるか昔に闇に触れた記憶と感覚は決して消えない傷のように校長の脳裏に刻まれていた。校長はゆっくりと目を開けた。彼は丸一日図書館を歩き続け、今は本棚を背にして座っていた。そして十分に体を休めると、立ち上がり再び奥へと歩を進める。一人で図書館をさまよい歩いていると、昔のことが次々と思いだされた。
 ――わしは多くの魔法つかいと共に図書館を調査した。その目的は多岐(たき)にわたったが、一番の眼目は虚無の時代に関する書を探すことにあった。わしと共に図書館に入った魔法つかいは、みな優秀な者たちだった。誰もが魔法界の知られざる歴史への探求に胸を躍らせておった。事実、魔法界の歴史に関する書はいくつも見つかった。だが、もっとも肝心な虚無の時代に関わる書はどうしても見つけることができなかった。探求心の深き魔法つかいたちは諦めずに探索を続け、ついにあの扉を見つけてしまった。