魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
真横に吹っ飛んだ巨体が長い尾を引いて下降し始める。それにミラクルとマジカルが素早く接近する。
『リンクルステッキ!』
二人は同時にリンクルステッキを手にすると、同時にリンクルストーンを呼んだ。
「リンクル・ペリドット!」
「リンクル・アクアマリン!」
ミラクルとマジカル、同時の魔法で木の葉の流れと冷気がからみあい、螺旋になってヨクバールに命中した。巨体を包み込むように貼りついた葉っぱが瞬く間に凍り付き、ヨクバールの動きを完全に封じる。青と黒、4人のプリキュアがヨクバールの一点を目指して集まってくる。全員が下に広がっていた雲を突き抜けて、二組のプリキュアがそれぞれのパートナーと右手と左手を固く結んだ。4人の気合が一つになって、結合した二つの拳がヨクバールの胸と腹を打つ。
「ヨクーーーッ!!?」
いなないた怪物が、凍った葉と氷の破片をまき散らしながら海に墜落した。上空にいるプリキュアたちに届くほどに水しぶきが高く上がった。
地上にいたリアンとモフルンが、雲を抜けてきたプリキュアたちを見あげていた。リアンは二人の黒いプリキュアを見つめていった。
「あれが、彼女たちのプリキュアとしての姿なのか」
ダークネスとウィッチの姿は闇を連想させるが、リアンの目にはそれが神聖なもののように映った。そして、二人がミラクルとマジカルと一緒にいても、違和感がなかった。
「みんな一緒モフ!」
モフルンがプリキュアたちの姿を見つけて走り出すと、ミラクルとマジカルが気持を一つにして頷いた。
『リンクルステッキ!』
まっすぐに立てたリンクルステッキを、右側のミラクルが右手に、左側のマジカルが左手にそえる。二つのステッキにダイヤが存在していた。二人の動きに合わせるように、モフルンの胸のサファイアが青い光線を四方に放つ。
「モッフ〜〜ッ!」
可愛らしい姿で両手と両足をいっぱいに開いたモフルンのサファイアがさらに強く輝き、光の波紋を広げるのと一緒に、サファイアから細く吹き上がる噴水のような青い閃光が天空へと放たれる。同時にサファイアの光が周囲を満月が映る湖面のような、深く青い空間へと誘う。
空中にいるミラクルとマジカルがリンクルステッキを合わせると、交差したステッキの間から青の中で輝く満月がのぞく。モフルンから放たれた閃光が、下から二人のリンクルステッキにぶつかった。瞬間、光と清水で織ったかのような輝きの羽衣が広がり、それが二人のステッキのダイヤを包み込み、サファイアへと姿を変えた。
リンクルステッキの先端に穏やかな青い光りが灯り、ミラクルとマジカルはそれを手にしながら向かい合い、もう一方の手をやわらかくつないだ。二人の間から水を打つような青い波紋が広がっていく。
『サファイア、青き知性よわたしたちの手に』
ミラクルとマジカルが手をつなぎ、花束を捧げるように出したステッキの光がより強く美しく輝いた。
モフルンの胸のサファイアが再び閃光を放ち、輝く水のような涙の形の光を広げていく。
『フル、フル、リンクル』
ミラクルとマジカルが一緒にステッキ振って、光の線で描いていく。そして、完成した二つの涙の光が強い輝きを放ち、二つの涙が一つに重なって大きくなり、青く澄んだ涙の輝石を召喚した。
海から飛び出してきたヨクバールが闇色の波動をまとい、ミラクルとマジカルに向かっていく。ヨクバールが宙に広がった青く輝くハートの魔法陣と重な、その動きを完全に封じられて時が止まったように停滞した。
飛翔したミラクルとマジカルは、満月を背にして涙の輝石の頂点に立った。青い宝石の上でミラクルとマジカルの手がつながり、二人の手首にある金の腕輪を月光が照らす。
二人が輝くリンクルステッキをヨクバールに向けると、足元の宝石が落涙のごとく落ちる。青い波紋と共にはじけた宝石が、左右から津波のような光を起こして一つになった。光は一瞬だけ青い真珠のように真円に輝き、そしてハートと五芒星の青い魔法陣に変化する。青い魔法陣の頂点にたたずみ月光を浴びるミラクルとマジカルの姿は人魚のように華麗だった。
『プリキュア・サファイアスマーティッシュ』
無数の青い光線が魔法陣の中央に集まっていく。最後に海岸の白砂のようにきらめく魔力の輪が円陣の中央に収束した。そして次の瞬間に、青い光が円の高波となって広がり、魔法陣の中心から噴出した青い光が、五条の激流となって放たれた。中央を貫く青い流れに、弧を描く他の流れが次々に合流すると、海竜サーペントのように長大な光のうねりとなり、真上からヨクバールを飲み込み、闇の波動を吹き散らす。
次の瞬間には輝く衣が幾重にも重なり、球状に織り上げられた衣の中にヨクバールは封印されていた。ミラクルとマジカルが手をつないだまま海の上に舞い降りて、頭上で交差させているリンクルステッキを左右に広げると、陽光を受ける雫のように輝く衣の球がぎゅっと小さくなってヨクバールを圧迫する。
「ヨ!? クッ!? バアァールッ!?」
ヨクバールの浄化の瞬間に虹のような光が広がり、後に起こった爆発がメシエ天体のように神秘的な光景を作り出した。その中から出てきたアイスドラゴンが、ゆっくり地上へと落ちていった。
「負けか」
上から戦いの様子を見ていたフェンリルが短く言った。特に悔しがるわけでもなく、無表情なところが少し不気味だった。彼女が首から下げている黒いタリスマンを口にくわえると、その姿は消え去った。
マジカルが海の上でふってきた闇の結晶をその手に収める。その近くにダークネスとウィッチが降りてきた。
「ファンタジック! さいっこうにきれいな魔法だったね!」
ウィッチがパチンと指をならして高揚する気持ちを伝えると、ミラクルとマジカルが微笑を浮かべる。
ミラクルは今度こそ分かり合えると思ってダークネスに近づこうとした。だが、赤い瞳にある激しい光が彼女の身を縛った。ダークネスは両手の拳に力を込め、突き刺さるような視線をミラクルに浴びせながら叫んだ。
「あなたはどうかしているわ!!」
その言葉に打ちひしがれたミラクルは瞼(まぶた)を下げて穏やかに揺れる海の波を見つめた。マジカルはダークネスの表情を注意して見ていた。
ミラクルに背を向けたダークネスが飛翔して、近くを飛んでいたリリンを回収する。後に残ったウィッチはミラクルが可哀そうで涙が出そうだった。ダークネスが離れていくと、ウィッチも飛んでその後を追った。
海上に獣の声が響く。マジカルはひゃっこい島の方向へ飛び立っていくアイスドラゴンの姿を見た。ミラクルは悲しい気持ちで水面を見続けていた。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ