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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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第2話 その出会いはファンタジック!


 みらいとリコの再開から少し時は戻る。
 暮れ行く時、夕日が地平線の向こうに沈もうとする頃に、小百合たちは街から少し離れた大きなお屋敷の前に立っていた。外門から屋敷までの距離はまだ遠い。闇に沈みゆく夕日の中で、レンガを敷き詰めた広い道の両側に満開の花を咲かせる桜の木が並んでいて、穏やかな風が花びらと花の香を運んでくる。その向こう側にある、まるでお城のようなたたずまいの家にラナの胸はときめいた。
「うわぁ〜、お城だよ! これはファンタジックだよ! なになに、小百合ってお姫様なの?」
「お姫様って、あんたどこの国の人よ……」
「魔法界の人だよ?」
 そういわれると、小百合は何とも言えない顔で口を開けたまま固まった。
「ん? どしたの?」
「何でもないわ、あんたの魔法つかい設定を忘れてただけよ。はっきり言っておくけれど、あれはわたしの家じゃないからね。居候(いそうろう)させてもらってるだけなの。だから、変な期待は持たないことね」
 投げやりに言う小百合をラナは見上げて首を傾げた。小百合は黙ってラナの手を引っ張って歩き出した。
「うわぁっ!?」
 急に手を引かれてラナは転びそうになった。

 屋敷の扉を開くと、内からあふれるシャンデリアの光が二人に降り注ぐ。広いロビーの床を飾る赤いバラ模様の絨毯(じゅうたん)、大理石の支柱の上に置いてある高価そう壺や、壁には何枚もの見事な絵画、目の前には2階に続く赤い絨毯の階段があるが、その幅は人一人が上るには広すぎた。
「うわぁ、やっぱりお城だよ〜、ファンタジックだよ! 本当にこんなところに住んでいいの?」
「はいはい、喜ぶのはまだ早いわよ。とにかく、お爺様にお話ししなければ」
 この時から、小百合の様子が妙であった。まるで、誰かに戦いでも挑むかのように真剣な目をしていた。それを見上げたラナはまた首を傾げた。
「お嬢様、いままでどこにいらしていたのですか? お帰りが遅いので心配いたしましたよ」
 メイドの格好をした、おかっぱ頭の黒髪の若い女が小百合に走り寄ってきて言った。掃除中だったらしく、モップを手にしていた。小百合は鋭い目でメイドをにらんだ。
「お嬢様はやめてって何度いったらわかるの?」
「あ、申し訳ありません、小百合さん……」
「すごい、メイドだよ! やっぱりここはお城なんだね!」
「お城じゃないから!」
 メイドを見て喜ぶラナに、小百合が突っ込む。
「そちらの方はお友達ですか?」
 小百合が何かいおうとする前に、ラナが勢いよく手をあげた。
「はい、小百合の友達のラナです! ついさっき友達になりました! わたし魔法つ…」
 小百合が慌ててラナの口を塞いでいた。
「魔法?」
 いぶかしい顔をするメイドに、小百合は言った。
「なんでもないわ、気にしないで!」
 小百合はラナを連行しながら2階をにつながる階段を上がっていった。
 2階の廊下で立ち止まって小百合はラナを見下ろして言った。
「あんた、何も知らない人に魔法つかいなんていったら頭がおかしい子だと思われるわよ。魔法の事はわたし以外の人にはいわないで」
「そっかぁ。でも、小百合はわたしのこと信用してくれたのに」
「信用したんじゃなくて、信用せざるを得なかったの! いきなり空飛ぶ箒に乗せられたんだからね!」
 そして二人は2階にある一番大きな扉のある部屋の前で止まった。
「とりあえず、その帽子は取りなさい。お爺様に絶対怪しまれるわ」
 ラナは素直に頷いて、赤紫のとんがり帽子をとった。すると、レモンブロンドの髪と可愛らしいポニーテールが現れた。大きな碧眼も相まって、本当に可愛らしい子だなと小百合は正直に思った。
それから小百合は真剣な顔で扉をノックした。
「誰だ?」
「お爺様、小百合です」
「入りなさい」
 ドアを開けると、そこは書斎であった。広い部屋の左右は本棚になっていて、奥に机が一つ、ドアの対面にはテラスに出られるガラス戸がある。白の背広姿の長い顎髭を蓄えた白髪の老人が、机の前で本を開いていて、メガネの奥から鋭い視線を部屋に入ってきた小百合に投げた。小百合は緊張した面持ちで、ラナを連れて老人の前に立った。
「お爺様、お願いがあります。この子はわたしの友達でラナと言います。理由があってしばらく家に帰れないので、このお屋敷に置いてあげたいのです」
 見るからに厳格そうな老人が眉間に皺を寄せてラナと小百合を交互に見た。小百合は怯みそうな自分の気持ちを奮い立たせて思い切って頭を下げた。
「どうかお願いします! ご迷惑はおかけしません、この子はわたしの部屋に居候させますから」
 真摯(しんし)に訴える小百合の姿に、ラナは感動して瞳が潤んだ。まだ会ったばかりで、そのうえ魔法つかいという素性が怪しいラナを、小百合は一つも疑うことなく目の前の老人を説得している。小百合はラナと少しの時間触れ合っただけで、ラナの明るさや素直さを感じ取っていた。
「勝手にするがいい」
 老人が言うと、二人の少女の顔に、同時に笑顔が花咲いた。
「お爺様、ありがとうございます!」
「おじいさん、ありがと!」
 ラナは両手を広げて小走りに机の横に回り、いきなり老人に抱きついて頬にキスをした。老人は目を見開いて驚き、想像だにしないラナの行動に小百合は蒼白になった。
「ちょっとあんた、何て恐ろしいことするのよ!」
 小百合は慌ててラナの腕を引いて老人から引き離し、そのままドアの方まで引っ張っていった。
「せっかくお許しを頂いたんだから、変なことしないで!」
「変なことなんてしてないよ」
「いいから、こっちにいらっしゃい!」
 小百合は出口の前で深々と頭を下げ、ついでにラナの頭も後ろから押さえつけて頭を下げさせた。
「お爺様、申し訳ありませんでした!」
 二人はあわただしく部屋を出ていった。老人は驚いた表情のまま少女たちを見ていたが、一人になるとラナにキスされて方の頬を触って微笑した。

 小百合はラナを連れて自分の部屋に直行した。小百合の部屋は屋敷の一階の一番端にあった。小百合はラナと一緒に部屋に入ってドアを閉めると、大きなため息をついた。
「ああびっくりした、あんたいきなりとんでもない事するんだもの」
「とんでもない事ってなあに?」
「見ず知らずの人にいきなりキスするなんて非常識でしょ!」
「だって、嬉しかったんだもん。だからお礼がしたかったの!」
 輝くような笑顔でいうラナに、小百合は怒るのが何だか悪い気がしてきた。
「……もういいわよ。荷物はその辺に置いて、そっちの壁にフックがあるから帽子をかけておくといいわ。洋服ダンスは空いてるところを適当に使っていいからね」
 ラナは言われた通りにとんがり帽子とマゼンダのストールをフックに掛けてから部屋の隅にあるベッドの上に座った。
「このベッド全然フカフカじゃないね〜」
「フカフカじゃなくて悪かったわね」
 小百合は襟元にあるピンクのリボンタイを取り、制服のブレザーを洋服ダンスに突っ込みながら言った。