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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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 ラナが落ち着いて部屋をよく見た。木造の床は生のままで絨毯などはなく、壁は全面白で丸い掛け鏡以外は飾り気が一つもない。窓は一つで、そんな部屋にベッドと勉強机と洋服ダンスだけがある。間取りは割と広いが、外から見た屋敷の優雅さからは想像できない質素さであった。
「がっかりしたでしょ? ここは使用人用の部屋なのよ」
「なんで使用人用なの?」
 ラナが聞くと小百合は黙ってしまった。小百合はあまり言いたくない様子だったが、ラナの隣に座り短い沈黙を破って口を開いた。
「それはね」
「あ、待って、わたしが当ててあげる! 実はあのお爺さんは血が繋がってなくて、毎日意地悪されてて、それで部屋もこんなんで、毎日の食事は一欠けらのパンと具のないスープ! そしてこき使われる小百合!」
「それはいくら何でも悲惨すぎるでしょ! あの方は正真正銘、わたしと血の繋がったお爺様よ。それに意地悪なんてされてないわ。わたしは自分から進んでこの部屋に住んでるの」
「ふ〜ん、そうなんだぁ、変なの」
 ラナは下唇に人差し指を置いて考えて、それから思いついたように言った。
「なんで小百合はおじいちゃんとお話しする時に、あんな怖い顔するの?」
「それは緊張するからよ」
「なんで緊張するの?」
「……お爺様が、わたしを嫌っているからよ」
 それを聞いたラナは大仰(おおぎょう)に驚いた。まるで信じられない気持ちが大きな碧眼の中によく表れていた。
「え〜っ!? うっそだぁ! 嫌いなわけないよ! わたしのおばあちゃんは、孫は目に入れても痛くないって毎日いってたよ!」
「それは、普通はそうなのかもしれないけれど、わたしは普通じゃないのよ」
「何が普通じゃないの? 教えて!」
 小百合はラナから顔をそらしていった。
「今は言いたくないわ」
「じゃあ言わなくていいよ。その代わり、わたしの秘密教えてあげる、秘密その2だよ!」
「あんた、話の流れがおかしいわよ……」
「聞いてほしいんだよ〜、秘密その2!」
 ラナは腰につけているピンクのポシェットを開けて、中から美しく輝く石を何個も出して、ベッドの上に広げた。
「じゃーん、すごいでしょ!」
 ラナは得意げな顔で両手を広げて言った。
「これは、本物の宝石だわ」
 宝石は全部で六つ、オーバルカットの青色の宝石、夕日のように濃いオレンジ色の宝石、半球形の草色の宝石、同じく半球形で3本の光の線が宝石の中心で交差している赤い宝石、開花した薔薇の形の薄ピンク色の宝石、黒地に七色の輝きを宿す丸形の宝石、全ての宝石が銀の台座にはまっていた。
「リンクルストーンっていうんだよ! わたしはこれを探すために魔法界とナシマホウ界を旅していたんだぁ」
「リンクルストーン? そんな名前のジュエリー聞いたこともないわ」
「ジュエリーじゃないよ、魔法を込めた特別な宝石だよ。特別なリンクルストーンがあれば、伝説の魔法つかいプリキュアになれるっていう噂もあるんだ〜」
「伝説の魔法つかいプリキュア? なんなのそれ?」
「ええぇっ、プリキュア知らないの!?」
 ラナは掛け算九九ができない中学生でも見るように目を丸くして驚いた。それに対して、小百合は憮然(ぶぜん)として言った。
「知らないわよプリキュアなんて、聞いたこともないわ」
「魔法界では知らない人はいないんだけどな〜」
 その時に、小百合はラナのポシェットにまだ何か入っているのに気付いた。
「そっちの黒い石は何なの?」
「あれ? 小百合、この黒い石みえるの?」
 ラナが妙なことを言うので、小百合は意味が分からず眉をひそめる。
「見えるわよ、当たり前でしょ」
「よく分かんないんだけど、この石は魔法つかい以外の人には見えないみたいなんだよ。小百合は魔法つかいなの?」
「そんなわけないでしょ!」
「おかしいなぁ、まあいいや。この黒いのはナシマホウ界のあちこちにあったからついでに集めたの。魔法の力を感じるから、何かの役にたつかな〜と思って」
 小百合はポシェットに沢山はいっている魔法つかいにしか見えないという黒い石の一つを手に取って見た。それは上下の先端が尖ったいびつな多面体で怪しく黒光りしていた。
「何だか嫌な感じのする石ね」
 小百合が黒い石を見ている間に、ラナはポシェットから今度は二組のブレスレットを取り出した。両方ともに六芒星の飾りが付いた金色の腕輪で、中央に真円の金の台座があり、その上に黒地の中に白の線で六芒星と模様が描かれている。二重円の中に六芒星があり、六芒星の中心に三日月、内円と六芒星の間の隙間に六つの星、内円と外円の間に奇妙な文字が刻まれていた。
「これあげる!」
 ラナは片方のブレスレッドを小百合に差し出した。
「こんな高価そうなものもらえないわよ」
「おばあちゃんが言うには、家に先祖代々から伝わる家宝なんだって!」
「そんな大切なものを軽々しく他人にあげるものではないわ」
「おばあちゃんがね、本当に大好きなお友達ができたら、片方をその人に渡しなさいって言ってたの。わたし小百合のことが大好きだよ。優しいし、頼りになるし、一緒にいると安心する」
 小百合はラナの言葉に心を動かされ胸が温かくなる感じを覚えながら、冷静さを保って言った。
「あんた、わたしたちはさっき会ったばかりじゃない」
「時間なんて関係ない、わたしは小百合のことが、大大大好きなの!」
 大きく手を広げて言うラナを、小百合は抱きしめたいような気持ちを抑え、代わりに胸に手を置いて言った。
「わたしもラナのことが好きよ。一緒にいると明るくなれるし、とても楽しいわ」
「じゃあ、これ!」
 ラナが満面の笑みで差し出したブレスレッドを、小百合は受け取った。小百合は右手に、ラナは左手にそれぞれブレスレッドを付けた。二人の少女は、お揃いのブレスレッドを見せ合って微笑んだ。

 ラナが小百合の屋敷に来た次の日は日曜日だった。長旅で疲れ切っていたラナは、昼近くまで寝ていた。ラナは起きてから星マークをちりばめたピンクの寝間着姿のまま、ベッドの上に座り込んで目をこすっていた。それからあたりを見ると、部屋には誰もいなかった。ラナばベッドのそばに用意してあった黄色いスリッパをはいて、小百合の姿を探して廊下に出た。右、左と廊下を見渡して、ラナは改めて屋敷の広さを実感した。それから窓に駆け寄って外を見ると、玄関前で黒っぽい服を着て箒ではいている小百合の姿を見つけた。ラナが玄関口まで走って扉を開けると、小百合はすぐ近くにいた。昨日の制服姿とはうってかわって、今日は白いフリルの付いたスカートに黒のワンピースに白いエプロン、頭には白いカチューシャを付けたメイドの姿になっていた。腰には大きな水色のポシェットが付いていて、ラナはそれが気になった。
「ラナ、おはよう。よく眠れたみたいね」
「小百合がメイドになってる! やっぱりこき使われてたんだ!」
「違うわよ! 自分から進んで掃除してるの!」
「なんで?」
「なんでって、そうする必要があるからよ……」
「ふ〜ん、よくわかんないけど、小百合は大変なんだね」
 それからラナは、小百合の腰の方に目をやった。
「そのでっかいポシェットなに? なにが入ってるの?」