魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「なんか声が聞こえる!?」
ウィッチにも同じ声が聞こえていた。
(考えている暇はありませんよ。あなた達の持つリンクルブレスレッドでリンクルストーンの魔法の力を引き出すことができます。さあ、リンクルストーンに呼びかけるのです)
ダークネスは謎の声が言った意味をすぐに理解した。
「そうか、ダイヤの他にもリンクルストーンがあったわ」
「わたしが集めたリンクルストーン!」
ダークネスとウィッチは顔を見合わせて頷き、互いにブレスレッドのある手を横に振った。
「リンクル・ローズクォーツ!」
ダークネスの呼びかけに応じて、ブレスレッドの中央に開花した薔薇の形をした薄桃色の宝石が現れる。
「リンクル・オレンジサファイア!」
ウィッチのブレスレッドには夕日色に輝く宝石が現れた。二人は同時にジャンプして、地上のヨクバールに向かって宝石輝くブレスレットのある手をかざす。するとダークネスの手から切れ味鋭い水晶の花びらが無数に現れ花吹雪となり、ウィッチの手からは螺旋状の炎が吹き出す。そして、炎と花びらがヨクバールに降り注いだ。
「ヨ、ヨクバール!!」
この時にボルクスがようやく姿を現した。彼は自分が召喚したヨクバールが二人の魔法を受けて動けなくなっているのを見て目をむいた。
「なんだなんだ!? 俺のヨクバールがやられてやがるぞ! あの黒い奴らは何なんだ!? さっきのガキどもはどこにいった!?」
ボルクスの見てる前で二人は同時に着地する。そしてウィッチが言った。
「きいてるきいてる!」
「でも、ヨクバールを倒すには威力が足りないわ」
(大丈夫です。あなた達は闇の魔法に対抗する手段を持っています。二つの魔法を一つに合わせてより強力な魔法を創造する事ができるのです。それが宵の魔法つかいプリキュアの持つ力です)
「わかりました、やってみます」
ダークネスが答える。するとまた声が聞こえてきた。
(相性の悪い魔法を組み合わせると威力が弱くなったり、最悪の場合は自分たちがダメージを受けたりするので気を付けて下さいね)
「あの〜、いい魔法の組み合わせとかは教えてくれないの?」
ウィッチが言うと、女の声が少し間をおいて答えた。
(それは自分たちで試しなさい)
「無茶ぶりすごいよ声の主!」
「とにかくやるしかないわね。ローズクォーツとオレンジサファイアはいけそうな気がするわ」
「うん、わかった! ダークネスを信じるよ!」
「じゃあ気合入れていくわよ!」
プリキュア達の魔法を受けて苦しんでいるヨクバールにボルクスが近づいていく。
「何してやがるヨクバール、さっさとあの黒いのを倒しちまえ!」
「ギョイーーーッ!」
ボルクスの命令でヨクバールが二人に向かって走り出した。迫りくる敵を前に、ダークネスとウィッチは後ろで左手と右手を繋ぎ、ブレスレットを頭上で重ねた。
『二つの魔法を一つに!』
ダークネスは上から右に、ウィッチは上から左に向かってブレスレッドで半円を描いていく。二人の手が下で重なり合ったとき、赤く輝く半円と薄ピンクの輝きの半円が合わさって美しい円が現れていた。今度は円の中に赤と薄ピンクの正三角が現れて六芒星を作り、その中心に薄ピンクの三日月、六芒星と円の間隙に赤い星マークが次々と現れ、瞬く間に月と星のヘキサグラムが出来上がる。ダークネスとウィッチが魔法陣の前でブレスレッドを重ねれば、赤と薄ピンクが織りなす六芒星が輝きを放つ。
『赤く燃え散る二人の魔法!』
二人は繋がる手を更に固く握り合い、ブレスレッドの手を前に出して叫んだ。
『プリキュア・クリムゾンローズフレア!』
魔法陣から深紅に燃え上がる無数の花びらが吹き出し、赤い嵐となって迫っていたヨクバールにぶつかった。燃える花びらはヨクバールの周りに集まって凄まじい竜巻になる。そしてヨクバールは深紅に燃える花びらと一緒に上へと吹き飛ばされ、次の瞬間に漆黒の宇宙空間へ誘われた。
「ヨク……バール……」
無数の燃える花びらはヨクバールの周りで一瞬動きを止め、一気にヨクバールに向かって集まり、大爆発を起こした。そして太陽のように赤く燃え広がる炎の中から闇の結晶と子犬が白い光に包まれて飛び出してきた。
「やったやった、倒せたよ!」
ウィッチは嬉しさのあまりその場で飛び跳ねていた。二人のプリキュアがヨクバールを浄化したこの時に、みらいがその場に駆けつけた。ダークネスは空から降ってきた闇の結晶を取り、ウィッチは子犬の方を受け止める。ヨクバールの浄化によって破壊の跡も元通りになっていった。
「よかった、子犬はぶじだよ」
「なんとか撃退できたわね……」
ボルクスは地団駄を踏んで悔しがっていた。
「俺のヨクバールが倒されるとは!? あいつら何なんだ!? ええい、覚えてやがれ!」
ボルクスが指を鳴らすと、彼はその場から忽然(こつぜん)と姿を消した。
人々が逃げ出してしまった公園は静まり返っていた。春風が渡り満開の桜がざわめき、舞い散る花びらが周囲に鮮やかな色をそえる。その中で、ダークネスは後ろで見ていた少女に気づいた。みらいはラベンダー色の大きな瞳で黒いプリキュア達を見つめていた。
「およ?」
ウィッチもみらいの姿に気づく。
「プリキュア……」
それはささやくような声だったが、ダークネスはしっかり聞いていた。
「どうもどうも」
ウィッチがみらいに手を振る。ダークネスは踵(きびす)を返し、みらいに背を向けて言った。
「行くわよウィッチ」
「は〜い」
二人は公園の外に向かって大きく跳躍してみらいの前から姿を消した。
二人は芝生公園の外れの方にある菜の花畑に着地した。黄色くて小さな花々が無限のように広がるこの場所では無数の白や黄色の蝶が舞い踊る。そこへ場違いに思える黒猫のぬいぐるみが上から降りてきた。リリンは黒い羽を動かして宙に浮きながら言った。
「二人ともよくやったデビ、リリンは二人を信じていたデビ」
それを聞いたダークネスが苦虫を噛んだような顔になる。
「あんた、わたしたちをピンチに追い込んでおいてよくいうわね」
「そういうことは気にしちゃだめデビ」
リリンは微笑を浮かべながら右手を前に出し、ピンクの星型の肉球を見せながら茶目っ気たっぷりに言った。その時、リリンのリボンの中央にある黒いダイヤが離れて、二人は一瞬で元の姿に戻る。
「あ、戻った!」
「プリキュアの力が必要なくなれば元に戻るみたいね」
浮遊していた黒いダイヤのリンクルストーンが、ゆっくりとラナの手のひらに落ちてきた。小百合はリリンを胸に抱いてから言った。
「それにしても、どうなってるの? リリンがいきなりしゃべったり、わたしたちがプリキュアに変身したり……」
「リリンもわからないデビ、ダイヤが光ったらこうなっていたデビ」
「この黒いダイヤのリンクルストーンのせいなのかな?」
「そもそも、このリンクルストーンはどうして空からふってきたのよ」
その時、二人の目の前の地面に月と星の六芒星が広がる。そして、その上に唐突に金の錫杖を持った黒いドレス姿の女が出現した。目を閉じて穏やかな笑顔を浮かべる長い紫銀の髪の女性が何者なのか、小百合もラナもなんとなくわかった。
「二人とも見事でした」
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ