魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦
「その声は、無茶ぶりの人!」
「はい、無茶ぶりの声の主です」
ラナの失礼とも思える発言に、女性は穏やかな笑顔のまま答える。彼女の持つ優しさが辺りの空気を何ともいえず心地の良いものに変えていた。小百合もラナもそれを感じていて、いきなり目の前に現れた女性に対して警戒もしなかった。小百合は女性に言った。
「あなたは何者なんですか?」
「わたくしの名はフレイア、闇の女神です」
「女神様!? すごいよ小百合、女神様だって、ファンタジックだね!」
「ラナの気持ちはわかるけど、ちょっと静かにしてて、色々聞きたいことがあるわ」
小百合はラナからリンクルストーンを受け取り、それを女性に見せた。
「この黒いダイヤのリンクルストーンはあなたのものですか?」
「それは、わたくしがあなた達に与えたものです。今はもうあなた達のリンクルストーンです。あなた達にはプリキュアになる資格があった、だからブラックダイヤがあなた達を導いたのです。そのぬいぐるみが意思を持ったのも、ブラックダイヤの力によるものです」
「このブレスレッドやラナの持っているリンクルストーンがあったから、わたしたちはプリキュアになれたっていうこと?」
「それは違います。あなた達にプリキュアになる資質があったから、リンクルストーンがあなた達の元に集まり、リンクルブレスレッドがその力を引き出したのです。プリキュアに最も必要なものは互いを思い合う相手がいることです。あなた達の心は強く結ばれています。故にプリキュアになることができたのです」
「はい、わたしも質問!」
ラナが手をあげて一歩前に出た。
「はい、どうぞ」
「わたしたちのことよいの魔法つかいっていってなかった? でんせつの魔法つかいじゃないの?」
フレイアは微笑のまま答える。
「あなた達は宵(よい)の魔法つかいプリキュアです。魔法界で語られている伝説の魔法つかいプリキュアとは別の存在です。プリキュアであることには変わりありませんが、宵の魔法つかいは魔法界の歴史から消されてしまった存在なのです。リンクルステッキ、リンクルスマホン、七つの支えのリンクルストーン、四つの護りのリンクルストーン、そしてリンクルストーンエメラルド、伝説の魔法つかいにまつわるアイテムは数多く語り継がれていますが、あなた方が持つリンクルブレスレッドやリンクルストーンは、魔法界に存在するどのような書物を紐解いても見つけることはできません。宵の魔法つかいに関する手掛かりは、今の魔法界にはほとんど存在しないのです」
「何であなたはそんなことを知っているんですか?」
小百合が聞くと、フレイアは黙った。変わらぬ微笑の中に、暗い陰が差したように見えた。
「わたしは闇の女神です。陰から連綿(れんめん)と続く魔法界の歴史を見てきました。その中には失われた歴史も含まれています」
「どうして宵の魔法つかいは魔法界から消えたんですか? その失われた歴史と関係あるんですか?」
「それはですね」
フレイアが言うと、小百合とラナはうんうんと頷く。
「あまりに遠い昔のことなので忘れてしまいました」
「ええ〜、ここまで引っ張っておいてそれはないよ〜」
ラナが不満いっぱいの顔で言うと、フレイアはやっぱり微笑しながら答える。
「そんなことよりも、あなた達にはわたくしのお手伝いをお願いしたいのです。でも、無理強いはしません。あなた達がわたくしを信用できると思うのなら力を貸して下さい」
すると小百合は胸に手を置いてやうやうしい態度を取った。
「あなたはわたしたちの命の恩人です。ブラックダイヤがなければ、わたしたちはきっと助からなかった。わたしたちにできる事なら、なんでもやらせて頂きます」
「ありがとう、感謝します。あなた達には闇の結晶を集めてもらいたいのです」
フレイアはラナの方に顔を向ける。フレイアは目を閉じているのに、ラナにははっきりと目で見られているような視線を感じた。
「すでにあなたは沢山の闇の結晶を持っているようですね」
「闇の結晶って、もしかしてこれ?」
ラナがポシェットから黒い結晶を一つ取り出すと、フレイアは頷いた。
「それは、人間が自ら生み出した闇の遺産です。放っておけばナシマホウ界を滅ぼすかもしれません」
「これって、そんなに危ないものだったの!?」
「闇の結晶は人間の闇の感情エネルギーが地中に染み込み、長い年月をかけて結晶化した闇のエネルギーの集合体なのです。人間の歴史には多くの悲しみ苦しみがありました。幾度となく戦争も行われ、数えきれない命が失われていった。その為に生まれた闇のエネルギーは膨大な量になります。今、ナシマホウ界に蓄積された闇エネルギーは飽和状態(ほうわじょうたい)に達しています。その為に、闇の結晶が地上へと現れているのです。幸いなことに、闇の結晶の出現はこの町のみに集中しています。闇の結晶を集めて封印していけば、ナシマホウ界は助かるでしょう。それよりも問題なのは、闇の結晶を狙っている者たちの存在です」
「闇の結晶を狙っている奴って、さっき化物を呼び出した大男のことですね」小百合が言った。
「あのオーガは闇の王の手先にすぎません」
「闇の王?」
「王の名はロキ、強力な闇の魔法を操る男です。闇の結晶は闇の魔法の力を増幅させる媒体となります。あの男が全ての闇の結晶を手にすれば、ナシマホウ界はおろか魔法界まで滅ぼされてしまうでしょう」
「だったら、できるだけ早く闇の結晶を集めないといけないわね」
「闇の結晶を集めるのならば、必ずロキの部下と戦うことになります。十分にお気をつけなさい」
そこでラナがフレイアの前に出てきてポシェットを手にもってカバーを開ける。
「じゃあこれはフレイア様にあげるね」
フレイアは頷くと、錫杖を高く掲げた。そうすると錫杖の先端に付いている赤い花の宝石から円が広がって小さな魔法陣となると、ラナのポシェットから次々と闇の結晶が浮き出て魔法陣に吸い込まれて消えていった。全ての闇の結晶を吸い上げた後にフレイアは言った。
「必要なだけの闇の結晶を集めてくれたあかつきには、願いを一つだけ叶えて差し上げましょう。何でもとはいきませんが、大抵のことは叶えてあげられますよ」
それを聞いた小百合は視線を落としてしばらく考えていた。やがて小百合は意を決して言った。
「亡くなった人を生き返らせる事は可能ですか?」
「それは亡くなった時期によりますね。肉体を失った命は常にどこかの世界へ生まれ変わるものです。ですから、何年も前に亡くなった方を蘇(よみがえ)らせることは出来ませんが、つい最近亡くなった方であれば可能です」
「それなら!」
小百合はいいかけていた言葉を飲み込んで急に黙った。ラナが気になって小百合の顔を見つめる。
「どしたの、小百合?」
「……わたしだけお願いするわけにはいかないわ」
「だったら、わたしがお願いするよ」
そして、ラナはフレイアに自分の願いを言った。
「小百合のお母さんを生き返らせて!」
「ラナ!?」
「小百合はとっても素敵で大好きなお友達だよ。そんな小百合のお母さんに、わたしは会ってみたい。だから、小百合のお願いがわたしのお願いだよ」
小百合は瞳に涙を溜めてラナを強く抱きしめる。
作品名:魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦ 作家名:ユウ