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魔法つかいプリキュア!♦ダークジュエルストーリー♦

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「無理だと思うわよ。うちの学校は私立の進学校だから編入試験とかあるわよ」
「試験は嫌だな〜」
「じゃあ諦めなさい」
 小百合がぴしゃりと言うと、ラナは不満そうに頬を膨らませる。その後でラナは何かを思いついて笑顔になった。
「小百合のおじいちゃんにお願いしよう!」
「はあ? あんた何いってんのよ、そんなの無理に」
 小百合が言い終わらないうちにラナは忙しなく部屋を出ていく。小百合は開けっ放しにされたドアを唖然となって見ていた。
 小百合が制服で部屋を出る時になって、二階から駆け下りてくる足音がどんどん近づいてきた。そして、ラナが満面の笑みで部屋に走り込んでくる。
「学校行っていいって!」
「ええっ、嘘でしょ!?」
「すぐに学校行けるようになるって! 一緒に行こうね、小百合」
「あの学校に試験も受けずに入るなんてあり得ないわ……」
 小百合はいくら何でも冗談だろうと思ったが、同時にあの厳格な祖父(そふ)がそんな嘘をつくとはとても思えなかったし、ラナの願いを聞いたことにも驚いていた。それは小百合が祖父を血も涙もない人のように考えていたからであった。
 小百合は胸に疑問の渦を巻きながら食堂に入っていった。私服に着替えたラナが小百合の後ろから駆け込んできて、小百合よりも先にテーブルの前に座る。するとラナはなぜか隣の椅子を気にして見ていた。小百合がテーブルの前までくると、料理を運んできた巴が急に青い顔になって言った。「小百合さん、さっきそこにぬいぐるみってありましたっけ?」
 小百合がはっとして見ると、小百合の椅子にリリンが座っていた。小百合は慌てて言った
「い、嫌ねぇ、わたしがリリンを大切にしていることは知ってるでしょ、この子はいつでもわたしと一緒なのよ!」
 小百合はリリンを素早く抱いて巴に背を向ける。
「ちょっと失礼するわ」
 小百合は速足で廊下に出て、リリンを両手で持ち上げて見た。
「部屋から出ないでっていったでしょ!」
「リリンも朝ごはん食べたいデビ」
「後でもっていってあげるから、お願いだから部屋にいてちょうだい。誰かに見られたら大変なことになるんだからね」
 母の仏前に上げるという理由で、巴にお願いしてもう一人前の食事を作ってもらうことになった。亡くなった母に申し訳ないやら、リリンが見つからないか心配やらで心労が絶えない小百合であった。
 その後、屋敷では本当に霊媒師を呼ぶ騒ぎとなっていた。小百合は学校があるので、その騒ぎを尻目に外に出ることになった。

 その夜、小百合は制服から私服に着替えると、くたくたになってベッドに倒れ込んだ。朝の一件ですっかり参ってしまっていた。小百合の机の上に座っていたリリンがベッドの上に飛んできて言った。
「小百合、大丈夫デビ?」
「ちょっと疲れただけ、大丈夫よ」
 そこへ小百合とは対照的に元気いっぱいなラナが部屋に入ってくる。
「小百合、見て、わたしの制服! 明日から一緒の学校だよ!」
 ラナはまだビニール袋に入っている新しい聖ユーディア学園の制服を見せつけた。小百合はベッドに倒れたまま顔だけラナの方に向けて言った。
「本当に来るのね……」
 小百合は起き上ってベッドの端に座り長い黒髪をかき上げた。
「お爺様、どうやって試験もなしにラナをあの学校に入れたのかしら……?」
「小百合のおじいちゃんはすごい人デビ!」
「明日から学校、これはもうファンタジックだよ〜」
「学校に来るなら苗字がないとまずいわ」
「名前だけじゃだめなの?」
「こっちの世界ではどこの国でも苗字は必要よ。何か適当に考えなさい」
「小百合のみょうじはひじりさわなんだよね。小百合みたいにかっこいいのがいいなぁ」
 それからラナは、ベッドに座ってしばらく考え込んでいた。その間、疲れていた小百合はまたベッドに横になった。
「すっごいかっこいいの考えた! 前に小百合と一緒にファンタジックな夕日を見たでしょ、それを思い出してピンときたよ!」
「へぇ、それで?」
 疲れていた小百合が気のない返事をすると、ラナは両手を上げて得意げに言った。
「赤い夕陽のラナ!」
「かっこいいデビーっ!」
 リリンも感動のあまり万歳する。小百合は思わず起き上った。
「あんた達ちょっと待ちなさい、その名前はおかしいわよ」
「なんで? かっこいいでしょ?」
「それじゃ、まるでアニメか映画のタイトルよ。そんな名前を堂々と名乗ったら笑われるわ」
「むぅ、むずかしいなぁ」
 それからまたラナが真剣に考え込む。その時間は二〇分にも及び、小百合はまたベッドにダウンしてしまった。やがてラナは右手を上げて言った。
「すごくいいの考えたよ!」
「……今度はどんなの?」
 ほとんど眠りかけていた小百合が目をつぶったまま言う。
「小百合が考えて!」
「さんざん待たせておいて結局それ!?」
 小百合はまた思わず起き上っていた。
「だってむずかしいんだもん」
「仕方ないわね……」
 小百合は少し思考して言った。
「夕凪(ゆうなぎ)はどう? 夕方ごろに海に吹いてくる風を夕凪というのよ」
「ゆうなぎラナ! かっこいい!」
「素敵な名前デビ!」
「じゃあその名前で決まりね」
 小百合そう言いながらベッドの横に立ち上がる。
「ちょっと行ってくるわ」
「行くってどこに?」
「お母さんのところよ」
「リリンも行くデビ」
 リリンが飛んできて小百合の肩にしがみ付く。ラナも小百合の後について行くことにした。三人で二階にある一室へと足を運ぶ。その部屋はよく手入れされていて、床から部屋の隅々まで新築のように輝いていた。天蓋のあるベッドや大きな鏡の付いた化粧台、桐のタンスなどがあり、女性の部屋だということが良くわかる。その部屋の奥に仏壇が見えた。
「ここはお母さんが使っていた部屋よ」
 小百合とラナは仏壇の前に座った。仏壇の中には小百合によく似た長い黒髪の女性の写真が置いてある。小百合の母の百合江であった。小百合が仏壇の前で手を合わせると、ラナが首を傾げた。
「なんで頂きますするの?」
「頂きますじゃないわよ! 手を合わせるのは、感謝をしたり故人を悼(いた)んだり、特別な意味を込める時にすることなの」
 小百合が気を取り直してもう一度手を合わせると、ラナも同じように手を合わせて目を閉じた。その間、リリンは小百合の肩から仏壇の写真を見つめていた。
「リリンはこの部屋を知らないデビ。リリンは小百合とお母さんと過ごしたあの部屋を自由に歩いてみたかったデビ」
「リリン……」
 小百合はリリンを抱きしめた。リリンは小百合とお母さんが住んでいた六畳一間の古いアパートのことを言っていた。畳など擦り減っていて酷い部屋だったが、それでも二人にとっては思い出のある大切な場所だった。
「小百合、リリンはずっと謝りたかったデビ」
「謝る? リリンはわたしに謝るようなことなんてしていないわ」
「小百合が一人ぼっちになったとき、リリンは何もできなかったデビ。本当はリリンも一緒に泣いてあげたかったデビ」
「リリン、あなたもあれを見ていたものね……」